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「ふわぁ…なにこれ」
昼過ぎ。ひとしきり水浴びをして気が済んだらしいハルを連れ、いない間にコッソリと改装しておいた離れ屋へと戻った。出掛ける前とは、まるで様変わりした室内を見渡したハルは、大きな青い目を丸くして感嘆の声を上げる。
「お前が遊んでる間に俺が作り変えといた。一応、現代人の家を参考にしたんだが…これで良かったか??」
外側は今まで通りの外装で変化はないが、室内は現代風に──と言っても、あくまで和室なんだが──変えておいたら、ハルは驚いた顔で一旦外へ出て、ここが間違いなく離れ屋だという事実を確かめ、それからは興味津々の態で室内をあちこち見て回っていた。
「お風呂がある!!あっ、トイレだけ洋式だ!あとこれ、冷蔵庫とか…電気とか…どうしたの??」
そう、俺はハルの生活に必要なものは、すべて揃えておいたのだ。電気や水道も人には見えぬ線で村へと繋ぎ、ここでも自由に使えるようにしておいた。ただし、電話などは結界に阻まれて使えないし、テレビも電波が阻まれ見ることは出来ない。
「んん?じゃあ、なんでテレビあるの??」
「ああ…いや、これはその、ハルがあの、ええと…『てれびげえむ』と言ったか??で、遊べた方が良いのかと思って……」
「………………えっ?」
良く解らんが現代の子供は『コレ』で遊ぶらしいと知り、ハルの暇つぶしにでもなればと俺はそれらも用意しておいたのだ。何も映らないテレビは、その為のもの。そう言うとハルは、用意されたゲーム機やソフトを前に、腹を抱えて笑い出してしまった。
「なんだ??何がおかしいんだ??」
「だって、そ、そんな変なカッコしたセツが…お店でゲームソフト選んだり、買ったりしたのかって思ったら……ッッ」
「はあ??んなこと……」
実際にそんなことはしてないのだが、あえて否定するのは止めておいた。何故って、せっかくハルが楽しげに笑っているのを、邪魔してしまうのは勿体ない気がしたからだ。
なんなんだろうな。この不思議な感情。
ハルといると、胸の奥が温かくなる。
ハルの子供らしい笑顔。
それを再び見られたことが、心が湧きたつほどに嬉しかった。
「笑い過ぎだ…ハル」
そう言いながら俺も、声を上げて笑ってしまう。
ああ、本当に不思議だな。ハルには驚かされてばかりだ。俺は知らなかった。こんなにも長く生きてるのに、ずっと今まで知らないままだった。人の笑った顔がこんなにも可愛くて、そして、釣られて笑ってしまうほどに嬉しいものだなんて。
ずっと空虚に思えていた俺の心を、こんなにも温かく満たすものだったなんて。
『俺は…俺は、この子の笑顔を守るためなら……』
なんでもしてやりたい。いや、なんでもする。
ハルを、守りたい。護ってやりたい。
後から思えばこの瞬間から俺は、名を与えてくれた人間に対する礼などではなく、俺自身の心からの思いでそう考え始めたのである。
そうして、それが人の世で言う『愛』に変わるまで、それほど長い時を必要とはしなかった。
昼過ぎ。ひとしきり水浴びをして気が済んだらしいハルを連れ、いない間にコッソリと改装しておいた離れ屋へと戻った。出掛ける前とは、まるで様変わりした室内を見渡したハルは、大きな青い目を丸くして感嘆の声を上げる。
「お前が遊んでる間に俺が作り変えといた。一応、現代人の家を参考にしたんだが…これで良かったか??」
外側は今まで通りの外装で変化はないが、室内は現代風に──と言っても、あくまで和室なんだが──変えておいたら、ハルは驚いた顔で一旦外へ出て、ここが間違いなく離れ屋だという事実を確かめ、それからは興味津々の態で室内をあちこち見て回っていた。
「お風呂がある!!あっ、トイレだけ洋式だ!あとこれ、冷蔵庫とか…電気とか…どうしたの??」
そう、俺はハルの生活に必要なものは、すべて揃えておいたのだ。電気や水道も人には見えぬ線で村へと繋ぎ、ここでも自由に使えるようにしておいた。ただし、電話などは結界に阻まれて使えないし、テレビも電波が阻まれ見ることは出来ない。
「んん?じゃあ、なんでテレビあるの??」
「ああ…いや、これはその、ハルがあの、ええと…『てれびげえむ』と言ったか??で、遊べた方が良いのかと思って……」
「………………えっ?」
良く解らんが現代の子供は『コレ』で遊ぶらしいと知り、ハルの暇つぶしにでもなればと俺はそれらも用意しておいたのだ。何も映らないテレビは、その為のもの。そう言うとハルは、用意されたゲーム機やソフトを前に、腹を抱えて笑い出してしまった。
「なんだ??何がおかしいんだ??」
「だって、そ、そんな変なカッコしたセツが…お店でゲームソフト選んだり、買ったりしたのかって思ったら……ッッ」
「はあ??んなこと……」
実際にそんなことはしてないのだが、あえて否定するのは止めておいた。何故って、せっかくハルが楽しげに笑っているのを、邪魔してしまうのは勿体ない気がしたからだ。
なんなんだろうな。この不思議な感情。
ハルといると、胸の奥が温かくなる。
ハルの子供らしい笑顔。
それを再び見られたことが、心が湧きたつほどに嬉しかった。
「笑い過ぎだ…ハル」
そう言いながら俺も、声を上げて笑ってしまう。
ああ、本当に不思議だな。ハルには驚かされてばかりだ。俺は知らなかった。こんなにも長く生きてるのに、ずっと今まで知らないままだった。人の笑った顔がこんなにも可愛くて、そして、釣られて笑ってしまうほどに嬉しいものだなんて。
ずっと空虚に思えていた俺の心を、こんなにも温かく満たすものだったなんて。
『俺は…俺は、この子の笑顔を守るためなら……』
なんでもしてやりたい。いや、なんでもする。
ハルを、守りたい。護ってやりたい。
後から思えばこの瞬間から俺は、名を与えてくれた人間に対する礼などではなく、俺自身の心からの思いでそう考え始めたのである。
そうして、それが人の世で言う『愛』に変わるまで、それほど長い時を必要とはしなかった。
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