ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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19.注文ぐらい気楽にしたい

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 なんか一番客っていうのも少し気まずいなあと思っていると、俺が道を挟んで対面に店に向かう途中で、横からささっと歩いてやってきた人が先に入っていった。
 シュッとしたスーツを着た女の人……というか女の子だろうか? 
 髪は肩に届くぐらいのボブヘヤー。格好は大人びているが、背はあまり高くなく全体的に線が丸くて子供っぽい。ちらっと見た横顔も、若いというより幼い感じの、ちぐはぐな印象の人だった。
 確かなのは、明らかにここに通い慣れていること。身なりもちゃんとしているから、それだけの収入があるはず。
 まあ今日という日が終われば、しばらく視界に入ることもないであろう種類の人だろう。
 ちょっと怖いので一歩引いて様子を見て、彼女がスイングドアの向こうに完全に消えてから、俺も入店した。
 中は木目鮮やかな床に、壁は無骨なモルタルの色そのものだが、それがシンプルでいい感じの装いとなっている。
 丸太をそのまま切り出したような椅子。とりあえず表面を平らにした木を天板しただけ、と言わんばかりの歪なテーブルが並んでいる。
 もちろんそういうデザインであって、あくまで蛮族料理店のコンセプトに合わせただけのものだろう。
 それぞれ微妙に形の違うテーブルも、しっかり角が落とされているし、表面はすべすべしている。
 案内に出てきた店員に、
「お好きな席へどうぞ」
 丁寧に言われたが、明らかに顔はしかめられた。この店に来る人の格好はをしているとは言い難いのは自覚しているし、別にショックではない。
 通してもらえただけいいだろう。
 好きな席にということなので、先に入店した女が座ったカウンター付近から遠い、窓際の席に座った。
 女が一瞬こっちを見て鼻で嘆息した。ように見えた。
 別にショックではない(再掲)。
 まあ何にしても落ち着かない。
 メニューは壁に掛けてある札を見るようだが――ここで問題が発生。
 どれが夜甲虫の蜜を使った食い物なのかが、わからない。
 蜜は食事のメインになるようなものではなく、あくまで添え物だ。添え物をでかでかと書いたりしない。
 オムライスとかサンドイッチとか、メニューにあるのはそういう情報だ。添え物に夜甲虫の蜜がつきます、とかは敢えて書いていない。
 個別に注文すれば、メニューに無くても出てくるのかもしれないけど。どうせなら料理として食べたい。
 どうしようか。壁を眺めたまま呆然としてしまう。
 そんな俺を見ている店員から、「まさか金もないのに来たんじゃねえだろうな」的な圧力を感じる。
 助けになったのは、先に入店していた女だった。
 はーい、と手を挙げて店員を呼んだあと、
「パンケーキのセット、シロップはナイトハニーで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「コーヒー」
 というようなやり取りをしていた。
 俺は目をメニューに滑らせる。
 パンケーキのセット。メープル、バター、ジャム、ナイトハニーから、かける物を選べるようだ。
 多分このナイトハニー、っていうのが夜甲虫の蜜ではないだろうか。以前店主もそういう食べ方をするものだと、言っていた気がするし。
 なんでこんなわかりにくい表記なんだろう。夜甲虫の蜜、って書いてあるとなんか得体が知れない感じがするから、ナイトハニーとか書いてあるのか。このおしゃれ蛮族料理屋め。
 しかし、頼むものはこれで決まった。
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