かむづまり──朱夏の庭で君と

RINFAM

文字の大きさ
上 下
15 / 36

しおりを挟む
「ふわぁ…なにこれ」
 昼過ぎ。ひとしきり水浴びをして気が済んだらしいハルを連れ、いない間にコッソリと改装しておいた離れ屋へと戻った。出掛ける前とは、まるで様変わりした室内を見渡したハルは、大きな青い目を丸くして感嘆の声を上げる。
「お前が遊んでる間に俺が作り変えといた。一応、現代人の家を参考にしたんだが…これで良かったか??」
 外側は今まで通りの外装で変化はないが、室内は現代風に──と言っても、あくまで和室なんだが──変えておいたら、ハルは驚いた顔で一旦外へ出て、ここが間違いなく離れ屋だという事実を確かめ、それからは興味津々の態で室内をあちこち見て回っていた。
「お風呂がある!!あっ、トイレだけ洋式だ!あとこれ、冷蔵庫とか…電気とか…どうしたの??」
 そう、俺はハルの生活に必要なものは、すべて揃えておいたのだ。電気や水道も人には見えぬ線で村へと繋ぎ、ここでも自由に使えるようにしておいた。ただし、電話などは結界に阻まれて使えないし、テレビも電波が阻まれ見ることは出来ない。
「んん?じゃあ、なんでテレビあるの??」
「ああ…いや、これはその、ハルがあの、ええと…『てれびげえむ』と言ったか??で、遊べた方が良いのかと思って……」
「………………えっ?」
 良く解らんが現代の子供は『コレ』で遊ぶらしいと知り、ハルの暇つぶしにでもなればと俺はそれらも用意しておいたのだ。何も映らないテレビは、その為のもの。そう言うとハルは、用意されたゲーム機やソフトを前に、腹を抱えて笑い出してしまった。
「なんだ??何がおかしいんだ??」
「だって、そ、そんな変なカッコしたセツが…お店でゲームソフト選んだり、買ったりしたのかって思ったら……ッッ」
「はあ??んなこと……」
 実際にそんなことはしてないのだが、あえて否定するのは止めておいた。何故って、せっかくハルが楽しげに笑っているのを、邪魔してしまうのは勿体ない気がしたからだ。

 なんなんだろうな。この不思議な感情。
 ハルといると、胸の奥が温かくなる。
 ハルの子供らしい笑顔。
 それを再び見られたことが、心が湧きたつほどに嬉しかった。

「笑い過ぎだ…ハル」
 そう言いながら俺も、声を上げて笑ってしまう。
 ああ、本当に不思議だな。ハルには驚かされてばかりだ。俺は知らなかった。こんなにも長く生きてるのに、ずっと今まで知らないままだった。人の笑った顔がこんなにも可愛くて、そして、釣られて笑ってしまうほどに嬉しいものだなんて。
 ずっと空虚に思えていた俺の心を、こんなにも温かく満たすものだったなんて。
『俺は…俺は、この子の笑顔を守るためなら……』
 なんでもしてやりたい。いや、なんでもする。

 ハルを、守りたい。護ってやりたい。

 後から思えばこの瞬間から俺は、名を与えてくれた人間に対する礼などではなく、俺自身の心からの思いでそう考え始めたのである。

 そうして、それが人の世で言う『愛』に変わるまで、それほど長い時を必要とはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

この世で一番可愛い子

すずかけあおい
BL
隣の席の男子にひと目惚れしちゃった男子高校生の話です。攻め視点です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...