【短編集】

●やきいもほくほく●

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ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜

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トレイヴォンはマスクウェルの行動に驚き、目を見開いている。
しかしマスクウェルはファビオラの腕と腰を掴むと、引き寄せるようにして抱え上げた。


「───マッ、マスクウェル殿下!?」

「ファビオラ、少し休もう」

「~~~っ」


そしてトレイヴォンに背を向けて歩いていく。
いつも冷静なマスクウェルがファビオラを大切そうに抱えて、扉まで歩いていく。


「……!」

「トレイヴォンさまぁ、わたくし具合悪くなってしまってぇ」

「わたくしも頭がいたぁい」

「ちょっと、どきなさいよ!」

「あんたこそ邪魔なのよッ」


しかしトレイヴォンは大量の令嬢達に囲まれて、先に進めなくなってしまう。
その隙に、マスクウェルはファビオラと共に静かな廊下を進んでいく。 
ファビオラは落ちないようにマスクウェルの首に手を伸ばそうか、伸ばさないか迷いながら腕を忙しなく動かしていた。
驚き過ぎたためか、ファビオラの涙もすっかり引っ込んでしまう。

(な、何が起こっているの……?)

マスクウェルに戸惑いすぎて不細工になった顔を見られなくてよかったと思ったのも束の間、どんどんと辺りが静まり返っていく。
そして会場より少し離れた場所にある医務室に入り、ファビオラは丁寧にベッドの上へと降ろされる。
マスクウェルが医師と何か話すと、医師は深々と頭を下げたまま部屋の外へ。
パタリと扉が閉まる。
部屋の中にはファビオラとマスクウェルの二人きりなった。

(え…………?どうするの、コレ)

ファビオラが困惑しつつマスクウェルの様子を見ると、彼はため息を吐きながら今まで着けていたクラバットを外しているではないか。


「~~~っ!?!?」


ファビオラの頭に「まさか!?」という想像が思い浮かぶ。
マスクウェルはこんなことを急にするキャラではないと言い聞かせながらファビオラはドックンドックンと跳ねる心臓を押さえつけていた。

クルリと振り返ったマスクウェルは上着を脱いで、襟元のボタンを外している。
ファビオラは「ひぇ」と小さく悲鳴を上げてから両手で顔を覆う。
指の隙間からマスクウェルの顔を見ようとすると、いつの間にか距離が縮まっていてファビオラは驚いて体を引いた。
体重がかかったことでベッドが軋む。


「───◎+%*ぁ、※○っ!?!?」


ファビオラの悲鳴ともいえない声が響く。
パニックになり座ったままの姿勢で後退するものの無情にも背に当たる壁。
前からはマスクウェルがファビオラに追い詰めるようにして手をついた。
逃げ場を塞がれたファビオラは息を止める。


「もう……我慢できない」

「は、わっ……」

「…………」

「マスク、ウェル様?」


琥珀の瞳と目が合う。
いつもとは違う鋭い視線でこちらを見据えているマスクウェルに腰が砕けそうになる。

マスクウェルの手がファビオラの頬を滑る。
そのまま親指がファビオラの震える唇をそっと撫でた。
ムスクの匂いが鼻を掠める。
ファビオラは覚悟を決めたように目を閉じた。


「は、はじめてなので、優しくしてください……っ!」


しかしいくら経ってもマスクウェルは動くことはない。
何も答えないマスクウェルを不思議に思ってファビオラへゆっくりと目を開けた。
すると耳まで真っ赤にしたマスクウェルがファビオラから手を離して目元を覆い隠してしまう。


「期待しているところ申し訳ないんだけど……それは結婚してからだよ。ファビオラ」

「へ……?」

「そ、それよりも聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「!!!」


珍しくマスクウェルが吃っている。
その瞬間、自分が盛大な勘違いをしてしまったことに気づいて、マスクウェル同様に顔が真っ赤になった。
二人で照れ合うというよくわからない状況の中、マスクウェルが口を開く。



「な、なんでしょうか」

「どうして泣いたの?僕が何かした……?」

「違いますっ!マスクウェル殿下は何も悪くありませんわ!」


そう言ってファビオラがマスクウェルを見上げるようにして見ると彼は苦しそうに眉を顰めている。


「理由を教えてくれ」

「……っ」


あと少ししかマスクウェルの婚約者でいられる機会がなく、婚約破棄されてしまうことが嫌だから、なんて言えずにファビオラは押し黙っていた。


「マスクウェル殿下のせいではないんです……わたくしのせいで」

「どうして僕じゃダメなの?」

「……え?」

「僕を選んでくれ。ファビオラ」


マスクウェルの悲しそうな表情にファビオラは戸惑っていた。
まるでマスクウェルがファビオラを好いているように聞こえなかっただろうか。


「こんなに君のことが好きなのに……っ、どうして伝わらないんだ」


その言葉にファビオラは思考停止した。
頭の中には『君のことが好きなのに』というマスクウェルの台詞がエコーのように反響していた。
何よりマスクウェルの気持ちを初めて聞いて、尚且つ両思いであることに戸惑いを隠せない。

(あれ、えっ……?こんな展開は原作にないはずよね????)

ファビオラは間近にあるマスクウェルの顔をチラリと見る。
相変わらず美しいのだが、それは今は置いておいて大切なことがあるのではないだろうか。
しかし彼の顔がどんどんと近づいてくる。
全身の毛穴から吹き出す汗、飛び出しそうな心臓をおさえていた。


「それはですね……えーっと、えっと!」

「君の気持ちと何故僕と別れるつもりでいるのか聞くまで、今日は絶対に帰さないから」

「ぐっ!」

「なに?」

「刺激が強くて……好きだなぁと」

「……。僕のこと好きだというわりには余所見ばかりして」


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