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計画始動、そして○○へ
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まず手をつけるのは、食料の確保だ。
翌朝、私と旦那は早速動くことにした。
「とりあえず、ウトとトメの両方を一時的に追い出したいわね」
「そうだね。二週間くらいでいいなら、アイデアはあるけど」
「アイデア?」
おうむ返しに訊くと、チャーリーは大きく頷いた。
「家族旅行だよ……って、メイ。すっごいイヤそうな顔したね今。いや分かるけど」
私の心情を察したチャーリーが苦笑する。
いやだって。
思い出すだけで最悪だわ。
毎年毎年、年に二回バケーションで行くんだけど、そりゃもう嫁である私は小間使いですよ小間使い。下手したら奴隷? 的扱いですよ。馬車も違うし宿の部屋のランクも違うし食事内容も違うし雑用押し付けられまくるし。
チャーリーのカバーがなければぶちギレて暴れ倒してるところだ。
でも、確かにそんな時期だ。
心の底から消し去りたい記憶をとりあえず棚上げして、私は考え直す。
バケーションする時は、恐ろしいことに行政機能がストップする。正確に言うと決済や議会(という名のワガママウトとトメによる一方的なパワハラ会議)が滞るだけなんだけど。
とはいえ、火急な案件もストップ、及びスルーされるので良い状態ではない。
「でも、チャンスには違いないわね」
「うん。テキトーに理由つけて二人だけで旅行させればいいんじゃないかな。その間にやっちゃおう」
「それ、採用。すぐに決めちゃおうか」
チャーリーは大きく頷いた。
家族旅行という名の接待旅行は、毎回行く先を私たち夫婦が選ばないといけない。そこで満足できなかったら、まぁーあれこれあれこれ言われるのである。
どんな地獄だ。
砂漠のど真ん中に投げ出して後はがんばってね! って何度考えたか。
「今年は情勢的に見て、西しかないね」
「お忍びで外国まで追いやってみたら? ほら、こことか行きたがってたじゃない。海だし」
「あー、なるほど。海鮮は確かに食べたがってたね。海老とか、貝とか。バカンスにも良さそう(ついでにナマモノ食って食中毒になてくれないかな)」
「それに今年はこっちも暑いから、避暑地にもなるだろうし」
それなら飛び付いてくれそうだ。
よーし、早速プランを練ろう。私はチャーリーとささっと決めてしまう。
私とチャーリーは共同でアイデアを出し合って必要なものを箇条書きしていく。後は旅行プランナーにお任せである。
手紙をしたためて、はい終了。
ぶっちゃけ時間なんてかけてられないのである。もったいない。色々と。
つか旅行いきたいなら自分達で考えろ、自分達で。
「じゃ、本題に入ろっか」
チャーリーも同じ気持ちだったらしく、運ばれてきたお茶をくいっと飲んでからテーブルに書類を並べていく。
この国の食料事情である。
「足りなくなりそうなのは米、小麦、大麦、あと野菜類ね」
どれもうちの国じゃあ生産量が少ない。
一応、麦類に関しては、ライ麦と自然交配して生まれた荒れた山地でも成長する《ライヤマムギ》があるにはある。
ただ、弱点がある。小麦類と混ぜ合わせると風味が良くなって美味しく食べられるけど、単体じゃあ全然美味しくないのだ。
正直、お腹がすいてても不味いくらい。
なので、冬をこの《ライヤマムギ》だけで乗りきるのには無理がある。そもそも生産量自体が足りないし。
だから、小麦類の確保は最重要案件だ。
「今は先払いで小麦は確保してるんだよね」
「うん。食糧生産が豊かな地域へ、直接農家に出向いて確保してるみたいだね。しかも適正値段で、適量を広範囲から確保しようとしてる」
しかも帝国領域外が多い。
正しい関税を支払って入国し、農家へ直接交渉すれば、貿易関係は影響しないもんね。一ヵ所で多額になると危険だけど、迷惑をかけない程度なら問題ない。向こうも貿易相手を失って経済損失もあるわけだし。
