冤罪で婚約破棄された公爵令嬢は隣国へ逃亡いたします!

●やきいもほくほく●

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1巻

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 一章 偽物の悪役令嬢


「──ロザリンダ・ビビエナ、貴様との婚約を破棄する!」
「なっ……!」
「心優しいオリビアをしいたげた挙句あげく、口を塞ぐために毒を仕込むとは、なんて卑劣なやり方なんだ」
「な、なにを……! ありえませんわ! このわたくしがオリビア様に毒を盛るなんて」

 周囲からは「まさかあのロザリンダ様が……」「嘘でしょう?」と驚きの声が上がっている。しかし心の中には、そんな声も気にならないほど疑問が浮かぶ。

(ここはどこ……?)

 見たことのない光景、知らない場所なのに、この展開になることがわかっていた。そんな不思議な感覚だった。次々に頭に浮かぶ映像と記憶……顔を上げた瞬間に、自分が今、どんな状況なのかを理解する。

(どうして私が〝偽の悪役令嬢、ロザリンダ・ビビエナ〟になっているの……?)

 チェリーレッドの髪と吊り目でミステリアスな紫色の瞳。気が強そうな表情と他者を威圧する圧倒的なオーラ。派手なドレスをまとうことを好んで、次期王妃として完璧な振る舞いを心掛けてきた公爵令嬢ロザリンダ。
 以前読んだ物語の登場人物だ。

「ロザリンダ、お前には失望した。嫉妬でおかしくなりこのようなことをしたのか」
「エリオット殿下、お待ちくださいませ! 詳しく話していただけたら、きっとわたくしの無実を証明できますわ」

『ロザリンダは何もしていない』『違う』と声に出したいのに、実際に口から出るのは違う言葉ばかりだ。

(嘘でしょう……? 私の意思とは関係なく口が動いてしまう。これじゃあ反論できないじゃない。勝手に喋らないでよっ!)

 思い通りにならない体に苛立ちが込み上げる。今は中身と体がバラバラに動いている状態だった。

「言い訳など聞きたくないっ!」
「言い訳ではございませんわ! わたくしにも弁解の余地を」
「黙れ……!」
「あ、あの……よろしいでしょうか」

 エリオットの後ろから顔を出したのは、プラチナブロンドのつややかな髪を腰までの長さに伸ばした少女だった。髪にはウェーブがかかっており、柔らかい印象を受ける。ピンク色の瞳を潤ませた、可愛らしいその少女を見て目を見開いた。
 彼女は子爵令嬢オリビア・デルタルト。ロザリンダの婚約者であるエリオットと平然と腕を組んでいる。
 ダークブルーの髪を掻き上げながら、あおい瞳を優しげに細めてオリビアを愛おしそうに見つめているのは、この国の王太子でエリオット・リード・ラフィだった。

「オリビアはまだ体調が優れないのだろう? 俺が守ってやるから、安心して後ろに控えていてくれ」
「エリオット様、ありがとうございます。私は大丈夫ですから、ロザリンダ様がどうしてこんなことをしたのか……訳を聞いてあげてくださいっ」
「オリビアはロザリンダに毒殺されるところだったんだぞ!? それなのに、こんな女のために……なんて慈悲深いんだ」
「きっと何か理由があったと思うのです。そうですよね? ロザリンダ様」
「オリビア様、あなたはご自分が何を言っているのかわかっているの?」
「もちろん、わかってますけどぉ……ああ、エリオット様、助けてください! ロザリンダ様がまたいつものように私をにらんでますっ」
「ロザリンダッ! オリビアにこれ以上、危害を加えるな。それに訳などありはしない! この女はただオリビアをうらやんでこんなことをしたに決まっているっ」

 一見すると、オリビアがエリオットを懸命にいさめているようにも見える。しかし口ではそう言いつつも、オリビアもまた〝ロザリンダ〟が犯人だと決めつけた発言をしていた。
 それに毒を盛られたにもかかわらず、しっかりと自分の足で立ち、可愛らしいピンクと白のドレスに着替えて、この場に立っていること自体、おかしいとは思わないのだろうか。二人の衣装はよく似たデザインだ。

(だから、違うって言ってるでしょう? どうして今までずっと自分を支えてきた婚約者の言うことを嘘だと決めつけて、簡単に裏切ることができるのよ……!)

