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1st STAGE
『シャワーを浴びながら』 -4
しおりを挟む美羽の口から出てきたその名前に鼓動が高鳴るのを感じた。
「あの人の存在は大きかったから、一般の人達には今のアイドルはみんな小粒に映ってしまうんじゃないかしら」
「そうだよね。沙羅に比べたら誰だって霞んで見えちゃうに決まってるもん」
口ではそう答えても、どうしても夢想してしまう。
沙羅の様に歌う自分。
沙羅の様に踊る自分。
そして沙羅の隣で歌う自分――。
例えそれが実現不可能な夢だと分かっていても考えずにはいられない。
沙羅――。
そのルックスと神秘的な歌声で数々のミリオンヒットを記録し、日本中のファンを熱狂させた伝説のアイドル。
数えきれないほどのファンが彼女に魅了され、また多くの女の子が彼女に憧れ、アイドルを目指した。彼女のようになりたい、彼女と一緒に歌いたい、と。
しかし、2年前を境にパタリとTVで見なくなってしまう。
そのあまりにも突然な消え方に、当時は「消息不明」だの「誘拐された」だの色々と話題になった。今も様々な噂が飛び交っているが、芸能界を引退して一般人と結婚した、というのが有力な説になっている。
その強烈な個性は、アイドル史を語る上では外せないファクターとして、2年経った今なお強い影響力を持っていた。
そして、それは桜子にとっても例外では無かった。
「沙羅かぁ・・・」
陶酔した様に再びその名を口にする。
桜子にとって沙羅は憧れであり、手本であり、辿り着くことの無い目標であった。
発売された沙羅のCDは全て購入したし、ライブにも何度も通った。沙羅に書いて貰ったサイン色紙は自分にとっての宝物だ。桜子にとっては、アイドルを目指したきっかけも沙羅なら、目指しているアイドル像も沙羅そのものなのだった。
「桜子ちゃんは本当に沙羅が好きなのね」
美羽の言葉に、妄想しかけていた思考が引き戻される。
「うん! だって私にとっての憧れだもの!」
「ふふ。でもね、気をつけなくちゃいけないこともあるのよ」
「え? なに?」
「さっきも言ったことだけど、沙羅という特別なアイドルが居たおかげで、今のアイドルに対する要求はとても高いものになっているわ」
顔を向けると、こちらを向いている美羽と目が合った。その顔に浮かんでいるのはいつも通りの優しい微笑み。だが、瞳に宿る光は真剣そのものだ。
「本当にトップアイドルを目指すなら、沙羅と同じか超えるものを示さなくちゃいけない。それはとても難しいことよ」
「・・・そうだね」
「そう言う意味では、今の時代のアイドルにとって、沙羅は「呪い」とも言える存在なのかもしれないわね」
「沙羅が・・・呪い」
その言葉の意味を確かめるかのように呟く。
それは桜子にとって考えたことも無い事実だった。呪いという響きがザラリと喉の奥に溶け込んでいった。
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