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「うん……解かった」
 でも、ああ、そうか。だからセツはあんなに怯えたみたいに、目を覚ました俺のことを抱き締めてきたのか。不思議に感じていたことを納得すると同時に、俺は、彼からそうまで思われてることに心が温かくなった。

 やっぱり俺、セツのことが、好きなのかな。
 彼のこと憎めない。憎み切れない。
 俺にあんな酷い事した奴なのに、俺に、死ぬより辛い屈辱を与えた男なのに。
 どうしてか嫌いになれない。むしろどんどん好きになってしまってる。
「俺……セツの、こと…?」
 しかもセツのことをどう『好き』なのかが、俺自身にも良く解らなくなってきていた。
 友人の様に?、親兄弟の様に?、それとも──?
「……………ッ」
 最初はただ『良い奴だ』と、好感を持っていただけなのに。今の俺のこの感情は、本当にただ、それだけなのか、そうじゃないのか。もしもただ好感を抱いているだけというのなら、青い目の少女を思い出す度に、この胸が苦しくなるのはなんでなのか。
 一族の犯した罪の意識から?セツの苦しみを思い遣ってのこと?それとも──?
 さっぱり解らない。この胸のもやもやしたものは、一体、なんなんだろう。

 理解不能な心の謎を抱えたまま、翌日、俺はさっそく森へと出掛けた。
 それは、結界の境界を目指すだけの、小さな箱庭せかいの中を歩く小さな冒険。
ただ、俺の心の整理を付けるためのだけの、俺にしか意味を持たないとても大切な旅路。

 セツに見守られながら歩くその道筋で、けれどすぐに俺は、俺の心に抱えた謎の想いに明確な解答を得ることとなった。
 

「今日も日差しが厳しい。コレを被って行け」
「あ、帽子まで用意してくれたんだ」
 帽子を被せて貰って荷物を背に部屋の外へ出ると、いつの間にかセツが離れ屋の高床に、梯子を取り付けてくれていた。屋敷の連中を警戒してのことか、母屋からは見えない離れ屋の裏側に。おかげで楽に下まで降りることが出来た。
『暑いから水分の補給はマメにしろ。足りなくなったら取り寄せてやるからな』
『ああ、あと、疲れたら無理せず休憩しろ。良いな!?』
 周囲のどこにも気配はないけど、姿を消したままセツは俺を見てくれている。森に入ってすぐに声だけが聞こえてきたけど、その心配性の保護者っぷりに俺は笑ってしまった。
「うん。ありがとう、セツ」
 ほんわかと温かくなる心。嬉しくて幸せな気分。
 セツが居る。俺のすぐ側に。俺を見ていてくれてる。
 目には見えないけど、気配もしないけど、彼が俺を包んでくれてる。安らぎを感じる。

「…………そっか…」
 森の中を歩き始めてすぐに、俺は昨夜、疑問に感じていたことへの答えを見付けだした。
 難しく考えすぎてた。
一晩寝て起きてみたら、こんなに簡単なことだったのだと理解した。

 やっぱり俺、セツのことが、好きなんだ。

 友人としてじゃない。家族としてでもない。
 俺はセツのことを、恋愛対象として好きなんだ、と。
『…?……どうした、ハル?』
「う、ううん!?なんでもない!」
 俺の独り言を聞きつけたのだろう、心配そうなセツの声が頭の中に響いた。途端、俺はカアッと顔が熱くなった。たった今セツのことを考えていた、だなんて言えなくて、とっさに誤魔化してしまったけれど、胸はドキドキと激しく鼓動を刻んでいる。
 セツのことが好きだ。しっくりと心に馴染む想い。
 彼が俺のことを気遣ってくれたり、あの綺麗な赤金色の瞳で見詰めてくれたりすると、すごく嬉しいし心が弾んだ。それに、彼が側に居てくれるだけで安心を感じるし、辛いことも苦しいことも耐えられる気がする。
 いったい何時から俺は、セツのことをこんなに強く想ってたんだろう。

 セツが居てくれれば、他には何もいらない、とまで。

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