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楽の戦士トーチの章
164.楽が多くて大変
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「口座は作ったら教えてくれ。今後の支払いはそっちでやる。それともうひとつ。こっちの方が大事な話だったんだが――」
話ながら、店主はちょっと待てと言わんばかりに掌をこちらに向けて、一旦店内に入っていった。
探し物か、何か確かめているか、そんな気配が伝わってくる。
しばらくして、また店主は出て来たが、特に何が変わったわけではなく手ぶらのままだ。
「ったく、あいつどこに行ったんだ」
小さな声で悪態をつく。
「どうかしたんですか?」
「ああ、お前がこの間言ってた、蜜の仕入れ先を増やしたいって話な」
「え、ええ」
店主自ら話をしてくれると、ことになっていたやつだ。
「うちの客にその手の事情に詳しい奴がいてな。俺は知り合いの店と料理のことぐらいしかわからんが、そいつは販売ルートや全体の相場、それと冒険者の動向ってのもわかる」
「……何者ですか」
把握している内容的に、普通に同業か何かの関連職かもしれない。
「当人もお前に興味あるっていうから、今日少し話そうってことになってたんだが」
「来てないんですか?」
「いや、さっきまでいたんだが……見当たらねえんだ」
申し訳なさそうに店主が頭を掻く。
「急用でもあったんですかね」
「悪いな、次は必ず引っ張ってくるからよ」
「いえ、そんなに気にしないでください」
販売ルートの拡大についてはそこまで急ぎではない。むしろ今は、今の休日ありきのペースに慣れる必要もあるので、どんどん話が入ってくる方が大変だ。
拡大の話そのものが流れで有耶無耶になってしまうのは流石に困るが、現状はそういうことに悩めるだけ幸運だと思っておこう。
「とりあえず、その話は明日以降ってことで」
ひとまず今日の仕事は終了だ。
荷物の渡し忘れがないか、最終確認をしたのち、別れの挨拶をして路地裏から出る。
そして、バーバリアンの建物が完全に遠のいてから、ずっと黙っていたメリルが口を開いた。
「見かけよりずっとマメそうな店主さんでしたね」
「まあ、そうだね」
「お店もよさそうなところでした」
「美味しいよ。……高いけど」
そういうと、メリルは少し困ったような顔で笑った。少なくともバーバリアンについて、悪い印象は持たなかったようでよかった。
話ながら、店主はちょっと待てと言わんばかりに掌をこちらに向けて、一旦店内に入っていった。
探し物か、何か確かめているか、そんな気配が伝わってくる。
しばらくして、また店主は出て来たが、特に何が変わったわけではなく手ぶらのままだ。
「ったく、あいつどこに行ったんだ」
小さな声で悪態をつく。
「どうかしたんですか?」
「ああ、お前がこの間言ってた、蜜の仕入れ先を増やしたいって話な」
「え、ええ」
店主自ら話をしてくれると、ことになっていたやつだ。
「うちの客にその手の事情に詳しい奴がいてな。俺は知り合いの店と料理のことぐらいしかわからんが、そいつは販売ルートや全体の相場、それと冒険者の動向ってのもわかる」
「……何者ですか」
把握している内容的に、普通に同業か何かの関連職かもしれない。
「当人もお前に興味あるっていうから、今日少し話そうってことになってたんだが」
「来てないんですか?」
「いや、さっきまでいたんだが……見当たらねえんだ」
申し訳なさそうに店主が頭を掻く。
「急用でもあったんですかね」
「悪いな、次は必ず引っ張ってくるからよ」
「いえ、そんなに気にしないでください」
販売ルートの拡大についてはそこまで急ぎではない。むしろ今は、今の休日ありきのペースに慣れる必要もあるので、どんどん話が入ってくる方が大変だ。
拡大の話そのものが流れで有耶無耶になってしまうのは流石に困るが、現状はそういうことに悩めるだけ幸運だと思っておこう。
「とりあえず、その話は明日以降ってことで」
ひとまず今日の仕事は終了だ。
荷物の渡し忘れがないか、最終確認をしたのち、別れの挨拶をして路地裏から出る。
そして、バーバリアンの建物が完全に遠のいてから、ずっと黙っていたメリルが口を開いた。
「見かけよりずっとマメそうな店主さんでしたね」
「まあ、そうだね」
「お店もよさそうなところでした」
「美味しいよ。……高いけど」
そういうと、メリルは少し困ったような顔で笑った。少なくともバーバリアンについて、悪い印象は持たなかったようでよかった。
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