「値切りもしてないわね」
このあたりは賢いと思う。
今回みたいな不安定な情勢だと、商人たちも儲けを重視する。つまり、金を積まれることでこっちの約束を反古にする、なんてことも起こり得るのだ。
もちろんうちに強い影響力があれば別だけど、悲しいかな、うちは周辺諸国のひとつに過ぎない。
ウトとトメもそういうとこだけは頭が回るのである。
もう少し国民のために使えよ。クソどもめ。
まぁ今回は勝手に国民のために使うけど。
「今時点での確保量でも、流出さえさせなければ冬はちゃんと越せそうではあるよ」
「確かにね。けど、一定量の流出は避けられないわ」
「じゃあもう少し確保する? っていっても、もうやり尽くしてる感はあるけど」
私は同意するように頷いてから唸る。
確かに、これ以上の確保は露骨だ。ウトとトメはやりそうだけど。
この辺りでストップさせておいた方がいいと私も思う。
「流出を最低限に抑えつつ、足りなくなりそうなのは代替で済ませるしかないわね」
「今から作付で間に合うって言われると……馬鈴薯になるかな」
「ああ、最近発見された品種だっけ。寒冷地でも育つんだよね? うん、悪くないと思うよ」
「じゃあ早速手配するね」
土地は余ってるところを活用すればいいしね。うん。
「あと、足りなくなりそうなのは、塩とかかな」
「言われてみれば。塩も帝国南部で生産してたわね」
帝国南部は一面が海に面していて広大だが、北は海に面している部分が少ない。
一応北でも生産してるけど、南部の損失を埋められる程の量は期待できないのは明白だ。塩の生産がどれだけの期間できないか不明だけど、長期化されるとすごく困る。
「すぐに買い付けを始めましょ。国内の商人たちに奨励して、なんとか国外から確保しないと」
「ある程度の期間をかければ確保可能だね。国が買い上げるっていえば担保にもなるかとは思うけど……」
商人協会がどう出るか、か。
あそこも大概に横柄なんだよねぇ。
「よし、じゃあ殴り込みにいこっか」
私は気軽にそう提案した。
翌朝、私と旦那は早速動くことにした。
「とりあえず、ウトとトメの両方を一時的に追い出したいわね」
「そうだね。二週間くらいでいいなら、アイデアはあるけど」
「アイデア?」
おうむ返しに訊くと、チャーリーは大きく頷いた。
「家族旅行だよ……って、メイ。すっごいイヤそうな顔したね今。いや分かるけど」
私の心情を察したチャーリーが苦笑する。
いやだって。
思い出すだけで最悪だわ。
毎年毎年、年に二回バケーションで行くんだけど、そりゃもう嫁である私は小間使いですよ小間使い。下手したら奴隷? 的扱いですよ。馬車も違うし宿の部屋のランクも違うし食事内容も違うし雑用押し付けられまくるし。
チャーリーのカバーがなければぶちギレて暴れ倒してるところだ。
でも、確かにそんな時期だ。
心の底から消し去りたい記憶をとりあえず棚上げして、私は考え直す。
バケーションする時は、恐ろしいことに行政機能がストップする。正確に言うと決済や議会(という名のワガママウトとトメによる一方的なパワハラ会議)が滞るだけなんだけど。
とはいえ、火急な案件もストップ、及びスルーされるので良い状態ではない。
「でも、チャンスには違いないわね」
「うん。テキトーに理由つけて二人だけで旅行させればいいんじゃないかな。その間にやっちゃおう」
「それ、採用。すぐに決めちゃおうか」
チャーリーは大きく頷いた。
家族旅行という名の接待旅行は、毎回行く先を私たち夫婦が選ばないといけない。そこで満足できなかったら、まぁーあれこれあれこれ言われるのである。
どんな地獄だ。
砂漠のど真ん中に投げ出して後はがんばってね! って何度考えたか。
「今年は情勢的に見て、西しかないね」
「お忍びで外国まで追いやってみたら? ほら、こことか行きたがってたじゃない。海だし」