 いくら心の中で叫んでも、その声がエリオット達に届くことはない。ロザリンダからはオリビアの唇がゆがんでいるように見える。ロザリンダがギロリとオリビアをにらみ上げると、肩を揺らしエリオットの背後に隠れてしまう。

「よって……ロザリンダ・ビビエナを処刑する!」

 エリオットの言葉にロザリンダは目を見開いた。そして震える唇を開いて声を上げた。

「エリオット殿下、お待ちになってください! わたくしは納得できませんわ」
「はぁ……最後までうるさい奴め。余計な手間をかけさせるな。もう証拠はあがっている。いくら言い訳しても無駄なんだよ」
「証拠、ですって……?」
「そうだ。ハリー、例のものを」
「はい、こちらです」

 エリオットの側近で宰相の息子であるハリー・テルータはかけていた眼鏡をくいっとあげた。ハリーがロザリンダに見せつけるように前に出したのは、見覚えのない小さな小瓶だった。

「この瓶が城にあるお前の控室から見つかったんだ……! これがオリビアを毒殺しようとした何よりの証拠となる」
「う、嘘よ……! わたくしはそのような物、知りませんわ」
「もう言い逃れはできないぞ、ロザリンダ」
「誰かがわたくしをおとしめるために用意したに違いありません! これは罠です。信じてくださいませ、エリオット殿下……わたくしではないのですっ」

 ロザリンダの紫色の瞳にはじんわりと涙が浮かぶ。

(違うわ。本当にロザリンダはやっていないのに……! それに毒を盛ったなんてありえない……物語はこんな流れじゃなかったのにどうして)

 あまりにも過激なエリオットの発言の数々。ロザリンダの断罪シーンは、ここまでひどいものではなかったはずなのに。
 このままでいけば、間違いなくロザリンダは本来の物語より重い刑に処される。
 物語が違う道へと進んでいた。そして明らかに〝ロザリンダ〟を消そうとしているように思えた。

「ハハッ、誰がそんな根拠のない嘘を信じるというのだ!」
「ロザリンダ様……あなたはオリビア様にくだらない嫌がらせを指示して、追い詰めようとしていたそうじゃないですか。ある令嬢が泣きながらロザリンダ様の仕業だと証言してくれましたよ。公爵令嬢として、未来の国母として恥ずかしくないのですか?」

