【短編集】

●やきいもほくほく●

文字の大きさ
上 下
53 / 96
ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜

①①

しおりを挟む
何故か般若のように恐ろしい顔をしたエマの手のひらがファビオラの頭をがっしりと掴んでいて身動きがとれない。
ファビオラはあまりの恐怖に小さく首を縦に振りながら返事をする。

どうやらエマはここ数日、ファビオラがろくにご飯を食べずに泣いていたことが心底、許せないようだ。
まずはエマの言う通りにしようとミルクリゾットを食べて、入浴をしてから身なりを整える。

そして次の日から父と母に用意してもらった講師達に厳しいレッスンをしてもらおうと思ったが、この三年間で王妃教育も終わっていたため「教えることはもうありません」と言われてしまい、あまり意味をなさなかった。

けれど何かが足りない。
今後、これ以上嫌われないために必要なことは何かを考える。
そして思いついたのはエマとの特別訓練である。
画家に描いてもらったマスクウェルを前にデレデレしない訓練……つまりは彼の前で表情を取り繕う訓練を始めたのだった。

(これもマスクウェル殿下のため……っ!)

今、椅子の前にはマスクウェルのリアルな肖像画の顔を切り取った仮面を付けているエマがいる。


「じ、準備できたわ……!」

「いきますよ?」

「はぁ……今度こそ!絶対大丈夫なんだからっ」

「…………ファビオラ」

「うぐっ……!」

「ファビオラ」

「~~~っ、はい!ありがとうございますっ」

───パシンッ!


容赦なく飛ぶエマからの喝と頬を摘まれてしまう。


「あたたっ……!」

「やり直し」

「……はぁい」


そんな毎日を繰り返していると、徐々にマスクウェルに対する耐性がついてくる。
紙のマスクウェルには大分慣れてきた。
それから再び瞑想に滝行と精神を鍛え上げて、いつも表情が微動だにしないエマに表情を変えないコツを教わる。

約束のパーティーと学園の入学を一ヶ月前に控えたある日のこと。
ブラック伯爵邸に大きな箱が家に届く。
それはファビオラ宛で、誰からの荷物かというと……。


「見て、見てみてっ!エマ、見てよ!見てみてッ」

「見ています」

「マスクウェル殿下からわたくしにって、ドレスが届いたのっ!信じられないわ!こ、これはパーティーにきていいってことよね?」

「はい、そうでしょうね」

「どうしようどうしよう……!嬉しすぎて鼻水がっ」

「……。合わせてみましょうか」

「そ、そうねっ!」


完全に浮かれながらドレスを箱から取り出した。
シンプルではあるが、大人っぽくて綺麗なドレスが目の前に広げられた。
髪を結えてから優しい赤い色の生地のドレスを着用した後、鏡で確認してみる。
動くとキラキラと光るサイズもピッタリで体のラインも綺麗だった。
特に意味はないだろうが、ハート王家を象徴する赤色のドレスをプレゼントしてくれたことも嬉しくてファビオラは両手を合わせて感動していた。


「…………素敵」


思わず漏れる本音。
ファビオラはドレスを着た自分の姿に釘付けになっていた。


「さすがマスクウェル殿下ですね」

「え?」

「ゴホン……何でもありません」

「変なエマ。でもサイズまでピッタリだわ!マスクウェル殿下……すごいわ」

「…………」

「一生の宝物にしましょう 」


マスクウェルからのプレゼントが嬉しくて感動していた。
彼にはよく思われていないし、距離を置いているにも関わらず、まさかドレスがプレゼントされるとは思っていなかったからだ。
ご褒美ともいえるサプライズにファビオラは浮かれきっていた。

そんな時、扉を軽快にノックする音が響く。
いつものように返事をすると、慣れた様子で部屋の中に入ってきたトレイヴォンはこちらの様子を見て足を止めた。


「ビオラ……?そのドレス、どうしたんだ」

「レイ……!いい所にきたわね!見てみて~!フフッ、マスクウェル殿下からまさかのまさか、ドレスが届いたのよ!パーティーに着て行くドレスッ!素敵でしょう?」

「…………あぁ」

「えへへ~」


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

好き避けするような男のどこがいいのかわからない

麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
マーガレットの婚約者であるローリーはマーガレットに対しては冷たくそっけない態度なのに、彼女の妹であるエイミーには優しく接している。いや、マーガレットだけが嫌われているようで、他の人にはローリーは優しい。 彼は妹の方と結婚した方がいいのではないかと思い、妹に、彼と結婚するようにと提案することにした。しかしその婚約自体が思いがけない方向に行くことになって――。 全5話

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?

久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ? ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

私がもらっても構わないのだろう?

Ruhuna
恋愛
捨てたのなら、私がもらっても構わないのだろう? 6話完結予定

処理中です...