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番外編
野薔薇物語①
しおりを挟む「‥‥っ!?」
目が覚めて、ゆっくりと起き上がる。
周囲には沢山の子供達が寝ていた。
窓ガラスに映る自分の顔、黒い髪に焦茶色の瞳‥
ローズレイは今日から野薔薇として生きるのだ。
たった1人で。
今更、怖くなってくる。
記憶はあるけれど、1人で何もした事がないローズレイにとっては全てが初めての体験だ。
(‥今度は何があっても、諦めたりしないわ)
以前は後悔ばかりしていた。
周囲の期待に応えようとするあまり、自分を持たずに言う事ばかり聞いていた。
そこに、ローズレイの意思はなかった。
苦しかった、悲しかった、辛かった‥そんな記憶ばかりだ。
それを塗り替えていくことは出来るだろうか。
蝶が羽化するように野薔薇として輝いて生きたい‥
考えただけでも、強い不安に押し潰されそうになる。
(弱気になってはダメ‥折角、女神様と野薔薇がくれたチャンスだもの)
ここでは全て自分でやらなくてはいけない。
野薔薇の記憶と体に残っている感覚で、何とか布団を畳む。
置いてある着替えに袖を通す。
(これが服なの‥?)
サラリとした衣類に改めて驚いていた。
コルセットも重たいドレスも着なくて良い‥。
ここは音を立てて歩いても、いつ笑っても泣いても誰にも怒られない世界‥
「‥‥ッ!」
野薔薇は寝室を飛び出して、外へ出た。
熱いものが込み上げてくる。
何故か泣きたくて、叫びたくて、仕方なかった。
外はまだ肌寒い。
サンダルを履いて、広い庭を駆けて行った。
涙が次々に溢れ出て、ハラハラと頬を伝った。
庭の端っこ、ボロボロのベンチに腰掛けて辺りを見回した。
家、自転車、車、電気、水道、電柱‥
一つ一つ確認するように野薔薇は目で確認していた。
見た事がないものばかりだけど、野薔薇の記憶の中では、ちゃんと使い方を覚えているから大丈夫だろう。
野薔薇には今、両親も兄弟も居ない。
ここはそんな子供達が沢山集まる''施設"。
以前の世界であった教会の孤児院のような場所だ。
そして、この世界には魔法がない。
魔法陣を浮かべても魔法を使う事は出来なかった。
誰もが平等で、貴族も王族も居ない。
侍女や従者が居ない為、何でも自分でやらなければならないのだ。
(‥何も、してこなかった私に出来るかしら)
震える手を握りしめて、不安を落ち着かせるように野薔薇はずっと空や花、木を見ていた。
「‥‥おい」
前から野薔薇と同じくらいの男の子が歩いてくる。
(この子は‥"カイ"、野薔薇はあまり良い感情を持っていなかったのね)
「なに‥?」
「‥‥おまえ、何泣いてんだよ?まさか誰かに何かされたのか?」
「いいえ、心配してくれてありがとう」
「‥ッ!?」
「私は大丈夫よ」
そう言って微笑むと、カイは呆然として野薔薇を見ていた。
「‥!!」
「何か用?」
「‥‥」
「カイ‥?」
「‥‥あっ、朝ごはんの時間だ」
「そう、わかったわ。一緒に行こう」
なるべく野薔薇の話し方を真似てみたが、大丈夫だろうか。
カイは奇怪そうな顔で野薔薇を見ていた。
(もしかしたら、どこかおかしい‥?)
カイの手を掴むと、思い切り振り払われてしまった。
不安だから食堂に連れてってもらおうと思ったが、どうやら嫌がられてしまったようだ。
「‥カイ、どうしたの?」
「お、お前、っ変だぞ‥!?」
「‥‥?」
「‥‥なんか、気持ち悪い」
その言葉を聞いて、野薔薇はしゅんと下を向く。
また何か間違ってしまったのだろうか。
ローズレイだった時にも、そうだった。
人に上手く自分の意見を伝えられずに黙ってしまう。
野薔薇になったら思った事を相手にしっかりと伝えようと思っていたのに、初めから失敗してしまったようだ。
「ごめんね‥」
「ちっ!?違う‥びっくりしただけだ」
「‥そうなの?じゃあ一緒に行ってくれる?‥‥私、不安で」
「‥‥!!」
手を伸ばすと、控えめに野薔薇の手を握るカイという男の子。
どうやら嫌われてはいないようだ。
カイと共に手を繋いでいると、周りの大人達が珍しそうに野薔薇とカイを見ていた。
「あら、カイ!野薔薇ちゃんと仲良くなれて良かったじゃない」
「うっせぇ!ババァ」
「カイ、女性に汚い言葉を使ってはダメよ?」
「‥‥ぐ」
カイは押し黙る。
何故か顔が真っ赤だ。
「野薔薇ちゃん、おはよう」
(施設の職員の美江さん‥優しい人なのね)
「美江さん、おはようございます」
「ふふっ、野薔薇ちゃんの事、心配だったけど大丈夫そうね!何か素敵な事でもあった?」
美江が野薔薇の涙の跡を拭う。
「‥‥はい」
「貴女はまだ此処に来たばかりだから無理しないでね」
美江を見ていると何故かユーアを思い出す。
いつも、どんな時でもローズレイの側に寄り添ってくれたユーア。
以前は、その恩を返す事が出来なかった。
ユーアには幸せになって欲しい。
優しい手のひらが野薔薇の頭を撫でる。
「カイ、行こう!美江さんまた後で」
「‥‥‥うん」
「カイ、野薔薇ちゃん、沢山食べなさいよ」
「はーい」
「‥‥」
(食事は自分で運ぶのね‥!凄いわ、初めて見る食べ物ばかり)
食べ物を見ていると、味を不思議と思い出せた。
白いご飯と納豆、卵焼きと味噌汁が乗ったトレイを持って席に着く。
「いただきます‥」
ゆっくり箸を掴み、食べ物を運ぶ。
口にパクリといれた瞬間、何故か涙が溢れた。
「‥‥野薔薇!?」
「おいひぃ‥」
「お前、本当にどうしちまったんだよ‥」
「あー!カイがまた野薔薇ちゃん泣かせてる」
「ちげぇよ!」
目の前で元気な女の子がお盆をテーブルに置くと、野薔薇を心配そうに見ていた。
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