ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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楽の戦士トーチの章

185.気が楽な場所

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 壁にボロが目立ってくると、いよいよ自分の世界に戻ってきたという感じがする。
 まだよく知らない所のはずだったが、感覚的な慣れで後はどこに向かえば帰れるのかはわかった。
 ミルノがどこまで一緒に来るのかわからないが、あまり治安がいいとは言えない場所まで引っ張るのは気が引けたので、早々に別れることにする。
「じゃあ、俺はここで。仕事の件でよろしく頼むよ」
「はい。ギルドの場所は大丈夫ですか?」
 彼女の勤め先については、ここまでの道すがらにも軽く説明された。通ったことのない道の事はわからないが、
「まあ、結局バーバリアンの近くだって事がわかれば、なんとかなると思う。よくわかんない道を歩くのは苦手じゃないし」
 最悪店主に聞けばいいというのもある。
「なんだが不安な言い方ですが、まあいいでしょう。それでは、またよろしくお願いします」
「うん」
 すっと後ずさってから、踵を返すミルノに軽く手を振る。
 彼女の姿を完全に見送ってから、俺もねぐらの馬小屋に戻ることにする。
 時刻は朝の静けさが、徐々に昼間の活気に塗り替わっていくところ。
 なんだか急に眠気が襲ってきた。
 今日はいろいろと普段と違う事があったせいだろうか。
 まったく知らない人と長く話したのもかなり久しぶりだ。気が付かないうちに、自分の周りの世界が随分狭くなっていて、それに慣れきっていたようだ。新しいことに触れると、後からどっと疲れが来る。
 ミルノとの新しい仕事もあるので、もう一度その辺りの認識を改めて、気を引き締めていかないと。
 そう心に決めつつ、今日のところはとりあえず疲れているので、食事の後の買い出しなどは一旦全て脇に放り投げて真っすぐに帰ることにする。
 いつもの藁のベッドに身体を預け、薄暗い馬小屋の隙間から零れてくる日差しに、心地よい眠気を感じながら俺は、次の夜まで一度意識を暗闇に沈めた。
 何だかんだ、こうして楽にしている時間が一番好きだと思いながら。
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