【短編集】

●やきいもほくほく●

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元婚約者がよりを戻そうと押しかけて来ましたが……わたくし、もう結婚してますけど

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「……冗談を」

「冗談じゃないよ」

「………」

「こんなタイミングでの告白になってしまうなんてね……情けない僕を許しておくれ」

「嘘……?」

「嘘じゃないよ。僕は本気だから」


突然、ブライアンはカサンドラに結婚を申し込んだのだ。
カサンドラは、あまりにも驚いてしまい涙が引っ込んでしまった。

ブライアンは照れているのか、ほんのりと頬を赤くしている。


詳しく話を聞けば、ブライアンが隣国から帰った後にカサンドラに意を決して結婚を申し込もうとした矢先………エイヴリーとカサンドラは婚約していて、ブライアンは暫く立ち直れずに、かなり落ち込んでいたらしい。


「………そんな」

「ずっと……君の事が好きだったんだ」

「ずっと?」

「君が城に初めて来たあの時から、ずっと……」


カサンドラは、ブライアンが留学する前に話した事を思い出していた。

ずっと婚約者がいないブライアンに「好きな人は居ないの?」と問いかけた事があったのだ。


「幼い頃から好きな人が居るけれど、その人は僕の事を好きになってくれるか分からないんだ」

「ブライアンなら大丈夫よ」

「振られたら一生立ち直れない気がするよ…」

「ふふっ、貴方をそんな顔をさせられるなんて凄いわね」

「ああ、とても優しくて美しくて……僕は彼女の事を心から愛しているんだ」


ブライアンの優しい表情を見たカサンドラは、温かい気持ちになった。

 

「貴方はもう少し自分に自信を持った方がいいわ!」

「ありがとう、カサンドラ……」

「でもブライアンに、それだけ愛されている相手は幸せね」

「そうかな……?」

「きっとそうよ」

「なら、隣国から帰ってきたら気持ちを伝えてみるよ」

「応援しているわ」


その時は深く意味を考える事はなかったが、ブライアンの話を聞いた今では、全てが繋がるような気がした。

カサンドラは思わず、口元を押さえた。

まさかブライアンが、そんな風に自分の事を見ているとは思わなかったからだ。
ブライアンはいつも楽しそうにカサンドラの話を聞いてくれた。

カサンドラは幼馴染のように、気楽な付き合いだと思っていた。
まさかカサンドラを女性として意識しているとは思わずにカサンドラは驚いていた。

そしてその気持ちをストレートに伝えたカサンドラに対して、ブライアンは困ったように笑った。


「君との関係が壊れてしまうのだけは、絶対に嫌だったんだ」

「……ブライアン」

「少しずつでいいんだ……僕を男として意識してくれないか?」

「……でも、そんないきなり」

「カサンドラ……幼い頃から君だけをずっと愛していた」


カサンドラはもう二度と恋はしたくないと思っていた。
やはりエイヴリーに振られた心の傷が深く、立ち直れずにいたからだ。

それにブライアンの恋を応援していた自分の鈍感さにも、申し訳ないと思っていた。


「僕を利用してくれ……カサンドラ」

「……」

「今度こそ、君の側に居たいんだ」


ブライアンの熱い視線から目を離せなくなってしまう。
そっとブライアンの大きな手がカサンドラを包み込む。

ブライアンの震える声に心が締め付けられるような気がした。
カサンドラはブライアンの熱意に心が揺らいでいた。

幼馴染だったブライアンを初めて異性として意識した瞬間だった。

それからカサンドラとブライアンは共に過ごすようになった。


「カサンドラ、今日はいい天気だね」

「今日は君の好きなアップルパイを持ってきたんだ」

「カサンドラ……君はとても綺麗だ」

「大好きだよ、カサンドラ」


ブライアンの優しさと甘い愛情にカサンドラは絆されていった。
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