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第三話 カフェの魅力

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休日の昼下がり、菜々は「レーヴ」のドアを押した。

平日の仕事終わりに訪れる夜の雰囲気も好きだったが、昼間の柔らかな日差しが差し込む店内はまるで違う空気だった。暖かな木のテーブル、アンティーク調の椅子。そして窓際に置かれた鉢植えの緑が、居心地の良さをいっそう引き立てている。

「いらっしゃいませ。」

悠真の声が聞こえると同時に、奥のカウンターで作業をしていた彼の姿が目に入った。菜々は、いつもの席に腰を下ろしながら、そっと彼の背中に視線を送った。

(相変わらず冷たいな。でも、こうして黙々と働いている姿を見ると……なんていうか、意外とカッコいい。)

カウンターの中で手際よくコーヒーを淹れる悠真。その動きは無駄がなく、どこか職人のような雰囲気さえ感じさせた。

「こんにちは、また来てくれたんですね。」

ふいに声をかけられ、菜々は振り返った。そこには優しい笑顔を浮かべた中年の女性が立っている。

「あ、こんにちは……」

「あら、初めてじゃない顔ね。いつもカウンターで飲んでるけど、今日はテーブルに座ったのね。」

女性はにこやかに話しかけてくる。菜々は少し驚きながらも、その温かさにほっとした。

「そうですね、今日はこの席が気になって。」

「いい選択ね。この店、どの席に座っても居心地がいいけど、窓際の光は特別よ。私もここが好きなの。」

女性が柔らかく笑うと、菜々もつられるように笑みを返した。

「お一人ですか?」

「はい、いつもは仕事帰りに来てるんですけど、今日はお休みなので。」

「まあ、若い人が来てくれるのは嬉しいわ。ここは割と年配の人が多いからね。」

女性はそう言いながら、自分の座っていたカウンター席へ戻っていった。その後ろ姿を見送りながら、菜々はこのカフェの不思議な魅力を改めて感じていた。

「ご注文は?」

悠真がテーブルに近づいてきた。声をかけられた瞬間、菜々は少し緊張したが、すぐにメニューを見て答えた。

「今日は、ハーブティーにします。」

「少々お待ちください。」

悠真は淡々と答えると、再びカウンターへ戻っていった。その姿を見つめながら、菜々の胸にはある思いが浮かんでいた。

(この店って、不思議。どこか昔の喫茶店みたいな懐かしさがあるけど、ちゃんと今っぽくもある。……それに、悠真くん自身が作り出してるんだよね、この空気。)

数分後、ハーブティーが運ばれてきた。ガラスのティーポットに透き通る琥珀色の液体と、浮かぶハーブの葉が美しい。

「すごくきれい……」

自然にこぼれた菜々の感嘆の声に、悠真は一瞬だけ目を伏せて、そっと微笑んだように見えた。

「あまり甘くないですが、香りは強いはずです。」

「ありがとうございます、いただきます。」

彼が去ったあと、菜々は一口飲んで、その柔らかな味わいに思わず目を閉じた。

午後の時間がゆっくりと流れる中、カフェのドアが開き、若い男性が一人入ってきた。

「悠真、今日も調子どう?」

その声に悠真が顔を上げる。

「ああ、大輔か。」

菜々は初めて見る客に興味を引かれた。彼は悠真と親しげに話し始める。

「相変わらず人気だな、ここ。客も増えてるし、そろそろバイト雇ったらどうだ?」

「いらない。俺一人で十分だ。」

「頑固だなー。じゃあ俺が手伝ってやろうか?」

悠真が軽くため息をついたのが見えた。

「冗談はいいから、注文して座ってろ。」

「へいへい。」

彼らのやりとりを聞きながら、菜々はほんの少しだけ悠真の素顔を垣間見た気がした。

(こういう友達には、ちゃんと心を開くんだ。)

その瞬間、彼の冷たさの裏にある何かを探りたい気持ちが、菜々の中で静かに芽生えていくのだった。
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