 そんなハリーの言葉を聞きながら、必死で本来の物語の筋書きを思い出す。
 この物語においてロザリンダの見た目や役割は悪役令嬢そのものだが本当は無実。全てはロザリンダを利用して、オリビアを排除しようと動いている別の令嬢の仕業なのだ。
 つまり、本当の悪役に辿たどり着く前のフェイク。ひどい話ではあるが、ロザリンダは物語の途中で読者を惑わせて楽しませるスパイス……そして〝悪役令嬢〟として断罪されてしまう。
 幼い頃から次期王妃として厳しくしつけられたロザリンダは、王家のためにと身をにして努力をしてきた。自分の立場を守るために必死だったのだが、それを見ていた令嬢に上手く利用されてしまう。本来の流れならば、断罪パフォーマンスの後にロザリンダは一時、城の部屋に軟禁されることになる。
『弁解の余地を!』『必ずわたくしでないと証明してみせます』ロザリンダはそう言って、必死に抵抗した。
 勿論、彼女は毒殺をくわだてたわけではなく、断罪の理由も、令嬢達を扇動してオリビアを追い出そうとした、嫌がらせを繰り返した……というものである。
 しかし国王と王妃が帰って来る前に、城に乗り込んできたビビエナ公爵と夫人からロザリンダが強く責められた挙句あげく、激しい口論となりその場で除籍されてしまう。
 城を出て行った後、王家に尽くすことをすり込まれていたロザリンダは、髪を短く切って今までの自分を捨て去り〝今の自分に出来ることを〟と使用人として城の下働きとして働き始めた。
 一方、ロザリンダがいなくなったにも関わらず、オリビアへの嫌がらせは終わらなかった。再び調査が行われ、オリビアに嫌がらせしていた真犯人が見つかったことでロザリンダの無実が証明されるのである。
 皆、ロザリンダを責め立てて追い出したことを後悔して心を痛めていた。どんなに罪悪感を感じても、もうロザリンダはいない。
 そんな中、使用人として働いていたロザリンダに気づいたオリビアが涙ながらに謝罪した。そしてロザリンダを説得して、オリビアとエリオットに連れられて公爵家に向かう。
 ビビエナ公爵も夫人も謝罪の上、「もう一度、やり直していこう」と和解して、ロザリンダは再び公爵令嬢に戻る。
 それからロザリンダはオリビアとよき友人となり王家を支えていくと約束をするという感動的なストーリーになっている。
 確かに物語的にはヒロインであるオリビアに傷は残らないし、ロザリンダと仲直りをして友達になれば罪が許されて、納得のいく展開なのかもしれない。
 けれどエリオットがロザリンダを裏切ったことも、オリビアがロザリンダの婚約者を奪い取った事実も変わらない。そんな元婚約者とその浮気相手と仲良く肩を並べることができるだろうか。娘をかばいもせずに追い出した両親を許すことができるだろうか。
 この物語を読んだときに『私なら許せない』、そう思えて仕方なかった。
 しかし所詮、ロザリンダは物語を盛り上げるための脇役。つまりはヒロインの引き立て役でしかない。
 ヒロインが困難や間違いを乗り越えて王子と結ばれ幸せであれば、脇役の未来など気にならないことだろう。けれど、どうしてもロザリンダの我慢や努力が報われないことが悲しいと思った。

(ロザリンダの気持ちを考えたら納得できるわけないじゃない……!)

 最後まで読み終わる前にモヤモヤとしたものを胸に抱えてしまい、物語を読むのを断念してしまったことを思い出す。
 物語に不満を持っている〝私〟を〝ロザリンダ〟に転生させて、どうしたかったのかは不明だが、残念ながらロザリンダよりも善人でもなければ一方的に責められて許せるほど、心も広くない。

(こんな意味のわからない国、さっさと出て行けばいいのよ……! 全てを捨てて、自分の幸せのために貪欲に生きてやる!)

 ロザリンダがそんな決意をした時だった。

「──ぁっ!」

 突然、自分の意思で声が出せるようになったことに気づく。目の前で何かを偉そうに語っているエリオット達を気にすることなく、感覚を確かめるように手を何度か開いたり握ったりを繰り返す。
 そして先程とは違い、自分の思うままにロザリンダの体を動かすことができる。スッ……と何かに馴染んだような感覚に小さく息を吐き出した。

「もう一度言おう。ロザリンダ・ビビエナ、貴様との婚約を破棄して処刑する」
「…………」
「でもエリオット様、ロザリンダ様が可哀想ですよ?」
「オリビアはなんて優しいんだ。だがこの女の心配をする必要も心を痛めることもない。全ての悪の根源を排除しよう」
「エリオット様がそこまで言うなら、わかりました!」

 エリオットとオリビアは手を握り見つめあっている。すっかり二人の世界だ。そんな中、意外にもハリーが前に出る。

「エリオット殿下、お待ちください! 国王陛下とビビエナ公爵の指示なしに勝手に決めるべきではありません。まずはロザリンダ様に城に待機してもらい、指示をあおぎましょう」
「ハリー、ロザリンダはオリビアをここまで追い詰めて毒殺をくわだてたのだ。指示などなくとも結果は同じだろう?」
「ですが……っ」

