17 / 24
ぶっ飛ばす!
しおりを挟む
不吉なドラゴン。
かの漆黒の肌を持つドラゴンは、そう呼ばれている。歴史上、力と災いを同時に王国へもたらし、混乱に叩き落とす存在として恐れられている。
ふう、と、テレジアは息を吐いた。
突如現れたドラゴンからの不意打ちのせいでダメージを受けてしまっている。さらに、みんなを避難させることを優先したせいで不利な防戦を強制され、疲れている。
そんなテレジアを助けようと、四人の聖女候補生も協力してくれたが、あえなく倒されている。
無理もない。
何せ、彼女たちに力を与えたのは他でもない、この不吉なドラゴンなのだから。
本来、このドラゴンを追い払うには討伐軍を編成し、犠牲を払わなければかなわない。
『ルオォォオオオンっ!』
ドラゴンが咆哮を放ち、凶悪な牙の揃う口から豪快な焔が放たれる。
空気が白熱し、地面が真っ黒に焦げてぼろぼろになっていく。その破壊の範囲は広く、威力も絶対に直撃は避けたい威力だ。
当然、テレジアもイーグルも回避している。
圧倒的な危機だった。
ひゅう、と熱せられた空気を吸い込み、テレジアはドラゴンを睨んだ。
「ちょっと、やるじゃないの」
「いや、ドラゴン相手にそんな上から目線聞いたことありませんよ」
「こんな時にでもツッコミをどうも」
テレジアは汗を拭う。
この日のために用意したとっておきのドレスはもうズタズタで、生徒たちと商人たちが力を合わせて設営した会場もボロボロだ。
人命最優先で動いたせいで、設備までは手が回らなかった。
――まだまだね、私も。
テレジアは軽いめまいを覚える。
空気が焼き尽くされたせいだろう、肺に入ってくる気配が薄い。
『――グォオオオオンっ!』
またドラゴンが唸り、巨体を駆って爪の猛攻撃をくわえてくる。左へ逃げると、そこに火炎のブレスが叩き込まれてきた。
素早くイーグルが着地し、剣を地面に突き立てる。
「大地よ、守護の方陣!」
魔力を開放し、光の結界を展開。
凄まじい炎を受け止めるが、あっという間に結界が熔けていく。
「威力が、さっきよりも増してる!?」
「最上位祈聖防壁っ!」
驚くイーグルの後ろで、テレジアが魔法を展開、結界を最大強化した。
だが、それでもブレスの威力が勝る。
結界が弾け、二人は吹き飛ばされた。
「テレジアっ!」
イーグルが必死にテレジアを抱きとめ、炎の残滓を背中で受け止めながらも着地、テレジアへの被害を防ぐ。
「イーグルっ! 最上位祈聖回復魔法!」
背中から黒い煙を上げるイーグルに、テレジアは魔法をかけた。
見る間に傷が消えていく。
「すみません、テレジア……」
「いいのよ。こっちこそありがとう」
イーグルの判断は正しい。
テレジアが大ダメージを受けた場合、治癒魔法を実行することさえかなわないのだから。
「立てる?」
「もちろん」
テレジアは手を差し出し、イーグルを起こす。
『グルルル……』
唸り声だけで、身体が揺れた。
「あー、まったく……これも東欧王国の仕業なのかしらね?」
「確証はありませんよ」
「ま、聞き取り出来そうにもないものね」
ドラゴンはすっかり理性を失っている。
本来なら会話くらいは可能なはずだが、テレジアとイーグルとの戦いですっかり我を失っているらしい。
呆れてものも言えない。
「では、どうしますか?」
イーグルに逃げる姿勢はない。テレジアを逃がして自分は犠牲になろうとした男なのだから当然か。
テレジアは嬉しく思いながらも、無遠慮に野性的な笑みを浮かべた。
「決まってるじゃないの」
腕をぶんぶん振り回しながら、テレジアはどんどんドラゴンへ近寄っていく。
「ぶっ飛ばす」
と、野蛮な一言をたたき出す。
「テ、テレジア!?」
「誰かにのせられたんだか、自分でけしかけてきたか知らないけどね。私たちが頑張りに頑張って作り上げたこのイベント、よぉおおおくも台無しにしてくれたわね? しかも私の愛するイーグルにケガまで負わせてくれちゃって。あとドレスも台無しにしてくれちゃってさ」
全身からほとばしるのは、膨大な魔力。
かつてない量に、イーグルは一瞬だけ顔をひきつらせてから、さっさと距離を取る。
そう。テレジアはキレている。
それもかつてない程に。
あのアークレイの時でさえ、手加減できていたテレジアが、である。
「ドラゴンの分際でよくもまぁ……覚悟することねっ! そして永劫に反省し続けるがいいわ!」
テレジアが踏み込み、拳をつきだす。
聞いたことのない空気の破裂音が響き、周囲に衝撃波を放ちながら拳がドラゴンの顔面に文字通りめり込んだ。
あまりに重々しい音が響き、地面が大きくひび割れてから陥没していく。
「ブッ飛べぇええええええええ――――――――っ!」
ごうっ!
