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あまり楽とは言えない冒険者メリルの章
54.楽には通れない道の中では楽
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現状の認識や、この男に対する評価は改めないといけない。
彼は予想していたよりも遥かに出来る人で、そんな人がわざわざメリルのような冒険者を雇ってまで加えている。
それはそうする理由があるということ。
「ご期待に沿えるよう、頑張ります」
生半可な気持ちではいけないと、メリルは気を引き締める意味でそう言った。
「よろしく頼むよ」
それじゃあ先に進もうか、と続けて歩き出した彼の後をメリルはついていく。
舗装が行き届いていない迷宮の道というのは、平らに見えても細かくでこぼこしている。足を取られないようにしていると、自然と男の足跡をなぞることになる。こういうところも、知らないと上手く歩けないのだろう。
しばらくして、彼が立ち止まったところで口を開く。
「……やっぱりすごいですね。楽に歩けますし、全然魔物に遭いませんし」
相変わらず男の調査には驚く。どんな低階層でも、ここまで長時間歩き通しなら、必ず魔物と一戦交えているはずなのだ。
本来メリルぐらいの冒険者では、ひとたまりもない魔物がひしめているはず。それを感じさせないのは、本当にすごい。彼は一人の冒険を否定したが、一人だったからこそ、こういう緻密な調査の動機があったのだから、やはりそこは素直に賞賛すべきだろう。
と、思っていると。
「うん、それなんだけどさ」
彼はやや気まずそうに、振り向いた。
「ちょっと後ろ向いて」
「はい?」
言われた通りに回れ右をする。
背後には、今まで歩いてきた道が続き、その先は暗闇に閉ざされている。
「何が……」
静かなものだと思っていたが、その闇の中できらりと光り、そして蠢く影を見た。
さらにその後、遅れて何かの足音が聞こえ始め、メリルはそこで何かがこちらに追走してきていることに気が付く。
ややして暗闇の中から、足音の主が姿を現す。
「ひえっ……!」
ウェアウルフだ。冒険者なら誰でも知っているレベルの、中層の定番の『壁』モンスター。
攻撃力が高く、素早い。体力は低いとされるが、呪文攻撃には若干ながら耐性を持っている。魔術師の天敵のようなタイプであり、メリルは一瞬で血の気が引いた。
「前の道で気付かれてると、大体この辺で追いつかれるんだ」
男は淡々と言いながら、メリルの前に進み出た出た。
しかも先頭を切って走ってきた奴の背後にもう一体いる。
「2体かー」
「だ、大丈夫なんですか」
「まあまあヤバイ」
「ほひぃっ! ど、どどどどうす」
「戦うしかないね。嫌だけど。でもこの道で来るなら、運はいい方」
結局大丈夫なのかどうなのかは、さっぱりわからない。
だが、メリルの出る幕がまったくない事はわかる。
彼は爪を構えると、
「何もしないでね」
とメリルに言い置いてウェアウルフたちに向かっていった。
彼は予想していたよりも遥かに出来る人で、そんな人がわざわざメリルのような冒険者を雇ってまで加えている。
それはそうする理由があるということ。
「ご期待に沿えるよう、頑張ります」
生半可な気持ちではいけないと、メリルは気を引き締める意味でそう言った。
「よろしく頼むよ」
それじゃあ先に進もうか、と続けて歩き出した彼の後をメリルはついていく。
舗装が行き届いていない迷宮の道というのは、平らに見えても細かくでこぼこしている。足を取られないようにしていると、自然と男の足跡をなぞることになる。こういうところも、知らないと上手く歩けないのだろう。
しばらくして、彼が立ち止まったところで口を開く。
「……やっぱりすごいですね。楽に歩けますし、全然魔物に遭いませんし」
相変わらず男の調査には驚く。どんな低階層でも、ここまで長時間歩き通しなら、必ず魔物と一戦交えているはずなのだ。
本来メリルぐらいの冒険者では、ひとたまりもない魔物がひしめているはず。それを感じさせないのは、本当にすごい。彼は一人の冒険を否定したが、一人だったからこそ、こういう緻密な調査の動機があったのだから、やはりそこは素直に賞賛すべきだろう。
と、思っていると。
「うん、それなんだけどさ」
彼はやや気まずそうに、振り向いた。
「ちょっと後ろ向いて」
「はい?」
言われた通りに回れ右をする。
背後には、今まで歩いてきた道が続き、その先は暗闇に閉ざされている。
「何が……」
静かなものだと思っていたが、その闇の中できらりと光り、そして蠢く影を見た。
さらにその後、遅れて何かの足音が聞こえ始め、メリルはそこで何かがこちらに追走してきていることに気が付く。
ややして暗闇の中から、足音の主が姿を現す。
「ひえっ……!」
ウェアウルフだ。冒険者なら誰でも知っているレベルの、中層の定番の『壁』モンスター。
攻撃力が高く、素早い。体力は低いとされるが、呪文攻撃には若干ながら耐性を持っている。魔術師の天敵のようなタイプであり、メリルは一瞬で血の気が引いた。
「前の道で気付かれてると、大体この辺で追いつかれるんだ」
男は淡々と言いながら、メリルの前に進み出た出た。
しかも先頭を切って走ってきた奴の背後にもう一体いる。
「2体かー」
「だ、大丈夫なんですか」
「まあまあヤバイ」
「ほひぃっ! ど、どどどどうす」
「戦うしかないね。嫌だけど。でもこの道で来るなら、運はいい方」
結局大丈夫なのかどうなのかは、さっぱりわからない。
だが、メリルの出る幕がまったくない事はわかる。
彼は爪を構えると、
「何もしないでね」
とメリルに言い置いてウェアウルフたちに向かっていった。
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