【R18】4番目の彼女

井笠令子

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13.可愛い彼女とコーヒーボトル

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 徹志くんの部屋を飛び出てから三日間、ずっと考えてるけどまだ答えは出ない。
 徹志くんの思い出の中の私が美化されすぎてる。ただの思い込みが激しくて、突っ走っちゃうだけの女なのに、女神だとかありえない。
 しかも、思い返してみたら、はっきり恋愛的な意味で好きだと言われたわけじゃない。

 それに、そうよ。あのショッピングセンターの女は何だったのよ。仲良く腕組んでおいて他人ということはないでしょう。他の女がいる証拠、この目でしっかり見たじゃないか。

 あぁ、やばかった。すっかりだまされて本気になるところだった。
 気をしっかり持つんだ。高橋希たかはしのぞみ

 このまま4番目の女、改め何番目かセフレかわかんないけど関係を続けるのか。
 それともきっぱりお別れするのか。
 それとも、唯一の彼女になりたいのか。

 まずは、私自身がしっかり決めないと。


「高橋さん、前に言ってたイベント部の書道パフォーマンスの担当の方が来てるんだけど紹介していいかな」

「もちろんです」

 現れたのは、私より年下であろう可愛い女性だった。
 明るいニュアンスウェーブの髪にオフショルダーのニット。
 ん?この服、この髪型、華奢な腕……マジか! あのとき食品売り場付近で徹志くんと腕を組んでた本命彼女(仮)だわ。

「宜しくお願いします」

 林さんの影からぺこりと頭を下げた彼女。
 どうでもいいけど、林さんと距離近くない?徹志くんとも腕を組んでたし、そういう性格の子なのかな?

そうちゃん、もう大丈夫だよ」

 ん? 創ちゃん呼び? 林さんの方が年上だよね?
 私が困惑しているのを察したのか、照れた様子の林さんが内緒話をするように告げた。

「実は俺の彼女なんだ」

「そうなんですね! びっくりです 」

 なんと! じゃあ、徹志くんは? 

「会沢つかさと言います。兄がいつもお世話になってます」

 そう言いながら差し出された名刺には『会沢つかさ』と確かに徹志くんと同じ苗字が記されていた。

「兄? 」

「ダンススクール代表の会沢徹志です。いつも高橋さんに賞状とかの文字をお願いしてると聞いて」

「あぁ、会沢徹志く……さん。そう……こちらこそ、いつもお世話になっております」

 私も名刺を差し出し、小さく頭を下げた。つかささんは興味深げに私の名刺を手に取り見つめた。

高橋希たかはし のぞみ……希望の

でのぞみって珍しいですよね。普通、望の方ですよね」

「いや。素敵なお名前です。女神と同じ名前」

「そんな名前の女神いましたっけ? 神話とか?」

「何かでいるらしいんですよ。私もよく覚えてないんですけどね、てへ」

 明るく会話しながらも私の頭の中は兄というワードで占められていた。徹志くんが兄。そうですか妹さんですか。そして林さんの彼女。なんだそうだったのか。
 徹志くんの彼女じゃなかったんだ。胸につかえていた何かがするんと落ちた感じ。
 もしかして徹志くんがあの時言った通り、本当に今は私だけしかいないのではないか。彼の言葉を素直に信じてもいいのかもしれない。


「じゃあ、俺はこれで。高橋さん、つかさちゃん、イベントの件よろしく頼むね」

 そう言って筆耕室を去ろうとした林さんに、私は差し入れで借りたままだったステンレスボトルを差し出した。

「あ、林さんコーヒーの差し入れありがとうございました。ボトルお返ししそびれててすみません」

 差し出したボトルを眺めると、林さんは不思議そうな顔をして言った。

「それ、俺のじゃないよ」

「あ、それ兄の物じゃないですか。ダンススクールのオリジナル品なんで。ほら、ここにネームが」

 私の手のボトルを覗き込んだつかさちゃんが、指をさす。確かにブルーのボトルにはダンススクールの名前と『T.AIZAWA』と刻印されていた。
 あのコーヒーは、徹志くんからの差し入れだったんだ。

 徹志くんは中学の文化祭の時もこの前の宛名書きの時も、見守って私を支えてくれてたんだな。
 やっぱり好きだ。
 この気持ちをちゃんと認めよう。
 次に会ったら、『好きだ』と伝えたい。

「高橋さん。じゃあ、早速なんですけど、打ち合わせお願いします。えっと書道のパネルとパフォーマンスで使う紙の相談で……」
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