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ヤンデレ令嬢、大好きだった婚約者とサヨナラします!
①④
しおりを挟むどうやら、ベアトリスがマーヴィンと婚約破棄した後に広がる悪評や、狭まる選択肢に活路を見出したマーヴィンは先程とは一転して笑みを深めている。
押されっぱなしであったマーヴィンは、ここにきてまた以前のように横平な口を利き始めた。
ベアトリスより優位に立てたとでも思っているのか、今まで焦りが滲んでいた情けない顔は、余裕のある表情に変わる。
「――お前は、俺と結婚するしかないんだよ‥!」
そんなマーヴィンの言葉に、ブン殴ってやりたい気持ちを一生懸命抑えながら、ベアトリスはフーッと息を吐き出した。
これ以上、調子に乗られても不愉快なのでベアトリスはマーヴィンに断りを入れる。
「嫌ですわ」
「‥‥!!」
「結婚は致しません」
「なら‥‥ならば慰謝料を寄越せ!!お前が婚約破棄したいと言ったんだからな」
「‥‥」
「俺には貰える権利があるだろう!?」
マーヴィンはベアトリスを脅すように言葉を投げかける。
しかし、それは想定内であった。
マーヴィンは追い詰められれば必ず「慰謝料」と口にするだろうというのは予測済みである。
金に困っている公爵家だからこそ、マーヴィンもお金に執着してくると思っていたのだ。
マーヴィンは完全に会話の主導権を奪い返したかと思っているのか、高圧的な言葉が口から次々に飛び出していく。
しかしベアトリスは、この時を待ってましたといわんばかりに、とある紙をテーブルに叩き付ける。
「婚約時にお父様が用意して下さったものですわ」
「‥‥は?」
「この部分をよく読んでくださいませ」
シセーラ侯爵は今でいう婚前契約書ならぬ婚約契約書のような書類を作っていたのだ。
主にセレクト公爵家への援助の金額や支度金の額が書き込まれている。
しかしその内容は一方的なものではなく、シセーラ侯爵からも提示されている。
それは娘を溺愛しているシセーラ侯爵らしいものだった。
「なっ‥!?何だよコレ!!」
マーヴィンが不貞行為を働いた場合やベアトリスを故意に傷つけた場合‥。
「‥‥慰謝料を払うのはどちらかしら?」
「‥‥ッ」
「わたくし、マーヴィン様から沢山慰謝料を頂けて嬉しい限りですわ」
マーヴィンはご丁寧に、全ての項目を破っている。
不貞行為を繰り返す。
ベアトリスを暴言で脅す等々‥。
この時ばかりは、ベアトリスを溺愛しているシセーラ侯爵に感謝した。
そしてベアトリスの兄であるブランドはこの契約書を隅から隅まで目を通していたらしく、ベアトリスが此処に来る前に、満面の笑顔を浮かべながら「アイツが煩かったら、これを見せて口を塞げ」と言ってベアトリスに渡したのだった。
(流石ですわ!お兄様、お父様、グッジョブ)
マーヴィンと婚約が出来たことに浮かれており、この契約書を何が何だか分からないまま名前を書いたベアトリス。
そして最高に機嫌が悪かったマーヴィンも、恐らくセレクト公爵に言われるがまま適当に名前を書き込んだようだ。
故にこの契約書を見た記憶はベアトリスの中には無かったのである。
それはマーヴィンも同じであった。
そして家同士で交わした正式な"契約"である。
紙を持ちながらブルブルと震えているマーヴィンに聞こえるように溜息を吐き出す。
「貰えるのはわたくしであって貴方じゃないわ‥‥残念ね」
「――こんなもの無効だッ!!」
「でもマーヴィン様のサインもありますわよ?」
「‥‥!!」
暫く黙って書類を見ていたマーヴィンはチラリとベアトリスを見た瞬間‥‥紙を引き裂いてビリビリに契約書を破いたのだ。
マーヴィンの足元には契約書だったものが散らばっている。
「ハハッ!これで無効だ」
「‥‥」
目の前では声高に笑うマーヴィンの姿。
マーヴィンはベアトリスに見せつけるように破られた紙を楽しげに踏んで満足気に笑っている。
(ほんと、子供かよ‥)
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