捨てられた聖女の復讐〜みんな大っ嫌い、だからすべて壊してあげる〜

●やきいもほくほく●

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一章

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クララとロイスはいつも気に掛けて、アシュリーの身を案じてくれた。
それだけがアシュリーの救いだった。
そんな二人を心から信頼していた。
しかしついにアシュリーは今までの我慢の糸が切れてしまうように、ひどく体調を崩してしまう。

数日間、高熱に魘されたアシュリーの元には医師が何人も訪れたが原因はわからないまま。
食欲もなくなり憔悴する両親、クララが必死に看病するが体調は悪化していく。
王家の呼び出しにも応えられないほどに。
アシュリーが城で結界を張りに向かわないことで結界がなくなり、辺境には魔獣が入り込みはじめたらしい。

十年も平和でいたサルバリー王国には魔獣に対抗する術はすっかり鈍っていた。
王家からアシュリーをと言われて焦った父と母はアシュリーを無理矢理にでも王城に連れて行こうとするものの、アシュリーはそのまま意識を失ってしまう。

目が覚めたのは丸一日、経ってからだった。
クララがゆっくりと水を飲ませてくれたが、アシュリーが目覚めたことを聞きつけたことで両親が部屋に怒鳴り込んでくる。


「お前のせいで我々がどんな目にあったのか……!」

「どうしてわたしたちが責められないといけないの!?アンタのせいよ」

「…………え?」


状況がわからないアシュリーが両親から話を聞くと、国は魔獣によって荒らされて悲惨な状態らしい。
アシュリーが体調を崩して意識を失っている間、エルネット公爵邸の外には魔獣に襲われたと治療を求める民やアシュリーのせいだと責め立てる声で溢れ返り、王家からは公爵たちのせいだと責めらてひどい有様だと聞いた。
その後も二人は気が済むまでアシュリーに毒を吐きかけていた。

アシュリーは自分のせいだと責められて愕然としていた。
しかしそれよりも体調を崩す中、無理矢理城に連れて行かれそうになったことや、こうなったのはお前のせいだすぐに治療をする準備をしろ、城に行けと吐きかけられる言葉にシーツを握りしめて絶望感に苛まれていた。

(お父様とお母様は、わたくしがどうなってもいいというの……?)

アシュリーは悲しみで痛む心を押さえながらなんとか立ち上がる。
クララに止められたが、ふらつきつつも身なりを整えるために鏡台へ向かった時だった。
アシュリーの扉をノックする音。
また両親だろうかと返事ができないアシュリーだったが、クララが扉を開くと目の前にいる人物に驚いていた。
兄のロイスが隣国から急遽、帰って来てくれたのだと思った。
ロイスはディープブルーの瞳を歪めてアシュリーを抱きしめた。


「ロイスお兄様……?どうして」

「それはこちらの台詞だ!どうしてこんなになるまで黙っていたんだ!クララが教えてくれなければ……っ」

「クララ……」

「……申し訳ございません、アシュリーお嬢様」

「ううん、いいの。ありがとう、クララ」


二つ年上のロイスはアシュリーがこうなってから守ろうと必死に両親に食らいついては立ち向かってくれた。
ロイスと共に邸をこっそりと抜け出して、街に行ったのはいい思い出だ。
そしてもっとアシュリーは自由であるべきだ、邸に閉じ込めておくべきではないと主張して訴えかけてくれた。

しかしそんなロイスが邪魔に思ったのか両親は彼が十二の時から隣国、ペイスリーブ王国の六年制の学園に通わせ始めたのだ。
ペイスリーブ王国は大国で貴族たちは魔法を使える。
その魔法の力で国を守るとても珍しい国だ。
そしてアシュリーの母方の祖母はペイスリーブ王国出身で魔法の力を使えずにサルバリー王国に嫁いできたそうだ。
今年はロイスと同い年のペイスリーブ王国の王太子、ギルバートも学園に通っている。
そんな狙いもあったからなのかロイスは留学としてペイスリーブ王国の学園に通っていた。

魔法は使えないロイスだったが、ペイスリーブ王国では魔法の力だけに頼ってはいけない。
己の力に慢心しないようにと各国と交流を持っている。
その幅広い視野のおかげで魔法以外にも様々な技術を使い、国を発展させていた。
全寮制で規則も厳しい学園のため、滅多にエルネット公爵邸に帰って来られないロイスからは二週に一度は手紙が届いていた。

けれどアシュリーはロイスに心配を掛けないように平然を装って手紙の返事を返していた。
今年、十八歳になるロイスは学園を卒業する。
そしたらこの息苦しい生活からも少しは抜け出せるのではないかと思っていた。


「アシュリー……やはりもっとよく確認するべきだった。すまないっ」

「ロイスお兄様のせいではありません」

「体調は!?もう大丈夫なのか!?」


アシュリーの心配をするロイスの背後には背が高く体格のいい男性が立っていた。
フードを取るとそこから見えたのは白髪はオールバックにしてまとめている。
青い瞳は優しげにこちらを見つめている。
アシュリーはその男性を見て首を傾げた。

(どこかでお会いしたことがあるような……)

そんな思いもあり、ロイスに問いかける。


「ロイスお兄様そちらの方は……?」

「ああ、護衛として一緒にきてくれたんだ。友人のバート……だ」
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