ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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16.道具を使って楽をするのが手っ取り早い

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 というわけで、日を改めて時間を作り、少し遠出してお高めの武具が並ぶ通りにやってきたのだが、
「……8880G」
 ダメだ。
 まったく手が出ない。
 割と大金を握りしめてきたつもりだったのに。
 世の中いったいどうなってるんだ。
 俺が見たのは中位品の中でも廉価な小剣だ。
 内臓魔法なし、特殊効果なし、攻撃力が65あるだけという代物で8880は、天を仰ぐしかない。
 ただ小剣というのは、装備可能なクラスが多い比較的人気な武器。
 戦士系専用みたいな、少し不人気な物に目を向けると、
『ウォーハンマー 7300G 攻撃力96』
 さらに特価と書かれている。ほかの店を見てみると、同等品が10000前後なので、割安ではあるのだろう。
 割安でも買えないけど。
 手持ちの予算は3000ちょっと。
 初級者用の上位武器が1300Gで攻撃力30くらいなので、60なら倍額ぐらいでなんとか済むだろうと思っていたが、完全に甘かった。
 中級冒険者と底辺冒険者との壁は想像の5倍は厚かったわけだ。
 せっかく来て手ぶらじゃ帰りたくないが、ここで無駄使いするほどの余裕はないので、ひとまず退散しよう。
 と冷静に考えはしたが、人間そう簡単に割り切れるものではない。
 未練がましく、最後の一軒と思って別の店に入る。
 どうせ手の届くものはないだろうと思った、その店の売り場で俺はそれを見つけた。
 
『処分品2400G。鋼龍の爪、攻撃力63』

 店の真正面には本日の目玉商品があって、それに追いやられるように、しかし目立つようにそれは平積みされていた。
 在庫があまりまくっているので出来れば売れて欲しいが、人に勧めるのは憚られる。そんな店の意識が如実に表れた配置だった。
 俺はそれの前で腕組みして考え込んだ。
 安い。攻撃力の割に安い。
 武器のカテゴリが爪なので、武道家系の装備であることはわかる。武道家用の装備は剣なんかと違って、装備できる職業が極端に少ないので、数が余るとすぐに値崩れするというのは、まあわかるが。
 ふと、たまたま近くを通りかかった男性客に、俺は聞いた。
「あの、これってどうしてこんなに安いんですか?」
「え? あ……ううん?」
 急に話しかけられた客は訝しげに俺に見た。
「買うの?」
「なんか妙に安いので、どうなのかなと思って」
「あー、鋼龍の爪ってのは余りなんだよ。だから安い」
 客はやや舌足らずな様子で説明をしてくれる。
「余り?」
「鋼龍は鱗を使う。加工しやすくて、武器にも防具にも家具にもなる。丈夫で便利。鋼龍自体の強さもそこそこだから、みんな狩る。爪はそのついでに拾ってくる奴がいる程度のやつで、硬くて丈夫だけど……」
 男は詰まれた爪を手に取ると、伸縮させるようなジェスチャーを見せた。
「元が短くて長さも揃ってない。形も歪んでるから、包丁にも向かない。ちょっと研いでそのまま武器にするぐらいしか使い道がない。でも基本武道家用だから余って安い、それが鋼龍の爪」
「なるほど。でも本職の武道家にはありがたいんじゃないですか?」
「使ってる人もいないわけじゃないが……前衛の武器で攻撃力62はちょっと低いなあ。せめて80くらいは欲しい」
 63で低い、とは思わなかったが、このぐらいの冒険者になるとそういう感覚なのか。
「大体の人は上位の炎熊の爪を買ってる印象だね。攻撃力88で火炎魔法内臓のやつ。このぐらい威力があると安心かなあ」
「なるほど」
 装備として粗悪で問題があるというわけではなく、求められる必要性能に足りてないことと、競合品の人気が高いこと、そして狩り自体は人気だが、余りやすい部位だということ。
 さらに上位装備が優秀で、そっちに需要が集中している。
 安い理由は、こんなところか。
 品質上の問題でないのは朗報だ。
「参考までにお聞きしたいんですが、下位の……それこそオークとかウェアウルフみたいなのを倒すのには不都合ないですか?」
 男はえ? という顔をしてから、
「まあ、そんぐらいの雑魚なら十分、っていうか過剰なぐらいだと思うけど」
 俺に使用用途において、必要な性能は十分にある、ということも確認できた。
「どうも、参考になりました」
 と礼を言って店を出る。
 彼の話だと、どこの店でもあまりがちな物みたいなので、もっと安いのがあるかもしれないと思ったからだ。
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