『ぎゅええええええええええ────っ!?』
奇声をあげ、ドラゴンがねじれ回転しながら上空へ殴り飛ばされていく。
ものの数秒で、ドラゴンは見えなくなった。
「星になって反省しなさい」
渾身の一撃を叩き込んだテレジアは手を叩きながら言い放つ。
そんな彼女に拍手を送るのは、イーグルただ一人だった。
「まさか凶悪きわまりないドラゴンをワンパンで仕留めるとは思いもしませんでした」
「ふんっ。みんなの結束を邪魔するからよ」
「さすがとしか言えませんね」
イーグルは言いつつも、テレジアに手を伸ばす。甘えるようにテレジアも手を取り、引っ張りあげてもらった。
それなりの勢いがついていて、テレジアはイーグルに抱き止められる。
「まったく……相変わらず心配させてくれる」
「できないことはしないわよ、私」
「分かってますよ。さて、とりあえず後片付けからですね。それから避難したみんなを呼び戻して、聖女候補生たちを治療して、イベントの続きをしましょう。まあ、完全に復活とはいきませんが」
「ええ、そうね」
ぎゅっと抱き合って、二人はまた口づけを軽く交わした。
かの漆黒の肌を持つドラゴンは、そう呼ばれている。歴史上、力と災いを同時に王国へもたらし、混乱に叩き落とす存在として恐れられている。
ふう、と、テレジアは息を吐いた。
突如現れたドラゴンからの不意打ちのせいでダメージを受けてしまっている。さらに、みんなを避難させることを優先したせいで不利な防戦を強制され、疲れている。
そんなテレジアを助けようと、四人の聖女候補生も協力してくれたが、あえなく倒されている。
無理もない。
何せ、彼女たちに力を与えたのは他でもない、この不吉なドラゴンなのだから。
本来、このドラゴンを追い払うには討伐軍を編成し、犠牲を払わなければかなわない。
『ルオォォオオオンっ!』
ドラゴンが咆哮を放ち、凶悪な牙の揃う口から豪快な焔が放たれる。
空気が白熱し、地面が真っ黒に焦げてぼろぼろになっていく。その破壊の範囲は広く、威力も絶対に直撃は避けたい威力だ。
当然、テレジアもイーグルも回避している。
圧倒的な危機だった。
ひゅう、と熱せられた空気を吸い込み、テレジアはドラゴンを睨んだ。
「ちょっと、やるじゃないの」
「いや、ドラゴン相手にそんな上から目線聞いたことありませんよ」
「こんな時にでもツッコミをどうも」
テレジアは汗を拭う。
この日のために用意したとっておきのドレスはもうズタズタで、生徒たちと商人たちが力を合わせて設営した会場もボロボロだ。
人命最優先で動いたせいで、設備までは手が回らなかった。
――まだまだね、私も。
テレジアは軽いめまいを覚える。
空気が焼き尽くされたせいだろう、肺に入ってくる気配が薄い。
『――グォオオオオンっ!』
またドラゴンが唸り、巨体を駆って爪の猛攻撃をくわえてくる。左へ逃げると、そこに火炎のブレスが叩き込まれてきた。
素早くイーグルが着地し、剣を地面に突き立てる。
「大地よ、守護の方陣!」
魔力を開放し、光の結界を展開。
凄まじい炎を受け止めるが、あっという間に結界が熔けていく。
「威力が、さっきよりも増してる!?」
「最上位祈聖防壁っ!」
驚くイーグルの後ろで、テレジアが魔法を展開、結界を最大強化した。
だが、それでもブレスの威力が勝る。
結界が弾け、二人は吹き飛ばされた。
「テレジアっ!」
イーグルが必死にテレジアを抱きとめ、炎の残滓を背中で受け止めながらも着地、テレジアへの被害を防ぐ。
「イーグルっ! 最上位祈聖回復魔法!」
背中から黒い煙を上げるイーグルに、テレジアは魔法をかけた。
見る間に傷が消えていく。
「すみません、テレジア……」
「いいのよ。こっちこそありがとう」
