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2nd STAGE
『桜子の歌』 ―4
しおりを挟む卵は脈動を続けていた。
いや、それどころか動きは大きく早くなっており、所々にひび割れのような赤い線が入っている。
桜子には今にも卵が割れそうに見えた。和やかな雰囲気は鳴りを潜め、絶望にも似た緊迫感がその場を支配した。
「間に合わなかった、のか――」
ダンバンの呟きが、どこまでも冷酷に現実を突きつける。桜子は全身から力が抜けていくのを感じた。その場に立っていられず、卵の前に膝をつく。
――嘘だ。頑張ったのに。やっと皆の役に立ったのに。こんな結末なんて酷すぎる。
自然と涙が溢れてきた。
滲む視界の中で卵が真っ赤に発熱していく。激しい熱気が部屋中に満ちた。
――なんで? 私、頑張ったよ? ・・・頑張りが足りなかったのかな?
ううん、もともと頑張っても駄目だったの?
・・・頑張っても、沙羅みたいなアイドルにはなれっこなかったの?
混乱する思考が桜子を現実から引き離す。
・・・それはただの癖だった。
辛い時や悲しい時、いつも自分を勇気づけてくれた歌。繰り返し口にしてきた歌詞が感情の綻んだ部分からつい漏れ出てしまった。それだけだった。
桜子は無意識のうちに歌を口ずさんでいた。
――溢れ出す想いに もう我慢が出来ないよ
私は飛び出すよ 心に描いた あの場所へ――
静かに細々とメロディは流れていく。
「これは・・・歌か?」
最初に気付いたのはマインだった。瞳を閉じ、流れる歌声に耳を澄ます。
心地良かった。胸に染み込んでくるようなその歌声を素直に綺麗だと思った。いっそ、このまま死を迎えるならそれでも良いとさえ思った。
そして、歌声に酔いしれているうちに・・・いつのまにか熱さを感じなくなっていることに気付いた。
「なんだ・・・?」
閉じていた瞳を開ける。そして歌っている桜子を見て、驚愕に声をあげる。
「お嬢ちゃん――!」
桜子は床に膝をついた姿勢のまま歌を歌っていた。
その体がぼんやりと白く光っている。まるで白く薄い羽衣でも纏っているかのように、白い光は形を変え揺らめいている。
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