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㉒
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それから始まった俺とセツの、2人しかいない世界での生活。すぐに俺は『セツは本当に神様だったんだな』って、改めて思い知らされることになった。
なにしろセツはその『神の力』とやらで、俺がほんの数時間水遊びをしていた間に、古めかしい離れ屋の中を近代的に作り変えてしまったのだから。
「俺、お風呂に入りたいって言っただけなのに…」
「気に入らなかったか??」
「ううん。嬉しいよ。ありがとう、セツ」
お風呂代わりの水遊びをして戻ったら、外側はまるで何も変わってないのに、中は現代風の部屋に様変わりしていた。扉を開いて室内を見た俺は一瞬、何が起こったのか?と我が目を疑い、一旦、部屋を出ると外と内とを何度も見比べてしまっていた。
「え…え?…な…なに、これ?」
セツはそんな俺を『してやったり』みたいな顔で黙って見てて、それがなんか悪戯が成功した子供みたいで親しみを感じた。端正な見た目とガキっぽい表情とのギャップが凄くて、彼に気付かれぬよう隠れてこっそり笑ってしまったけれど。
「すごいね…あ、トイレが水洗だ。あとこっちは…お風呂!!」
電気もなかった室内は、嘘みたいに明るく作り変えられていた。
無駄に広いだけだった室内には仕切りが増えてて、その扉の先にお風呂も出来てたし、古いトイレも水洗式に変わっていた。そして、寝室込みのリビングにはベッドの他に、ゆったりしたソファやローテーブル、おまけに大きな液晶テレビまで置いてあるのだ。
「…テレビ映んないよ…?」
だけど、テーブルの上のリモコンを操作しても、電源はついてもテレビ番組は何も映らない。なんとなくそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりここには電波が届かないんだ。なのにどうしてテレビなんか用意したんだろう??
「いや……それは、だな」
「ん?」
不思議に思って問い掛けたら、セツは照れくさそうに頬を染めて説明してくれた。
「ハルが…その、た、退屈かと思って…」
「…………ッッ!?」
なんと、神社の神主みたいなカッコをしたセツが、俺の為にテレビゲームを用意してくれたというのだ。見れば確かに、ゲーム機とソフトが、テレビ台の下に収まっている。
「………ふ、ふふ…っ」
唖然とした。ついで、おかしくなってきて笑ってしまう。
「ははっ、あははははっ、セツ…セツが、ゲームを買いに…ッ!?そ、そのカッコで…??」
たぶんきっとそんなことはしていないんだろうけど、俺は頭の中でセツがあの恰好のまま、ゲームショップへ行って色々選んで頭を悩ましている姿を想像してしまった。
白銀の長い髪を後ろで束ね、白を基調にした神主スタイルの大男が、違和感しかないゲームショップの店内で、困惑しつつ真剣に悩む様子を思い浮かべると、もう声を出して笑わずにはいられなくて。
「笑い過ぎだ…ハル…」
俺が笑うのに最初セツはふてた顔をしていたけど、少しすると釣られた様に声を上げて笑い始めた。そしてひとしきり笑ったあと、俺とセツは2人で1緒にゲームをプレイしたのである。
「くっ、この……!?なんと……ッ!」
「セツ、避ける方向逆!!それじゃ、全部当たりに行ってるって!」
「うぬぬ……!こ、こうか!?」
「そうそう…って、自分が避けてどうすんの…」
楽しかった。久しぶりに何もかも忘れて熱中した。ゲーム自体ももちろん楽しかったけど、たぶん、というか確実に初めてプレイしたんだろうテレビゲームに、セツが悪戦苦闘したり、真剣に一喜一憂する姿が、あまりにも微笑ましくて。好ましくて。
セツがずっと一緒にいてくれるというなら、ここで生きるのも悪くはないかも知れない。
