28 / 240
28.歓楽街より
しおりを挟む
路地から出てきていた人に、背後から結構大きな声で呼び止められて、驚いて身を翻したら、思いの他身体が軽やかに回ってしまい、3回転半ほどして立ち止まった。
「なにやってんのよ」
「すみません」
なんとなく謝りつつ相手を見ると、覚えのある雰囲気を持った人だった。
裾の長いドレスの上から、ファーのついたコートを着て、足元と首以外を完全に覆っている。少し濃い目の化粧といい、意図的に地肌を見せないような、そういうファッションになっている。
甘ったるい香水に紛れて、タバコとほのかにアルコールの匂いが漂ってくる。
間違いなく『夜の仕事』の人なので、知っている人の可能性はある。
というのも、訓練学校時代学費のために娼館で働いていたからだ。
基本的には女の商売だけども男手も必要――というより『商品』に余計な手を出されないためには、どこかで男が絶対的に必要になる。
女ばかりの職場のようで、その比率は半々ぐらいだ。
仕事の内容としては、いわゆるボーイや外での呼び込み、後はやはり掃除。
人手がいるが普通に雇うと高いので、都の外から借金の型として子供を買い取って安く使うことが多い。
俺もその一人ということだ。あの忌まわしい村から、子供一人の力で出るのは真っ当な手段だと難しいので、たまたま村に来た人買いに、便乗してここに来たという経緯がある。
賭けだったが、結果的には上手くいったというか、当たりの部類を引いたといえるだろう。。
務めた娼館は比較的大きくて、俺以外にもたくさん孤児が働いていた。先輩の娼婦が、持ち回りで読み書きなども教えてくれたし、育てば四六時中労働に駆り出されるあの村より、はるかに恵まれた環境だったといえる。村にいたら、一生字も本も読まなかった可能性すらあるし。
借金の型なので、当然借金を背負っていたが、それは既に完済済み。その後もしばらく住み込みのバイトみたいな感じで働いて、そのお金で訓練学校にも行き、今に至っている。
なので人よりは夜の世界には詳しいし、顔も効くってほどじゃないが知っている人はいる。
声をかけてきた女の人も、過去に恩がある人かもしれない。ただ娼館の女の人とは常に一定の距離を取っていたので、名前とかはあんまり覚えていない。女の人がそもそも多いので、覚えていられないというものある。
呼ぶときはどうしていたかというと、大体姐さんとか、年下っぽかったらお嬢ちゃんとか。周りも大体そんな感じで必要がなければ、ふんわりとした呼び方をしていた。
この人は見るからに風格があって上役っぽいので『おかみさん』って感じ。
「その目」
「え?」
「見たことあるのよね」
目が悪いのか、ただそういう癖があるのか、彼女は目を細めてぐっと顔を寄せてきた。
小柄だけど、独特の迫力がある化粧美人だ。
娼館で務めていると、女性の化粧前化粧後は割と見ることになるが、それについて言えば、なるほどなあ、という感じだ。
一応断っておくと、化粧したら元と全然違うから詐欺、みたいな感じに怒り出したりはしない。というより、元を良くするために化粧をしているのに、それで怒られるのは理不尽だなあ、とよく思っていた。
「『こっち』で前働いてなかった?」
親指で路地の奥を差す。今歩いている通りの裏に、そういう店が並ぶ歓楽街があるのだ。
「なにやってんのよ」
「すみません」
なんとなく謝りつつ相手を見ると、覚えのある雰囲気を持った人だった。
裾の長いドレスの上から、ファーのついたコートを着て、足元と首以外を完全に覆っている。少し濃い目の化粧といい、意図的に地肌を見せないような、そういうファッションになっている。
甘ったるい香水に紛れて、タバコとほのかにアルコールの匂いが漂ってくる。
間違いなく『夜の仕事』の人なので、知っている人の可能性はある。
というのも、訓練学校時代学費のために娼館で働いていたからだ。
基本的には女の商売だけども男手も必要――というより『商品』に余計な手を出されないためには、どこかで男が絶対的に必要になる。
女ばかりの職場のようで、その比率は半々ぐらいだ。
仕事の内容としては、いわゆるボーイや外での呼び込み、後はやはり掃除。
人手がいるが普通に雇うと高いので、都の外から借金の型として子供を買い取って安く使うことが多い。
俺もその一人ということだ。あの忌まわしい村から、子供一人の力で出るのは真っ当な手段だと難しいので、たまたま村に来た人買いに、便乗してここに来たという経緯がある。
賭けだったが、結果的には上手くいったというか、当たりの部類を引いたといえるだろう。。
務めた娼館は比較的大きくて、俺以外にもたくさん孤児が働いていた。先輩の娼婦が、持ち回りで読み書きなども教えてくれたし、育てば四六時中労働に駆り出されるあの村より、はるかに恵まれた環境だったといえる。村にいたら、一生字も本も読まなかった可能性すらあるし。
借金の型なので、当然借金を背負っていたが、それは既に完済済み。その後もしばらく住み込みのバイトみたいな感じで働いて、そのお金で訓練学校にも行き、今に至っている。
なので人よりは夜の世界には詳しいし、顔も効くってほどじゃないが知っている人はいる。
声をかけてきた女の人も、過去に恩がある人かもしれない。ただ娼館の女の人とは常に一定の距離を取っていたので、名前とかはあんまり覚えていない。女の人がそもそも多いので、覚えていられないというものある。
呼ぶときはどうしていたかというと、大体姐さんとか、年下っぽかったらお嬢ちゃんとか。周りも大体そんな感じで必要がなければ、ふんわりとした呼び方をしていた。
この人は見るからに風格があって上役っぽいので『おかみさん』って感じ。
「その目」
「え?」
「見たことあるのよね」
目が悪いのか、ただそういう癖があるのか、彼女は目を細めてぐっと顔を寄せてきた。
小柄だけど、独特の迫力がある化粧美人だ。
娼館で務めていると、女性の化粧前化粧後は割と見ることになるが、それについて言えば、なるほどなあ、という感じだ。
一応断っておくと、化粧したら元と全然違うから詐欺、みたいな感じに怒り出したりはしない。というより、元を良くするために化粧をしているのに、それで怒られるのは理不尽だなあ、とよく思っていた。
「『こっち』で前働いてなかった?」
親指で路地の奥を差す。今歩いている通りの裏に、そういう店が並ぶ歓楽街があるのだ。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)
mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。
王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか?
元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。
これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。
10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。
その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。
それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー?
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる