ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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楽の戦士トーチの章

214.楽しさの消えた酒場-4

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「あんたはど――」
 と、さらに話を続けようとしたところで、近くを通りかかった店員に軽く肩をぶつけられた。
 単純に狭い道で立っていたのと、注文のせずに話し込んでいるんじゃないぞ、という二つの意味合いがあったのだろう。
 男は一瞬むっとしたように息を吐いたが、自分に落ち度があると思ったのか、一旦俺の隣に座った。
 そして今しがた肩をぶつけられた店員を呼ぶ。
「麦酒と定食」
 特に返事もなく、うんうん頷いて去って行った店員を見送ってから、男は話を再開した。
「それでだ、あんたは今までどうしてたんだ?」
「どう……って?」
 いろいろ懸案事項を抱えてはいるが、彼にりんごを渡した前後から、劇的に何かが変わったわけではないので、説明しにくい。
「あれから余裕が出来たときに、ちょくちょくあのギルドの様子を見に行ってたんだ。けど全然あんたのこと見かけなかったからよ、どうしてんのかなと思って」
「ああ……」
 もう許可証貰うのに立ち寄っているだけなので、見かけるのは相当困難だろう。時間も朝早いか夜遅いかの二択だし。 
「この酒場も、久しぶりに来たんじゃねえか」
「久しぶりは久しぶりだね。元々、そんなに来ないから、いつ来ても久しぶりには大体なっちゃうけど」
「仕事の方はどうなんだよ。ちゃんと食えてんのか? 見たところ冒険者はまだ辞めてねえみたいだが」
 なんか見当違いな心配をされている気がするので、誤解を解いておく。
「仕事はずっとぼちぼち続けてる。特に何も変わらず、そこそこに食べれてるよ」
「食えてるほど仕事してるって割には、ギルドで全然見かけなかったが」
 基本、食べられている冒険者というのは、多くの依頼をこなす人なので、必然的に斡旋所への出入りも多くなる、というのが一応恒例ではある。
「副業でもやってんのか?」
「もし副業で食えるなら、冒険者は止めるでしょ」
 まともな市民権を持っていない事が多い貧民街の住人では、まともな収入のある仕事に就くのは困難だ。
「そりゃそうか」
 そして男も、誰しもが認めるところだった。
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