上 下
21 / 29

母になります!!

しおりを挟む
「殿下…この仔はいったい?」
 私は淑女としてなるべく落ち着いて、冷静にそう問い掛けたつもりだったけど。
「でで…殿下…ッッ、ここ…きょの、この仔はいったい……ッッ」
 実際は噛むはどもるは息も荒いわで、かなり無様なことになっていたと思う。
 いや、だって、仕方がないでしょ!?
 
  この世界に猫はいない
 
 そう聞かされてどん底まで落ち込んで、生きてる意味すらないってくらいって思い込んでたのよ??
 なのにこの仔はなんなの??
 可愛い
 可愛すぎる!!
 茶と白のふわふわ体毛に、ちょこんとついた丸い耳。まだ開いたばかりの目は、なんだか目つきが悪いけども、それもまた仔猫の可愛さの一つ!!そしてみーみーと、甲高く小さな鳴き声。
 うあああああああっっっ!!!!
 天使!!!!
 いや天使でしょマジで!!??
「魔物ッ…魔物の幼体…ですわよね…??」
「えっ、ご、ごめん!!怖かった!?」
 確認のためこの仔の正体について質問したら、私が怖がってるかのように勘違いしたのだろう、殿下が手を伸ばして私の手から仔猫を奪い取ろうとした。
「なにするんですのーッッ!!」
 ので、私は奇声を上げながら素早く彼の手を避け続け、手の中で震える小さな仔猫を頑として死守した。
「えっ、え??こ、恐いんじゃないの?」
「こんな可愛い子のどこが怖いですかああああ!!!!」
 いかん。興奮しすぎて声のボリュームを調整できてない。
「ご、ごめんね~怖かったね~よしよし、大丈夫よ~」
 手の中で仔猫がビクッとしたのを感じて、私は声を極力抑え甘えた声で話しかけた。もちろん殿下にではなく、手の中の小さな仔猫に対して、だ。
「殿下のせいで怖がらせちゃったでしありませんか」
「えっ、これ、僕のせいなの??」
 私から当たり前みたいに責任転嫁されて、殿下は、その懐かしい容姿ばかりか、口調までも幼い頃のようになっていた。なんだか、きょとんっとした様子が、子供みたいで可愛い。
 ──あ、っていうか、ごめんごめん。
そうだよね。確かにこれ私のせいだった。と、一瞬遅れて我に返る。
「ごめんなさい…つい、興奮して…それで…あの、この仔は…」
「え、あ…あ、そうだったね…」
 叫んだおかげで、ちょっと落ち着いた。
という訳でようやく最初の疑問へ返ると、殿下もハッとして事情を話してくれたのだった。

 王都の北に位置する森。
 そこには比較的弱い魔物が多く生息していた。
 どのくらい弱いかというと、武器を持ってさえいれば、人間の大人なら簡単に倒せるくらいに。
 しかし弱いからといって放置すると、増えすぎた魔物が国民生活に被害を及ぼすかもしれない。
 そういう理由で数年に一度、大規模な魔物狩りが行われている。要するに間引きだ。
 そして今年はその『間引き年』で、つい先日、王家は騎士団を派遣して魔物を狩ったらしい。

 殿下の話を聞きながら私は『あ~それ、たぶん、ストーリー序盤の戦闘ステージだろうな~』などと秘かに考えていた。あれあれ、RPGにありがちな、初心者用ダンジョンみたいなとこ。感覚からしてレベル1から10くらい??の弱~い魔物しかいない、みたいな??
「あーるぴーじー??って??」
「あっ、いえ、なんでも…続きをどうぞ」
 しまった。うっかり口に出てたわ。
「あ、うん、続けるね」
 私の口から零れた前世の言葉に、殿下が『なんのこと??』と頭を傾げるので、私は適当に言葉を濁して誤魔化すと話を続けさせた。

「本来、ケット・シーは駆除対象外なんだ」
 何故かと言うと弱い魔物の中でも格段に弱いから。聞けばスライムに次ぐ弱さらしい。しかも繁殖力が弱く、生まれた子魔物の生存率も低いのだそうだ。
「けど…そうしたら、この仔はいったい…?」
「うん。どうやら子育て中に、他の魔物に襲われたようでね…騎士が見つけた時は、親と子がほとんど殺されていた状態だったらしい」
「…………ッッ」
 
 前世でもそういうことはよくあった。
 だからこそ親猫は仔猫を守るために、ちょくちょく子育ての巣を変えるのだ。
 それはすべての野生で生きる動物たちには、逃れられない運命のようなものだけれど。
 でも、SNSなどでそういう情報を見るたびに、私は貰い泣きをしていたものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...