 ハリーはエリオットを引き止めるように声を上げるが、エリオットはオリビアを前に気が大きくなっているのか、勢いに任せて言葉を発している。
 こうなってしまえば自分――ロザリンダがいくら違うと否定したところで意味がないだろう。
 物語では納得できずに声を上げ続けたロザリンダは最後まで抵抗していた。そして娘の話を聞きもしなかったビビエナ公爵達から除籍される運命だが、今回は毒殺をくわだてた罪も加わっている。

(どうすればここから抜け出せるの……? 処刑されるなんて絶対に嫌よ)

 ロザリンダは必死に考えを巡らせていた。

「それが嫌だったらこの国から出て行くんだな! まぁ、お前にできるわけないだろうが」

 エリオットのその言葉にロザリンダの肩がピクリと動いた。そして顔を上げてから口を開いた。

「かしこまりました。婚約の破棄、そして国外追放……エリオット殿下の指示に従いますわ」
「……!?」
「ですが、わたくしは無実です。それだけはよく覚えておいてくださいませ」

 突然、ロザリンダが手のひらを返したように、婚約を破棄することと国外追放を受け入れたためか、エリオット達の目は点になる。ロザリンダは、バイオレットのレースが折り重なっているドレスのすそを持ち、優雅にカーテシーをしてから扉へと向かった。
 今のロザリンダにとって国外への追放は願ってもない処遇なのだ。ロザリンダはエリオットをきつくにらみつけてから背を向けた。

「待てっ、ロザリンダ……!」

 再びエリオットの耳ざわりな声が会場に響く。無視しようかと思ったが、ロザリンダは笑みを張りつけたまま振り返る。

「…………何か?」
「己の罪を認めるのだな! 失望したぞっ」

 その言葉にロザリンダの眉がヒクリと動く。
 少し前の出来事を思い出していただきたい。自分はやっていないと否定するロザリンダの声をけたのはエリオットの方だ。胸ぐらを掴んで言ってやりたいことはたくさんあったが、今はこの国を出て行き、処刑を回避することが最優先事項だろう。

「わたくしは無実です。何度も否定いたしましたが、わたくしの言い分は全く聞いていただけないようなので」
「は……?」

 エリオットの王太子らしからぬ反応にロザリンダは怒りが込み上げてくる。記憶を辿たどればロザリンダはエリオットの尻ぬぐいばかりしている。

(その間抜け面を引っぱたいてやりたいわ)
「もうよろしいでしょうか? 失礼いたしますわ」
「ま、待て……! どこに行く気だ」

 何故か先程とは一転してロザリンダを引き留めようとするエリオットの行動に溜息を吐いた。ロザリンダが冤罪であることに間違いはないのだが、今はそれを証明する術はない。逃げれば立場が悪くなるかもしれないが、もしこれが本当に自分の知っている物語の中ならば関係ない。
 それにロザリンダは「自分は無実だ」と言いきったのだ。目撃者も十分だろう。このまま出て行った方が、エリオットやハリーの立場は悪くなるかもしれない。冤罪がわかった時にロザリンダがこの国にいなければ、同情はどちらに集まるのか、一目瞭然である。
 それを隠蔽いんぺいされようと別に構わない。そもそもロザリンダがいようといまいとエリオットとオリビアは結ばれるのだから関係ないではないか。

(……さっさと国を出て行きましょう!)

 これ以上、エリオットの顔を見ていたら暴言を吐いてしまいそうだ。それに不敬罪だ何だと言いかりをつけられたら厄介だ。ロザリンダはその場で高いヒールの靴を脱いだ。
 そして大きな扉に向かって一気に走り出す。バイオレットのドレスがヒラヒラと揺れてなびいていた。
 ヒールの高い靴を置いて裸足はだしで駆け出したロザリンダに、会場は唖然あぜんとして静まり返っていたが、ロザリンダは記憶を頼りに城の中を進んでいく。

(まずは着替えを手に入れなくちゃ……街でドレスは目立つわ)

