転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM

文字の大きさ
上 下
16 / 35

陰謀と策略!?

しおりを挟む
 どうするか迷った。
 落書きを消して普通に座るか。それとも、どこか別の席に座るか。
 
 教室内の席には常に余裕がある。
 何故なら出席率はいつも100%ではないからだ。

 これは、実際なってみて解ったことだけど、貴族って暇なようでいて何かと日々忙しい人種なのだ。
 当主ともなれば領地経営はもちろんのこと、何もない日に突然、外せない予定が入ったりもする。と言ってもそれは主に社交関連ではあるのだけれど──しかし、貴族間の繋がりや交流というものは、彼らにとって時に命綱となるほど重要で、ゆえにどれだけ忙しくともそれらを無視するなど絶対にできないのだ。
 そんな『大人の付き合い』に加え、私の父のように政治へかかわる身分となれば、その分の仕事も鬼の如く追加される。
 もちろん、学園に通う子弟はまだ成人前の子供に過ぎないけど、だからと言って家の経営や社交に無関係ではいられなかった。跡目を継ぐ者ならなおさらだ。つまり、社交デビュー前の非公式な顔見せ、みたいな感じで、ちょくちょく家の社交に付き合わされたりする訳である。

 そういった事情も鑑みてか、学園も特に出席率に煩くなかった。

 なので生徒も毎日来る人ばかりではない。中には一週間に一度くらいしか見ない顔もあった。
 おまけに授業は一部選択制である。三つの必須科目以外は、皆、好きな授業を選んで参加するので、人気の授業と不人気の授業とでは、出席する生徒の数が大幅に異なったりした。

 しかし本日最初の授業は必須科目の一つである、魔法理論だ。ということは、いつもより出席率が高い。下手をすると席が埋まる。開始時刻を考えても、あまり迷ってる時間は無かった。

 ということで結局、私は落書きを消すのを諦めて、他の席に座ることにした。

 一応、試しにハンカチで拭いてみたのだが、その落書きは特殊なペンで書かれてるらしく、簡単には消えそうになかったからだ。
 うん。これたぶん、魔法油性ペンだわ。消すのに特殊溶液が必要なやつ。
 私が席を変わるのを見た生徒たちは、慌てたように次々と席へ着いた。まあ、そりゃそうよね。誰だって気分が良くないわ。あんな稚拙な落書きのある机で授業受けるの。なにせ私だって嫌だもん。しかも、明らかに私宛だし。まあ、亡き母がデベソだったかどうかは知らんけども。

 結果、授業開始三分前には、落書き席以外は全部埋まってしまっていた。

 今日に限って出席率が良い。
 最後の一人が休みだと良いわね…なんて考えていたら、軽やかにスキップを踏んでたっぽい足音がドアの前でピタリと止まった。そして、さっきまでのスキップは耳の迷い?とでも言うかのように、しずしずとおしとやかにドアが開かれた。うん。足音誤魔化すの、あと十秒遅かったよね。
「皆様、おはようございま……す!?」
 ドアから机の上の落書きは見えない。
 見えないのにも関わらず、その人物は一瞬硬直した。
 いつもと違う席に座る私の姿を見て。

 ああ……なるほど??
 犯人はお前か!!

 心の中で名探偵がビシィッと指差しをした。
つか、解りやすすぎでしょ…その反応??素人探偵でも秒で犯人わかっちゃうわ。
「……………ッッ!!」
 ため息ついたら、なんか睨まれました。いや、これ自業自得でしょ。諦めて席に着きなさい。
「…………」
 開始時刻の鐘の音に押されるようにして、しぶしぶと落書き席に着いたのは…紫がかった黒髪と瞳の絶世の美少女。はい。もう誰だかお分かりですね??

 本作のヒロイン…であるはずの、キャスリーナ・グスタフ男爵令嬢だった。

 ──っていうか、ことさらどうでも良いけど、ヒロインなのに字が汚いな??ひょっとして平民出身っていう設定生きてんのかしら。だとしたら、このクソゲー、変な所でリアリティ有り過ぎるな…ッ??
 などと、どうでも良いことを考えていたら、斜め前に座ったキャスリーナ嬢がニヤリと笑うのが見えた。おいおい…可憐なヒロインの見せる笑顔じゃないぞ??と私は脳内で突っ込みを入れ──そしてふと、あれ??これってひょとしてヤバイ状況なのでは??と思った。
「……………ッッ!」
 すると、案の定、ヒロインは大袈裟な身振りで顔を覆い、わざとらしく声を上げて泣き始めたのである。しかもちゃっかり、教室へ先生が入って来るタイミングに合わせて!!

「酷いわっ、アウローラ様…!!」

 あっ、やっぱりそう来たか。
 うん。まあ、そうなるよね。
 この状況、ことの最初から見てない人なら、絶対、私の仕業と思うはずだもの。

「こんな酷い落書き…あんまりです…!!」

 いや、それ、私の字じゃないからね。
 ついでにそんな特殊なペン、私持ってないわよ??

 ごく自然な流れで私を冤罪に落とそうとするキャスリーナ嬢を見詰めながら、やれやれ…また面倒な展開になりそうだ…と内心で深い深いため息をついた私だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...