「あー、なるほど。海鮮は確かに食べたがってたね。海老とか、貝とか。バカンスにも良さそう(ついでにナマモノ食って食中毒になてくれないかな)」
「それに今年はこっちも暑いから、避暑地にもなるだろうし」
それなら飛び付いてくれそうだ。
よーし、早速プランを練ろう。私はチャーリーとささっと決めてしまう。
私とチャーリーは共同でアイデアを出し合って必要なものを箇条書きしていく。後は旅行プランナーにお任せである。
手紙をしたためて、はい終了。
ぶっちゃけ時間なんてかけてられないのである。もったいない。色々と。
つか旅行いきたいなら自分達で考えろ、自分達で。
「じゃ、本題に入ろっか」
チャーリーも同じ気持ちだったらしく、運ばれてきたお茶をくいっと飲んでからテーブルに書類を並べていく。
この国の食料事情である。
「足りなくなりそうなのは米、小麦、大麦、あと野菜類ね」
どれもうちの国じゃあ生産量が少ない。
一応、麦類に関しては、ライ麦と自然交配して生まれた荒れた山地でも成長する《ライヤマムギ》があるにはある。
ただ、弱点がある。小麦類と混ぜ合わせると風味が良くなって美味しく食べられるけど、単体じゃあ全然美味しくないのだ。
正直、お腹がすいてても不味いくらい。
なので、冬をこの《ライヤマムギ》だけで乗りきるのには無理がある。そもそも生産量自体が足りないし。
だから、小麦類の確保は最重要案件だ。
「今は先払いで小麦は確保してるんだよね」
「うん。食糧生産が豊かな地域へ、直接農家に出向いて確保してるみたいだね。しかも適正値段で、適量を広範囲から確保しようとしてる」
しかも帝国領域外が多い。
正しい関税を支払って入国し、農家へ直接交渉すれば、貿易関係は影響しないもんね。一ヵ所で多額になると危険だけど、迷惑をかけない程度なら問題ない。向こうも貿易相手を失って経済損失もあるわけだし。
「値切りもしてないわね」
このあたりは賢いと思う。
今回みたいな不安定な情勢だと、商人たちも儲けを重視する。つまり、金を積まれることでこっちの約束を反古にする、なんてことも起こり得るのだ。
もちろんうちに強い影響力があれば別だけど、悲しいかな、うちは周辺諸国のひとつに過ぎない。
ウトとトメもそういうとこだけは頭が回るのである。
もう少し国民のために使えよ。クソどもめ。
まぁ今回は勝手に国民のために使うけど。
「今時点での確保量でも、流出さえさせなければ冬はちゃんと越せそうではあるよ」
「確かにね。けど、一定量の流出は避けられないわ」
「じゃあもう少し確保する? っていっても、もうやり尽くしてる感はあるけど」
私は同意するように頷いてから唸る。
確かに、これ以上の確保は露骨だ。ウトとトメはやりそうだけど。
この辺りでストップさせておいた方がいいと私も思う。
「流出を最低限に抑えつつ、足りなくなりそうなのは代替で済ませるしかないわね」
「今から作付で間に合うって言われると……馬鈴薯になるかな」
「ああ、最近発見された品種だっけ。寒冷地でも育つんだよね? うん、悪くないと思うよ」
「じゃあ早速手配するね」
土地は余ってるところを活用すればいいしね。うん。
「あと、足りなくなりそうなのは、塩とかかな」
「言われてみれば。塩も帝国南部で生産してたわね」
帝国南部は一面が海に面していて広大だが、北は海に面している部分が少ない。
一応北でも生産してるけど、南部の損失を埋められる程の量は期待できないのは明白だ。塩の生産がどれだけの期間できないか不明だけど、長期化されるとすごく困る。
「すぐに買い付けを始めましょ。国内の商人たちに奨励して、なんとか国外から確保しないと」
「ある程度の期間をかければ確保可能だね。国が買い上げるっていえば担保にもなるかとは思うけど……」
商人協会がどう出るか、か。
あそこも大概に横柄なんだよねぇ。
「よし、じゃあ殴り込みにいこっか」
私は気軽にそう提案した。
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