 狙いは動きやすい侍女の服だった。駆け回っているとタイミングよく洗濯物を運んでいる侍女を見つけたため、すぐに声を掛けた。

「そこのあなた!」
「はい、どうされましたか?」
「お仕事中に申し訳ないけれど、少しだけお時間よろしいかしら?」
「──ロ、ロザリンダ様!?」

 髪やドレスが乱れて荒く息を吐き出しながら肩を揺らすロザリンダの姿に侍女は呆然としている。
 本来ならばパーティーにいるはずのロザリンダが何故ここにいるのか……そんな視線を向けられながらも息を整えていた。

「汗をかいてしまって……着替えを貸していただけるかしら?」
「けれどロザリンダ様には替えのドレスが……」
「あら、ちょうどいいわ。その手に持っている服を貸してくれないかしら?」
「……え? ですがこれは私たちの服で、もう捨てるものですよ?」
「これでいいわ。捨てる予定なら、ありがたくもらっていくわね」

 ロザリンダは予備のドレスをたくさん城に持ち込んでいる。つまりわざわざ侍女の服など借りる必要はない。しかし再びドレスに着替えたところでなんの意味もないのだ。

(急いでここから出なくちゃいけないもの……!)

 エリオットは馬鹿だがそばにいるハリーは頭が回る。ロザリンダの気高さや考えをよく知っているハリーならば、徹底的に抗議して城に残ると思っていたロザリンダのこの行動の意味がわからずにしばらくは動けないはずだ。ロザリンダならば徹底的に抗議して城に残ると思っているだろう。
 ハリーの『城に留めて指示をあおいだ方がいい』というアドバイスをエリオットが素直に聞かなくてよかったと安堵していた。

(一時的に城で拘束されたら逃げられないもの。それに今回は除籍だけじゃ済まないかもしれない。味方がいない状態で処刑を回避することなんて不可能よ)

 ロザリンダはそう考えながら戸惑う侍女にたたみかけるように頼み込む。
 あまりのロザリンダの勢いに、怯えたように頷いた侍女は震える手でロザリンダに侍女服を渡す。

「ありがとう、助かったわ。代わりに城にあるわたくしのドレスを全て差し上げるわ! あともう一つ、背中のホックと紐を外してくださらない?」
「え……!? あっ、あの……」
「急いで。お願い」
「はい、わかりました!」

 侍女にドレスの後ろのホックと紐を外してもらう。

「で、できました!」
「まぁ、ありがとう! では、わたくしは急いでるから。オホホホ」

 侍女を置いて、ロザリンダは着替えを持ったまま再び走り出す。はしたなかろうがマナーがなっていなかろうが関係なしだ。ロザリンダは今から貴族の令嬢ではなくなり、国を出て行くのだから。
 そして衣装部屋に入り込んで素早くドレスを脱いでいく。今まで身に着けていたアクセサリーを袋に詰め込んで、歩きやすそうな靴を拝借する。くたびれた侍女の服に着替えてから部屋を出た。
 城の外に出たロザリンダは、脳内にある城の地図を思い出しながら馬舎へと向かう。そして手綱を引いて馬を誘導した。今はパーティーのため、ほとんどの護衛が会場に集まっている。
 裏門からこっそり外に出て、馬に乗り一気に駆け出していく。追っ手もなく城から抜け出せたことに安堵していた。

(……ロザリンダが頭のいい令嬢でよかったわ)

 この世界の常識や街に何があるかなど、大体のことは知識として頭に入っていた。ロザリンダは馬から降りて身を隠すように人混みの中へ。ドレスよりマシだが城の侍女の格好は街では目立ってしまうようだ。

(せめて服を隠すローブを買えたらいいのに……)

 しかし何かを買いたくてもパーティーからそのまま抜け出したため、今の所持金はゼロである。女一人で歩いていてもすぐに襲われないのはこの服のおかげだが、それも時間の問題だろう。

(質屋、質屋はどこかしら? 持ってきたアクセサリーを換金しないと)

 ロザリンダが目的の店を探していると柄の悪い男達の視線を感じる。どうやら先を急いだ方がよさそうだ。
 一定の距離を空けながらこちらの様子をうかがっている。


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