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あまり楽とは言えない冒険者メリルの章
58.仕事自体は楽なはず
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「あの、それなんですか……?」
「これは夜甲虫。下層から中層ぐらいに生息してる、殻が硬くて魔法以外は通らないのに経験値が低くて、倒せるぐらいのレベルの人には相手にされないのが普通、みたいな微妙な魔物だよ」
「えぇ……それは……」
どうしようもない、という情報しかない。
「ただ、体液の蜜が結構な額で売れるんだ」
男が取り出している液体がそうなのだろう。無価値でない事はわかった。
「しょ、食用なんですか?」
「うん、美味いよ。ちょっと高いけど」
「へ、へぇ……」
彼は食したことがあるようだし、嘘をつく理由も見当たらないから、食べればそれなりの味はするのだろう。しかし、抽出経緯を見ても、出てきた蜜の色合い的にも、とてもそうは思えない。
だからこそ知らないところで高価に取引されている、ということなのだろうが。
引き気味のメリルをよそに、男は淡々と解体を終える。用があるのはその不気味な蜜だけで、他は投棄するようだった。
そして、再び壁の中から次なる夜甲虫を引きずり出す。
「ひょっとして、この虫を狩って行くんですか?」
「うん。これをひたすら火炎で焼くのが、とりあえずの君の仕事になるかなと思ってるけど」
「もっと、さっきみたいなすごい魔物とかは……?」
「あんな危ないだけでおいしくない奴と、何度も何度も戦うわけないでしょ」
もっともな事を言われた。
一応朗報ではある。苦戦もしないし、仕事としては恐ろしく地味で簡単と言っていいだろう。そこはほっとするべきところだが、
「じゃあ、もう一発お願い」
次を要求されたメリルは、杖を握りしめたまま目を逸らす。
中途半端に体力のある、魔法剣士のなり損ない魔術師の抱える懸案事項が、あっさりと露呈してしまったからだ。
「どうした?」
もじもじしたまま、一向に次の魔法を撃たないメリルに男が訊く。
「あ、あの……」
言葉を選ぶ。選んだところで、事実が動いてくれるわけではないのだから、そんなことは意味がない。あくまでも自分の気持ちの問題だ。
言いたくないことは、時間をかけて吐露することで、心の負荷を和らげたいというだけ。
「ファイアーボールは……撃てるんですが」
「うん」
「すぐ、2発3発というわけには……」
「うん?」
男は首を傾げた。
「どういうこと?」
メリルは杖をきつく握りしめて、どうにか絞りだす。
「えと、魔力疲労、というやつで、その……連発はちょっと……出来ないんです」
魔力というのは大きければ大きいほど負荷の大きい魔法を使うことが出来、負荷の軽い魔法はより多くの回数をこなせる。
そして、どんなに軽い魔法だろうと、使い続ければいずれ使えなくなる。それが魔力疲労。魔法の使い過ぎだ。
休憩を取ることによって回復するが、その回復力も魔力の大きさに依存しているため、一度の消耗が大きすぎると、休憩もこまめにしなければならなくなる。
中途半端に剣士の訓練をしてしまったせいで、最大魔力が低いメリルはこの傾向が顕著だ。
「つまり連射は無理ってこと?」
「あの……はい。攻撃魔法の適正も低くて……」
魔法にはそれぞれ術者ごとに得意な系統があり、魔力疲労のしやすさはそれに大きく関わってくる。
メリルはおおよその魔法使いが、初期から使用できる火炎魔法の適正が低かった。
純粋な魔術師であれば、低い適正でも2~3連射程度は最初から出来るので、彼もそう思っていたのだろう。
低い階層での散発的な戦闘なら騙し騙しやれたが、こうした集中的な狩りでは通用しない。本当に剣士の訓練に時間を使ったことが悔やまれる。
「あ、ある程度はレベルで解決出来るみたいなんですけど」
事実として魔力自体が増強されたり、使用回数を積み重ねることによる熟練度の向上で消費魔力が改善される。
