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思い立ったときのこと

箱と壁について

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「しかしですねミッコさん」
「……」

 みかん籠を追加してもミッコさんは見向きもしない。先ほどから突っ伏したままだ。

「アラサーで恋愛経験どころか恋愛感情すら知らなかったのに、何を急に愛だの恋だのと――すみません」

 冗談のつもりだったが、まさか目力だけで壁を射抜くとは。

 ぽっかりと空いた拳大の穴から北風が侵入する。たまらず僕は役割を終えたみかんの段ボールをそこに当てがい壁代わりとした。……少し見えた断面からは硬化したモルタルしか見えなかった。黄色い綿のような断熱材こそあれど、鉄筋なり何なり、この際変な木の枝でも覗いていればよかったものの。これでは安普請どころか欠陥住宅だ。

 段ボールを畳んで平らにしていて気づいたのだが、これはまるでミッコさんのようだった。先ほどまでみかんを納めていたミッコさんはあの苛烈なレディ・ジャスティスで、こうしてたたまれ新たに壁として生まれ変わったのがこの無造作に置かれた蒸しタオルみたいなミッコさんだ。

「この壁は暫定的にミッコウォールと名付けます」
「みっこうぉーる?」
「はい。ミッコウォールです」

「……。まぁ私も子供のころはみかんのようだと愛で育てられてきたからな……みかんの箱というのも悪くない」
 わけのわからない喩えから命名した手前言いにくいのだが、ミッコさんの言っていることはよくわからない。やはり相応に疲れているようだ。

「ミッコさん、布団出しますか?」
「……ここで寝ます」

 言ってすぐ、ミッコさんは寝息を立て始めた。しょうがないので部屋の角に丸めてあったピンクの毛布を肩にかけてやり、こたつの温度を少し下げる。
 
 少し出かけてくる、という旨の書き置きを残して、僕はさっきぶりに外に出た。
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