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元婚約者がよりを戻そうと押しかけて来ましたが……わたくし、もう結婚してますけど
⑨
しおりを挟むブライアンの低い声が耳に届いた。
「カサンドラの肌に跡が残ってしまった……君は僕の妻を二度も傷つけたんだ」
「……ぁ」
「次にカサンドラに触れてみろ……?その首、切り落としてやる」
「!!!」
ブライアンの言葉にエイヴリーは思わず首を押さえた。
「カサンドラ……言いたい事があるなら言ってしまいな?」
「え……?」
「もう彼と会う事は一生ないのだから……」
カサンドラがブライアンの言葉に驚いて顔を上げた。
カサンドラはグッと拳を握った。
あれ程に愛していた男は、今となっては……。
「わたくしを振って下さって、本当にありがとうございます」
「……!」
「その間抜けな顔を、二度とわたくしに見せないで下さいませ」
「カサ、ンドラ…」
「……さようなら」
始めは震えていた声……けれど次第に怒りが籠る。
一時は共に時間を過ごした人……。
進んだその先は、天国と地獄への道に分かれていた。
「……連れて行け」
ブライアンが手で合図すると、後ろに控えていた騎士達がエイヴリーの両腕を掴み、容赦なく引き摺っていく。
その様子をカサンドラは黙って見ていた。
「嫌だッ、待て!いやだああああーー!」
そんなエイヴリーの叫び声を聞いたカサンドラはスッキリとした気分で息を吐き出した。
「ありがとう、ブライアン……」
「これでカサンドラの全ては僕のものだね」
「え…?」
「あの男が少しでも君の心に残っていると思うと嫌だったんだ。今日は全てを断ち切れただろう?」
ブライアンの言葉にキョトンとしていたカサンドラはクスクスと微笑んだ。
ブライアンの可愛らしい独占欲はカサンドラにとっては嬉しいものだ。
「あの男が、カサンドラに触れていたと思うと腹立たしいよ」
「……ブライアン」
「おいで……消毒しなくちゃ」
「きゃ…」
ブライアンはカサンドラを抱き抱えた。
カサンドラはブライアンの首に手を回して体を預けた。
「愛してるよ、カサンドラ…」
「……ブライアン」
「何だい?」
「わたくしを救ってくれて、ありがとう」
「もう……君には敵わないな」
あの後、借金だらけのエイヴリーがどうなったのか。
ブライアンに問いかけてみると「この国にはいない事は確かだね……」と柔らかい笑みを浮かべながら吐き捨た。
そして、あれだけ持て囃されていたヘイリーも社交界で一切見掛けなくなった。
まさかブライアンが手を回したのかとも思ったが、カサンドラは何も聞かなかった。
(悪い事は全て自分に返ってくるのね……)
そう思わずにはいられなかった。
end
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