だが、そこに期待して欲しいというよりは、一応やる気のあるところは見せておきたい、という気休め程度の言葉ではあった。
「これは夜甲虫。下層から中層ぐらいに生息してる、殻が硬くて魔法以外は通らないのに経験値が低くて、倒せるぐらいのレベルの人には相手にされないのが普通、みたいな微妙な魔物だよ」
「えぇ……それは……」
どうしようもない、という情報しかない。
「ただ、体液の蜜が結構な額で売れるんだ」
男が取り出している液体がそうなのだろう。無価値でない事はわかった。
「しょ、食用なんですか?」
「うん、美味いよ。ちょっと高いけど」
「へ、へぇ……」
彼は食したことがあるようだし、嘘をつく理由も見当たらないから、食べればそれなりの味はするのだろう。しかし、抽出経緯を見ても、出てきた蜜の色合い的にも、とてもそうは思えない。
だからこそ知らないところで高価に取引されている、ということなのだろうが。
引き気味のメリルをよそに、男は淡々と解体を終える。用があるのはその不気味な蜜だけで、他は投棄するようだった。
そして、再び壁の中から次なる夜甲虫を引きずり出す。
「ひょっとして、この虫を狩って行くんですか?」
「うん。これをひたすら火炎で焼くのが、とりあえずの君の仕事になるかなと思ってるけど」
「もっと、さっきみたいなすごい魔物とかは……?」
「あんな危ないだけでおいしくない奴と、何度も何度も戦うわけないでしょ」
もっともな事を言われた。
一応朗報ではある。苦戦もしないし、仕事としては恐ろしく地味で簡単と言っていいだろう。そこはほっとするべきところだが、
「じゃあ、もう一発お願い」
次を要求されたメリルは、杖を握りしめたまま目を逸らす。
中途半端に体力のある、魔法剣士のなり損ない魔術師の抱える懸案事項が、あっさりと露呈してしまったからだ。
「どうした?」
もじもじしたまま、一向に次の魔法を撃たないメリルに男が訊く。
「あ、あの……」
言葉を選ぶ。選んだところで、事実が動いてくれるわけではないのだから、そんなことは意味がない。あくまでも自分の気持ちの問題だ。
言いたくないことは、時間をかけて吐露することで、心の負荷を和らげたいというだけ。
「ファイアーボールは……撃てるんですが」
「うん」
「すぐ、2発3発というわけには……」
「うん?」
男は首を傾げた。
「どういうこと?」
メリルは杖をきつく握りしめて、どうにか絞りだす。
「えと、魔力疲労、というやつで、その……連発はちょっと……出来ないんです」
魔力というのは大きければ大きいほど負荷の大きい魔法を使うことが出来、負荷の軽い魔法はより多くの回数をこなせる。
そして、どんなに軽い魔法だろうと、使い続ければいずれ使えなくなる。それが魔力疲労。魔法の使い過ぎだ。
休憩を取ることによって回復するが、その回復力も魔力の大きさに依存しているため、一度の消耗が大きすぎると、休憩もこまめにしなければならなくなる。
中途半端に剣士の訓練をしてしまったせいで、最大魔力が低いメリルはこの傾向が顕著だ。
「つまり連射は無理ってこと?」
「あの……はい。攻撃魔法の適正も低くて……」
魔法にはそれぞれ術者ごとに得意な系統があり、魔力疲労のしやすさはそれに大きく関わってくる。
メリルはおおよその魔法使いが、初期から使用できる火炎魔法の適正が低かった。
純粋な魔術師であれば、低い適正でも2~3連射程度は最初から出来るので、彼もそう思っていたのだろう。
低い階層での散発的な戦闘なら騙し騙しやれたが、こうした集中的な狩りでは通用しない。本当に剣士の訓練に時間を使ったことが悔やまれる。
「あ、ある程度はレベルで解決出来るみたいなんですけど」
事実として魔力自体が増強されたり、使用回数を積み重ねることによる熟練度の向上で消費魔力が改善される。
だが、そこに期待して欲しいというよりは、一応やる気のあるところは見せておきたい、という気休め程度の言葉ではあった。
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