ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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楽の戦士トーチの章

120.極楽はあるか

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 辺りの様子がおかしいとはいっても、漂っている不穏な空気が見えているとか、そういうわけではない。
 もしそんな曖昧な基準なら、二人そろって同じようなタイミングで気が付かないだろう。
 現在の俺たちは、狩り場までのルートを以前まで使っていた迂回路から、ほぼ最短に近いものに変更している。
 通路に出現する魔物が、レベルの大幅な上昇とメリルの魔法の種類が増えたことによって、ほぼ脅威ではなくなったからだ。
 こそこそと怯える必要なく、堂々と進行しているわけだが、以前までの習慣で魔物の発生区域を把握する作業はやっていた。
 出てきても対処は容易に出来るので、前ほど厳密にはやっていないが、それでも大体どこを通っているタイミングで、どの魔物が出るかの見当はついている。
 何度も同じ道を通っていることもあり、それがメリルも次第にわかってきていたので、似たようなところで異変に気が付いたのだ。
 具体的には、今いる所ではほぼほぼ遭遇することになるウェアウルフとオークが、ここまでの区間でまったく出てこなかった。
 もちろん日にもよるが、0というのはかなり珍しい。大抵何かしらに察知される。
 他の魔物なら、罠などの待ち伏せもありうるが、今あげた二種はそういう小細工を必要とするタイプではないし、実際に使用してくることもない。
 では何故魔物が引いているのか、その答えはおおよそ2つに絞られる。一つは本当に運がいいだけ。もう一つは、
「トーチさん、あれ……!」
 先の通路の分岐点を指さしながら、メリルが潜めた声で言う。薄闇の中に、こんもりとした不自然な膨らみを見た。
 動き出す気配がない事を確認しつつ、慎重にそこに近づくと、予想した通りのものがある。
「う……」
 メリルが口元を抑えた。
 俺も見ていて気分のいいものではない。
 そこにあったのは、同業者の死体だ。
 ここの通路の分岐点は、片側が細くて死角になりやすいので、そこから不意打ちを受けやすい。
 反対の通路側に身に着けていたであろう装備の残骸が落ちているので、そこから奇襲を受けて吹き飛ばされてきたものと思われる。
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