【短編集】

●やきいもほくほく●

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「申し訳ないんだが、婚約を解消してくれないか?」と言われたので「はい、分かりました。さようなら」 と答えました。

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「それにマナーもなってないって……私がマスング公爵家に相応しくないって言われて…っ」

「それは本当か……?」


そう言いつつも若干、バレット様の顔が嬉しそうに見えるのですが気の所為でしょうか?
バレット様から、熱の篭った視線を感じていますが正直不愉快です。


「確かにマナーをもう少し身につけた方が宜しいかとアドバイス致しましたが、マスング公爵家に相応しいかどうかは、わたくしが決めるべき事では御座いません」

「ヴァレンヌは……本当はまだ僕の事が」


ゾワリとした鳥肌を感じたわたくしは、バレット様の言葉を遮るように声を上げました。


「ここでハッキリと明言させて頂きますが、わたくしはバレット様に気持ちは御座いません」

「……っ!?」

「未来の奥様の前で軽率な発言は控えるべきではないでしょうか?」

「未来の奥様…ふふっ、公爵夫人よ!!」


そんな声が聞こえましたが、バレット様は大きなショックを受けているようで、ミランダ様の言葉は聞こえなかったようです。


「わたくしの事はお気になさらず、お二人で幸せな未来を築いて下さいませ」

「ヴ、ヴァレンヌ……!」

「では、失礼致します」

「パートナーが欲しくなったらいつでも言って下さいねぇ」


先程とは一転、落ち込んでいる様子のバレット様と上機嫌になったミランダ様に背を向けて歩き出しました。

ミランダ様が妙にパートナーを勧めてくるのが気になるところです。

(少し調べてみましょう…)

後はバレット様の縋るような視線の理由も気になってはいたのですが、先程の台詞と表情を見る限り、恐らくわたくしにバレット様との関係を後悔して欲しいのだと感じました。

ですが、わたくしに期待を寄せるのは余りにも傲慢です。

(早く動けばいいのに……煩わしいわ)

バレット様はミランダ様と結婚をしたいと、そろそろお二人に申し出る事でしょう。

今回の婚約破棄はバレット様に書類を渡されて、わたくしがサインをした為、お二人は引くに引けなくなりました。
全てはバレット様の暴走。
マスング公爵と夫人は、尻拭いに奔走した訳です。
あの後、厳しく叱られた事でしょう。

お二人はまだミランダ様と顔を合わせていないそうです。
ですがミランダ様の上辺の性格に騙されるほど、あのお二人の目はバレット様とは違って節穴ではありません。

拒否されてミランダ様とバレット様はどうするのでしょう。

(……可哀想に)

二人の行く末が見えるような気がしました。

そして更に二週間が経ち、卒業パーティーまで一週間となりました。

わたくしは贈られてきたドレスを部屋に飾り、彼の方が来てくれる卒業パーティーをそれはそれは楽しみにしておりました。

あの日から、わたくしに「パートナーは決まりましたか?」と毎日聞いてくるミランダ様に嫌気が差しておりました。

あまりにもしつこいので、わたくしは父と母に相談致しました。
すると、すぐに抗議文を送って下さいました。

怒られたのか、数日間だけミランダ様は大人しくなりました。

しかし今度は隠れて接触をしてこようとするので、わたくしはミランダ様と顔を合わせないように動いておりました。

何故か分かりませんが、バレット様も何か言いたげにわたくしに近付いてこようとします。
わたくしは、なるべく二人と関わらないように徹底的に避けていました。

そしてやはり…というよりは分かりきった事ですが、マスング公爵達はミランダ様と顔を合わせてすぐに、バレット様と結婚する事を断固拒否したそうです。

 
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