ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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楽の戦士トーチの章

173.楽し気な女-8

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 ミルノはずっと手をつけていなかった、自分のパンを千切る。
「先日、ダグラスさんからそれとなく話を伺いまして。私もいろいろと興味があったので、是非にと任せて頂きました」
「そういう割には、今日約束通りに現れなかったみたいだけど」
 ダグラス店長と同席するのを避けて、わざわざ時間を置いて俺の前に現れた理由もよくわからない。
 回りくどいことをしそうなタイプではあっても、いい加減な事はしそうにないので、ただ気分でやっているとは考えにくいが。
「現れたのが貴方だけであれば、お店で話をするつもりでしたよ。ただ知らないお嬢さんがいたので」
 メリルのことだろう。あの店までついてきたのは今日が初めてだったし、意図せずタイミングが合ってしまった。
「いたら何か問題があるのか?」
「人見知りなので緊張してしまうんですよ」
「その嘘つく必要あるのか」
 一度顔合わせているとは言え、街のど真ん中で話かけてきた奴が、仮に本当に人見知りだったとしても、それで緊張するとは思えない。
「貴方の事は把握していましたが、もう一人のお嬢さんの方は情報がありませんでしたからね。一応商談するつもりでいたので、素性のわからない人を交えたくはなかったんです。失礼な言い方ですけど、正式なギルドに所属していない冒険者独自人脈については、相当に疑っていますので」
 席を外して欲しいと言えばメリルは聞くだろうが、それはわかりようがないし、そうだとしても関係がないということだろう。
「彼女は先ほど言っていた、貴方が雇っている冒険者、という事でいいんですね?」
「ああ、うん」
「はした金で連れ歩いている情婦ではなく」
「お前すごい事言うな」
「よくある事ですから。可愛らしい人でしたし」
 言われて見れば、確かによくありそうな事ではある。
「まあこれは職業病のようなものなので。気を悪くされたらすみません」
 淡々した言い方に、冒険者の扱いへの心得を感じる。
 掴みどころのない変な奴だが、間違いなく専門家なのだとこの瞬間思った。
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