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二章
②④
しおりを挟むギルバートは楽しそうに手を合わせるアシュリーの姿を見て満足そうに笑った。
「……ねぇ、アシュリー」
「なぁに?」
「この件が終わったら、結婚式はどうしようか?」
「ギルバート、あなたはどうしたいの?」
「盛大な結婚式を開くのも楽しいかもしれないと思ったんだけどね……美しいアシュリーを見せびらかしたいけど見せたくない。複雑な気分だ」
「フフッ、でも国王陛下も王妃陛下もあなたの結婚式を楽しみにしていたわ」
「……そうだね」
本来ならば盛大に行われてもいいはずのギルバートとアシュリーの結婚式はまだ待ってもらっている。
「アシュリーが結婚式で本当の笑顔を見せてくれるまで僕はがんばらないとね」
「あなたの都合の良いように進めてちょうだい。わたくしはあの人たちが地獄のような苦しみを味わえばそれでいいの」
「アシュリー……」
「そのための協力は惜しまない。何でもする。何でもね……」
「アシュリーの気持ちはわかった。でも無理だけはしないでほしい」
「…………」
「今はただ幸せそうに笑っていてくれないか?」
「……わかっているわ」
「絶対に一人で思い詰めないで。僕に全部話して……お願いだ、アシュリー」
アシュリーはギルバートの微かに震える手を握る。
今は彼と出会った時のような良い子なアシュリーではない。
それなのにこうして約束を果たそうとしてくれている。
(馬鹿な人……こんなわたくしを好きになるなんて)
そんなギルバートの姿を見て可哀想だと思っていた。
「あなたとなら大丈夫……絶対にうまくいくわ」
「そうだね」
ギルバートを宥めるように頬を寄せた。
軽くリップ音を立てた後に深い深い口づけを交わす。
名残惜しそうに離れた熱……アシュリーの唇は綺麗に弧を描いた。
(これからどうなるのかしら……楽しみだわ)
今、アシュリーが生きているのか死んでいるのか……王家やオースティンにとってはどうでもいいことだろう。
今まではアシュリーの名前も思い出すことはなかったはずだ。
しかし追い詰められるほどにその存在を再認識することになる。
オースティンはアシュリーが幸せを掴んだと知れば、どう思うだろうか。
今は興味すらないだろうが、それが効果を発揮するのは彼が苦痛に顔を歪める時だろう。
王家にとってはユイナは異世界から舞い降りた本物の聖女なのだ。
彼女のおかげで寄生虫のように金を無心する不愉快なエルネット公爵家と関わりを絶つことができたのだ。
そう思うとユイナに感謝しなければならないのかもしれない。
エルネット公爵とアシュリーが完全に関係を絶ったことを知った貴族たちはどう動いているのだろうか。
治療できなくなった今、エルネット公爵家に媚びる必要はなくなってしまった。
治療目当てに群がっていた貴族たちはエルネット公爵を頼らなくなる。
そして治療に対する見返りは完全になくなることだろう。
同様にオースティンのために支払われていた王家からの金も消えた。
なのに二人は欲に溺れた生活を手放すことができずに今も派手な振る舞いを続けている。
今はペイスリーブ王家から受け取った大金があるからか、そのことに気づきもしない。
しかし山のような金もあれだけ浪費していればすぐに尽きるはずだ。
(あの人たちが落ちぶれるのも時間の問題ね……)
アシュリーが優雅に紅茶を飲んでいる間にも少しずつ少しずつ追い詰められていく。
毒が回って痺れ始めたことに気づきもしないで、パタリと体が動かなくなり倒れ込んでから悶え苦しむのだ。
それから助けを求めたとしても、すべてが手遅れ。
アシュリーは手の届かない場所にいる。
サルバリー王家も今回の件をきっかけに対策を取るかと思いきや、ユイナの力に頼りきりだそうだ。
(……馬鹿ね)
その力も徐々に失われていくのか楽しみである。
ユイナはどこまで耐え続けることができるのか、アシュリーはそれも楽しみで仕方ないのだ。
兄であるロイスと侍女のクララはアシュリーの幸せを心から喜んでくれている。
しかしギルバートとの約束やアシュリーがやろうとしていることを知ったらどう思うのだろうか。
ロイスとクララは、アシュリーが今からやろうとすることを知れば必ずダメだ、やめろと止めるだろう。
だから何もかもが終わるまで二人には何も知らないまま笑っていて欲しい。
地獄に足を踏み入れるのは自分だけでいいのだ。
(ロイスお兄様とクララだけは、絶対に守ってみせるわ)
ロイスとクララがこちらの様子に気づくことなく過ごせるようにギルバートはすぐに手を回してくれた。
終焉は一年以内には迎えることができるだろう。
唯一ストッパーだったロイスがエルネット公爵家からいなくなれば、もう誰も父と母を止められる者はいなくなる。
そうすればアシュリーの思惑通りというわけだ。
(今は幸せの絶頂にいるの……だけどね、わたくしがすべて壊してあげる)
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