気が付くと俺はそんな風にまで考え始めていて、あれほど辛くて哀しかった己の境遇への想いが、セツと過ごす内に少しずつ薄れていく気さえした。
なにしろセツはその『神の力』とやらで、俺がほんの数時間水遊びをしていた間に、古めかしい離れ屋の中を近代的に作り変えてしまったのだから。
「俺、お風呂に入りたいって言っただけなのに…」
「気に入らなかったか??」
「ううん。嬉しいよ。ありがとう、セツ」
お風呂代わりの水遊びをして戻ったら、外側はまるで何も変わってないのに、中は現代風の部屋に様変わりしていた。扉を開いて室内を見た俺は一瞬、何が起こったのか?と我が目を疑い、一旦、部屋を出ると外と内とを何度も見比べてしまっていた。
「え…え?…な…なに、これ?」
セツはそんな俺を『してやったり』みたいな顔で黙って見てて、それがなんか悪戯が成功した子供みたいで親しみを感じた。端正な見た目とガキっぽい表情とのギャップが凄くて、彼に気付かれぬよう隠れてこっそり笑ってしまったけれど。
「すごいね…あ、トイレが水洗だ。あとこっちは…お風呂!!」
電気もなかった室内は、嘘みたいに明るく作り変えられていた。
無駄に広いだけだった室内には仕切りが増えてて、その扉の先にお風呂も出来てたし、古いトイレも水洗式に変わっていた。そして、寝室込みのリビングにはベッドの他に、ゆったりしたソファやローテーブル、おまけに大きな液晶テレビまで置いてあるのだ。
「…テレビ映んないよ…?」
だけど、テーブルの上のリモコンを操作しても、電源はついてもテレビ番組は何も映らない。なんとなくそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりここには電波が届かないんだ。なのにどうしてテレビなんか用意したんだろう??
「いや……それは、だな」
「ん?」
不思議に思って問い掛けたら、セツは照れくさそうに頬を染めて説明してくれた。
「ハルが…その、た、退屈かと思って…」
「…………ッッ!?」
なんと、神社の神主みたいなカッコをしたセツが、俺の為にテレビゲームを用意してくれたというのだ。見れば確かに、ゲーム機とソフトが、テレビ台の下に収まっている。
「………ふ、ふふ…っ」
唖然とした。ついで、おかしくなってきて笑ってしまう。
「ははっ、あははははっ、セツ…セツが、ゲームを買いに…ッ!?そ、そのカッコで…??」
たぶんきっとそんなことはしていないんだろうけど、俺は頭の中でセツがあの恰好のまま、ゲームショップへ行って色々選んで頭を悩ましている姿を想像してしまった。
白銀の長い髪を後ろで束ね、白を基調にした神主スタイルの大男が、違和感しかないゲームショップの店内で、困惑しつつ真剣に悩む様子を思い浮かべると、もう声を出して笑わずにはいられなくて。
「笑い過ぎだ…ハル…」
俺が笑うのに最初セツはふてた顔をしていたけど、少しすると釣られた様に声を上げて笑い始めた。そしてひとしきり笑ったあと、俺とセツは2人で1緒にゲームをプレイしたのである。
「くっ、この……!?なんと……ッ!」
「セツ、避ける方向逆!!それじゃ、全部当たりに行ってるって!」
「うぬぬ……!こ、こうか!?」
「そうそう…って、自分が避けてどうすんの…」
楽しかった。久しぶりに何もかも忘れて熱中した。ゲーム自体ももちろん楽しかったけど、たぶん、というか確実に初めてプレイしたんだろうテレビゲームに、セツが悪戦苦闘したり、真剣に一喜一憂する姿が、あまりにも微笑ましくて。好ましくて。
セツがずっと一緒にいてくれるというなら、ここで生きるのも悪くはないかも知れない。
気が付くと俺はそんな風にまで考え始めていて、あれほど辛くて哀しかった己の境遇への想いが、セツと過ごす内に少しずつ薄れていく気さえした。
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