人狼

RINFAM

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「今のは……!?」
 手助けするにも足手纏いにしかならぬ混血の人狼、ジャックら4人と、彼らに守られていた蓮の耳に、一際大きな獣の声が聞こえたのは、リアムとセオドアが姿を消して20分ほどした時だった。
「リアム………ッ!?」
「いったいどっちが勝ったんだ……?」
 まるで悲鳴のような獣の咆哮に、その場にいた全員が凍り付き、戦いに決着が付いた事を察する。けれど、いったいどちらが勝利したのか??負けたのはセオドアなのか、リアムなのか。
 勝者が解らないまま、暗闇に沈んだ雑木林の中の様子に、誰もが息を呑んでいた。すると、がさがさと雑木を揺らす音がして、2頭の獣が…正確に言うと、1頭の首元を咥えて引きずる1頭の獣が彼らの前に姿を現した。
「……リアム!!!!」
「くっ……っ!?」
 はたして現れたのは、ほとんど無傷の金狼であった。そして、その獰猛な咢に咥えられ、力なく引きずられるのは、銀色の毛皮を持つ若い狼──そう、人狼同士の戦いにおける敗者は、蓮の愛するリアムであったのだ。
『……さて…決着は、見ての通りだ』
 むくりと2足で立ち上がり、半人半狼の姿を取ったセオドアが、リアムを地面に転がして勝利の笑みを浮かべる。彼の足元に横たわる銀色の狼は、流された血と共に力を失い、瞬く間に人の姿へと変わった。
「…………!!!」
「リアムっ!?リアムっ!!」
「大丈夫だ、蓮君!リアムはまだ生きてるよ!」
 取り乱し飛び出しかけた蓮を、ジャックが慌てて制止する。
「落ち着いて…僕らの後ろに隠れてて」
「………でも……ッ!?」
「いいから……!」
 動揺する蓮の小さな身体を、ジャックは、自らの太めで大きな身体の背後へ匿った。それから愛嬌のある顔を険しくしつつ、倒れたリアムを気遣わしげな視線で見つめる。
「…………リアム…」
 血塗れの全裸を晒すリアムだが、呼吸のたびに肩が微かに揺れる様子で、まだかろうじて息があると知れた。命を絶たれていない事に少しほっとしながらも、強敵を前にしたジャックら混血人狼らの緊張は解けなかった。
『私としては蓮を差し出してくれさえすれば、君らのような半端者に手出しする気はないのだが…さ、どうするかね?』
「はっ、馬鹿言ってんじゃねえ!!」
 セオドアの言葉にシンが真っ向から抗すると、蓮を背後に庇ったジャックを除く3人の混血人狼らは、セオドアに対して扇状に展開して戦闘態勢を取った。
『おやおや…赤の他人の為に命を張ろうというのかい?なんとも無駄なことを…それとも4人がかりなら私に勝てるとでも…?』
「純血に敵うなんて、これっぽっちも思ってねえよ。けどよ…」
「こいつらはもう、赤の他人なんかじゃねえ…俺らの家族だ!」
 純血の人狼であるリアムが勝てなかった相手に、例え4対1だとしても混血人狼の彼らが、勝てる見込みなどおそらく万分の一もないだろう。けれど、だからと言ってこのままリアムを見捨てたり、その番である蓮をセオドアに差し出したりする訳にはいかなかった。
「家族を渡せなんて言われて…大人しく渡す奴はいないよ」
「…………え…」
 何故なら、まだ知り合って間もない、というより、ほんのつい昨日、今日に会ったばかりの間柄であっても、彼らにとってリアムも、蓮も、すでに一族の大切な一員──かけがえのない『家族』であったからだ。
 例えどれだけ人との混血でその血を薄めようとも、ジャックら人狼一族は、一族が本来持つ血族への信頼と繋がりを、百年以上経った今も大切に守り続けているのである。
「リアムも、リアムの大切な番も、てめえになんざ渡さねえ!!」
「そうだ!!彼も、蓮も、もう僕ら一族の人間なんだ!!」
「……みんな……ッッ」
 考えてみれば皮肉なことだ。純血を重んじたばかりに、リアムの一族は繋がりと信頼を失って3年前に滅び、里を離れ人との混血を選んだジャックらの一族は、最も大切な一族間の繋がりを守り、そして現在もこうして生き続けているのだから。
「……………ッ」
 そんな彼らの様子を庇われながら見ていた蓮は、胸を締め付ける暖かな気持ちを感じていた。
「…家族………」
 子供の頃はリアムとリアムの一族を、家族のように思い愛し信じていたのに、裏切られ傷付いてからは、リアム以外の者を心から信じる事を忘れていた。恐れていた。
「…リア……リアム……家族が…家族が居たよ……ッ」
 ずっと狭い檻の中に閉じ込めていた心が、解放されていくような感覚に、蓮は小さな身体を震わせる。そして彼は初めて心から思った。大きな青い目から、いくつもの涙を零しながら。

 リアムと2人で、あの長閑で小さな村へ帰りたい、と。

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