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思い立ったときのこと

公園待機系幼馴染について

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 19年間生まれ育った街の、いつもの公園。思い出はたくさんあるが、多くを占めるのは腐れ縁の幼馴染である八代綾の記憶だ。

「綾」
「おや、久しぶりだね浪人」
 綾は不機嫌そうに、メガネのつるを押し上げた。

 綾という人物は、古典的な文学少女の皮を被った猪という言葉で表せる。どの層が上で下なのかわからないふわふわの服に、長く伸ばした黒髪と大きいフレームのメガネ。それに似つかない指先と頬の絆創膏の位置は、
「よかった……」

 昨日……一昨日だったか? ミッコさんとあいつがケリをつける前に会った時と同じ場所に付けている。

「よくないよ! ミルコちゃんだっけ? あの人とつるんで大学落ちたと思ったらたまにぽっつりいなくなるし、怪我するし。浪人やってる限り名前で呼んであげないからね!」
「会うたび言うね、綾」
 本当に、会うたび一言一句違うことなく同じ調子で忠告してくる。なんなら5回目くらいまではメモを用意していたほどの徹底ぶりだ。なにが彼女をそこまで駆り立てるのか。

「何度あっても改善しないからでしょう」
「仕方ないだろ」
「口癖」
「口癖?」
「仕方ない、っていうの。そういうのよくないよ」
「仕方ないだろ……あ」
 失態だ。傍観者が観察されていては失格もいいところだ。

「……ところで綾」
「なあに?」
「昨日は何日だっけ」
「3月の……19日だよ。どうしたの急に」
「いや……どこか悪くしてないかなって」
「なにそれ。仕返しか何か?」
 くすふふふ、と綾はいたずらに笑った。
「なんでもないよ」
「その顔」
「顔?」
「ミルコちゃんのこと考えてる顔してる」
「…………」
 確かにそうだったので、僕は押し黙ることしかできなかった。雪辱と言ってもいい。

「仕方ない……いや、なんでもない。綾はどうしてこんなところに?」
「知ってるくせに」
「…………」
 知らないが。

 猪女の言うことが確かなら、ミッコさんに敵う生命……いや存在はこの世にもあの世にも異世界だろうが魔界だろうが天界にさえいないだろう。それに比べて僕と来たら、幼馴染一人にすら勝てやしない。あるいは、この八代綾こそミッコさんの空白を埋め得る存在なのかもしれない。

 息が白い。僕がここに来る前にいた綾は鼻先まで赤い。それに少し震える指先を合わせ、綾はチラチラと僕を見やる。なるほど。変な人間や生き物だったりなんだりと知り合ってきたから鈍くなっていたが、そう言うことか。底が割れたぞ八代綾。

「綾、お昼はまだだよね」
「! うん! お腹、お腹すいた!」
 獣みたいな反応だった。
「うちで良ければ何か作るけど」
「やったー!」
 やはり猪だったか。これほど喜んでくれると作りがいもあると言うものだ。
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