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14.希う
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あっという間に年は明け、元日を迎えた。
今日は催事スペースで書道パフォーマンスの他にも小学生たちの絵画や習字のパネル展示を行う。開店前にその作業をするため、つかさちゃんの指示でパネルを次々と壁に貼っていく。ステージは、リハーサルをする子供たちでにぎやかだ。
「今日のパフォーマンスは、振り付けもアイデアも全部、兄なんですよ。高橋さん、本番も絶対見てくださいね」
「はい。もちろん」
結局、年末に徹志くんと会うことはかなわず、私の告白はお預けのままだ。
今日のステージでは、徹志くんも挨拶をするとプログラムに書いてあったから、そのあと、時間をもらって告白しよう。
彼の私に対する気持ちが尊敬であっても、セフレに対するものであっても、いつか私の気持ちに応えてもらえるよう努力すればいいのだ。
ショッピングセンターが開店し、初売りが始まると店内は一気に忙しくなる。お年賀ののし書きも例外ではない。
早めの交代時間でスケジュールを組んでいたのに、作業が終わったのはパフォーマンスの時間ぎりぎりだった。
大きな音楽と拍手が聞こえる。ステージを見ようと人波をすり抜けてなんとか見える位置に立つことが出来た。
ステージでは、踊る子供たちとリズムに合わせて踊りながら大きな筆を滑らせ文字を描いていく書道パフォーマンス。きっと舞台袖で見ているであろう徹志くんを探すが見つからない。
舞台は暗くなり、レーザービームのような照明が派手に動きまわり、スポットライトが一筋の光を放つ。そこにひときわ大きな歓声と共に袴姿の男性が箒のように大きな筆をもって舞い降りた。
──彼だ。
四つ打ちのリズムに合わせて軽快な足さばきのダンスが繰り広げられ、いつの間にか真っ白だったパネルに墨が打ち付けられていく。
その圧倒的な力づよい存在感に観客も、もちろん私も釘付けだった。
そうして、そこに描かれた文字は……『希』
「年頭から、このようなステージを子供たちと出来たことを嬉しく思います。パフォーマンスの文字は、私の一番好きな言葉を書きました。
未来に向かって希望をかなえられるよう頑張って欲しいと願いを込めて。そして、僕自身ののぞみも叶うようにと……今、希う一人の女性のために書きました。今日は本当にありがとうございました」
飛び散った顔の墨も掃わず、笑顔で司会者のマイクに応える彼は、今まで見た中で一番輝いていた。
あぁ、どうしよう。こんなにかっこいい人に惚れてしまった。
そして、彼が書いてくれた『希』、希うといった人物は自分だとうぬぼれていいのだろうか。
そんな感動と余韻で、彼がステージから降り駆け出したことに全然気づいてなかった。
突然抱き上げられ、足が宙に浮く。
「きぃちゃん!見てくれた?」
褒めてくれと言わんばかりの満面の笑みが同じ高さの目線で見つめる。
あぁ、こんな墨いっぱいつけた姿で抱きつかれたら、この服もう着れないな。なんて、冷静な自分もいるけれど。
「かっこよかったよ」
「俺の気持ち、伝わった?」
「たぶん」
恥ずかしくてうつむくとおでこがコツンとぶつかった。
「きいちゃん、愛してるよ。世界一」
「……私も」
──こうして、バカップルぶりを披露することとなった私たちは、このあと盛大な拍手とキスコールにはやし立てられながら、退場するという世界一恥ずかしい目にあったのだった。
終わり。
今日は催事スペースで書道パフォーマンスの他にも小学生たちの絵画や習字のパネル展示を行う。開店前にその作業をするため、つかさちゃんの指示でパネルを次々と壁に貼っていく。ステージは、リハーサルをする子供たちでにぎやかだ。
「今日のパフォーマンスは、振り付けもアイデアも全部、兄なんですよ。高橋さん、本番も絶対見てくださいね」
「はい。もちろん」
結局、年末に徹志くんと会うことはかなわず、私の告白はお預けのままだ。
今日のステージでは、徹志くんも挨拶をするとプログラムに書いてあったから、そのあと、時間をもらって告白しよう。
彼の私に対する気持ちが尊敬であっても、セフレに対するものであっても、いつか私の気持ちに応えてもらえるよう努力すればいいのだ。
ショッピングセンターが開店し、初売りが始まると店内は一気に忙しくなる。お年賀ののし書きも例外ではない。
早めの交代時間でスケジュールを組んでいたのに、作業が終わったのはパフォーマンスの時間ぎりぎりだった。
大きな音楽と拍手が聞こえる。ステージを見ようと人波をすり抜けてなんとか見える位置に立つことが出来た。
ステージでは、踊る子供たちとリズムに合わせて踊りながら大きな筆を滑らせ文字を描いていく書道パフォーマンス。きっと舞台袖で見ているであろう徹志くんを探すが見つからない。
舞台は暗くなり、レーザービームのような照明が派手に動きまわり、スポットライトが一筋の光を放つ。そこにひときわ大きな歓声と共に袴姿の男性が箒のように大きな筆をもって舞い降りた。
──彼だ。
四つ打ちのリズムに合わせて軽快な足さばきのダンスが繰り広げられ、いつの間にか真っ白だったパネルに墨が打ち付けられていく。
その圧倒的な力づよい存在感に観客も、もちろん私も釘付けだった。
そうして、そこに描かれた文字は……『希』
「年頭から、このようなステージを子供たちと出来たことを嬉しく思います。パフォーマンスの文字は、私の一番好きな言葉を書きました。
未来に向かって希望をかなえられるよう頑張って欲しいと願いを込めて。そして、僕自身ののぞみも叶うようにと……今、希う一人の女性のために書きました。今日は本当にありがとうございました」
飛び散った顔の墨も掃わず、笑顔で司会者のマイクに応える彼は、今まで見た中で一番輝いていた。
あぁ、どうしよう。こんなにかっこいい人に惚れてしまった。
そして、彼が書いてくれた『希』、希うといった人物は自分だとうぬぼれていいのだろうか。
そんな感動と余韻で、彼がステージから降り駆け出したことに全然気づいてなかった。
突然抱き上げられ、足が宙に浮く。
「きぃちゃん!見てくれた?」
褒めてくれと言わんばかりの満面の笑みが同じ高さの目線で見つめる。
あぁ、こんな墨いっぱいつけた姿で抱きつかれたら、この服もう着れないな。なんて、冷静な自分もいるけれど。
「かっこよかったよ」
「俺の気持ち、伝わった?」
「たぶん」
恥ずかしくてうつむくとおでこがコツンとぶつかった。
「きいちゃん、愛してるよ。世界一」
「……私も」
──こうして、バカップルぶりを披露することとなった私たちは、このあと盛大な拍手とキスコールにはやし立てられながら、退場するという世界一恥ずかしい目にあったのだった。
終わり。
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