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ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜
⑥
しおりを挟む今思えば非常識極まりなく、大変迷惑な話ではあるがトレイヴォンは意外にもそんなファビオラを受け入れてくれた。
突然、知らない世界に放り込まれた不安で思いが爆発。
しかしトレイヴォンがファビオラの話を聞いて慰めてくれたことで、ファビオラもトレイヴォンからアドバイスをもらいマナーを会得。
その根性と心意気を買われて、何故か意気投合。
それから予定通りにマスクウェルと顔合わせすることになり、関わらないようにと意気込んでいたが、婚約してしまいトレイヴォンに言えずに、ついに呼び出しが来たというわけだ。
「ファビオラ、マスクウェル殿下と婚約したらしいな。説明を要求する」
「…………面目もありません」
「あんなに関わらないようにすると豪語していたように記憶しているが」
「そ、そうなのです……!ですが、やはり神様が決めた運命には抗えないみたいでぇ」
「……」
「え、えへ」
じっとりとした視線を感じてファビオラは目を逸らす。
真っ赤な髪に銀色のメッシュ、銀色の目は吊っており、肉食獣のようにも見える。
腕を組んでいるトレイヴォンを見て、ファビオラは静かにテーブルに額を擦り付ける。
「──すみませんでしたっ!」
「今まで散々聞かされていたファビオラの輝かしい人生設計はなんだったんだ?」
「そ、それはですね、全て台無しになりましたわ!シナリオ通りになってしまったけれど、わたくしは愛に生きるって決めたのですっ!」
「……」
「そうだわ!わたくし、今日からまた我儘に戻らないといけないんですわ!アリス様とマスクウェル殿下のためにっ」
トレイヴォンに落ち着くように言われて、婚約までの流れを説明する。
彼は目を閉じながらファビオラの話を最後まで聞いていたが、瞼を開いてこう問いかけた。
「本当にアリスはマスクウェル殿下を選ぶのか?」
「そ……そう言われると困りますわ。学園に行かなければわからないんですもの」
「そんな不確定なものに振り回される必要があるのか?」
「とは言いましても、わたくしはトレイヴォン様に殺されたくはありませんし」
「いや……こうして話している時点でありえないだろう」
「アリス様のためならやらないとは限りませんわ!」
「頑なだな」
「当たり前です!わたくしの命がかかっているんですもの」
トレイヴォンには、すでに自分が転生者のファビオラだと伝えて、乙女ゲームの内容を話していた。
普通ならばドン引きしてしまう内容ではあるが、トレイヴォンはファビオラの話に真剣に耳を傾けてくれる優しくて心が広い男である。
元々、攻略対象者の中でも一番の強面で一番人気のなかったトレイヴォンだが、あまりの男らしさと頼もしさに感動でしかない。
今のトレイヴォンは面倒見がいいお兄さんといった感じだ。
(つまりは圧倒的にイケメンの兄貴枠……)
トレイヴォンは頼り甲斐があり、ファビオラが最も信頼している人物の一人である。
「アリスとマスクウェル殿下が学園で結ばれて、それから婚約破棄されて、ファビオラがざまぁされるんだっけか?」
「そう、そうなのです……!破滅への階段を駆け上がっていくの。でもこれはマスクウェル殿下が幸せになるためだから仕方ないのよ!これは愛よ、愛っ!」
「……」
「そういうトレイヴォン様だって、アリス様と結ばれる可能性があるですっ」
「俺がアリスと……?」
トレイヴォンは髪を掻きながら不思議そうにしている。
しかしもしヒロインの選択肢によっては、トレイヴォンルートの場合だってありえるかもしれない。
「ならアリスがマスクウェル殿下を選んだら、俺がファビオラを娶ってやろうか?」
「……え!?」
突然のトレイヴォンの告白に驚いていた。
しかしすぐに優しい彼のことだから、気を遣ってくれているのだろうと気づくことができた。
ファビオラはバシバシと音を立ててトレイヴォンの背を叩く。
「まぁ!気を遣ってくださり、ありがとうございます」
「別に俺は……」
「さすがトレイヴォン様だわ。頼りにしております」
「ファビオラ、俺の言っている意味、ちゃんとわかってるのか?」
「もちろんですわ!トレイヴォン様を信頼しているもの」
「まぁ、今はそれでいい……そのうちわからせてやるから」
「???」
トレイヴォンはエマと同じくらい一緒にいると楽しい友人である。
いつものように他愛のない話をしながら過ごしていたが、今日はマスクウェルのどこがカッコいいか、何が素晴らしいかと語っていたが、トレイヴォンはファビオラの話を最後まで聞いててくれる。
そんな毎日を繰り返しながら、三年の月日が流れてファビオラは十五歳になった。
女王様のように振る舞おうと努力していたが、見事に挫折。表向きは乙女ゲームのパッケージと同じファビオラの容姿を心がけていたのだが、維持するのはかなり大変だ。
家では面倒だからいいかと思いはじめて、マスクウェルの前でもすっかり素が出てしまった一年目。
パーティーで婚約者としてマスクウェルと一緒に行動することが増えていったのだが「いつもの方が可愛いんじゃない?」と、何気ない一言をマスクウェルに言われたことにより、何かが吹っ切れる。
徐々に原作のファビオラとのイメージがかけ離れていった二年目。
ファビオラの悪い噂が消えてパーティーやお茶会の誘いがたくさんくるようになる。
断るのも申し訳なく顔を出して忙しくなり、マスクウェルに「何余所見してんの?君は僕の婚約者じゃないの?」と言われたことにより更にマスクウェルに惚れ込んで、マスクウェルに褒めてもらいたくて清楚系になった三年目。
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