イーグルの判断は正しい。
テレジアが大ダメージを受けた場合、治癒魔法を実行することさえかなわないのだから。
「立てる?」
「もちろん」
テレジアは手を差し出し、イーグルを起こす。
『グルルル……』
唸り声だけで、身体が揺れた。
「あー、まったく……これも東欧王国の仕業なのかしらね?」
「確証はありませんよ」
「ま、聞き取り出来そうにもないものね」
ドラゴンはすっかり理性を失っている。
本来なら会話くらいは可能なはずだが、テレジアとイーグルとの戦いですっかり我を失っているらしい。
呆れてものも言えない。
「では、どうしますか?」
イーグルに逃げる姿勢はない。テレジアを逃がして自分は犠牲になろうとした男なのだから当然か。
テレジアは嬉しく思いながらも、無遠慮に野性的な笑みを浮かべた。
「決まってるじゃないの」
腕をぶんぶん振り回しながら、テレジアはどんどんドラゴンへ近寄っていく。
「ぶっ飛ばす」
と、野蛮な一言をたたき出す。
「テ、テレジア!?」
「誰かにのせられたんだか、自分でけしかけてきたか知らないけどね。私たちが頑張りに頑張って作り上げたこのイベント、よぉおおおくも台無しにしてくれたわね? しかも私の愛するイーグルにケガまで負わせてくれちゃって。あとドレスも台無しにしてくれちゃってさ」
全身からほとばしるのは、膨大な魔力。
かつてない量に、イーグルは一瞬だけ顔をひきつらせてから、さっさと距離を取る。
そう。テレジアはキレている。
それもかつてない程に。
あのアークレイの時でさえ、手加減できていたテレジアが、である。
「ドラゴンの分際でよくもまぁ……覚悟することねっ! そして永劫に反省し続けるがいいわ!」
テレジアが踏み込み、拳をつきだす。
聞いたことのない空気の破裂音が響き、周囲に衝撃波を放ちながら拳がドラゴンの顔面に文字通りめり込んだ。
あまりに重々しい音が響き、地面が大きくひび割れてから陥没していく。
「ブッ飛べぇええええええええ――――――――っ!」
ごうっ!
『ぎゅええええええええええ────っ!?』
奇声をあげ、ドラゴンがねじれ回転しながら上空へ殴り飛ばされていく。
ものの数秒で、ドラゴンは見えなくなった。
「星になって反省しなさい」
渾身の一撃を叩き込んだテレジアは手を叩きながら言い放つ。
そんな彼女に拍手を送るのは、イーグルただ一人だった。
「まさか凶悪きわまりないドラゴンをワンパンで仕留めるとは思いもしませんでした」
「ふんっ。みんなの結束を邪魔するからよ」
「さすがとしか言えませんね」
イーグルは言いつつも、テレジアに手を伸ばす。甘えるようにテレジアも手を取り、引っ張りあげてもらった。
それなりの勢いがついていて、テレジアはイーグルに抱き止められる。
「まったく……相変わらず心配させてくれる」
「できないことはしないわよ、私」
「分かってますよ。さて、とりあえず後片付けからですね。それから避難したみんなを呼び戻して、聖女候補生たちを治療して、イベントの続きをしましょう。まあ、完全に復活とはいきませんが」
「ええ、そうね」
ぎゅっと抱き合って、二人はまた口づけを軽く交わした。
10
お気に入りに追加
1,002
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された悪役令嬢は辺境で幸せに暮らす~辺境領主となった元悪役令嬢の楽しい日々~
六角
恋愛
公爵令嬢のエリザベスは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を言い渡される。理由は王太子が聖女と恋に落ちたからだという。エリザベスは自分が前世で読んだ乙女ゲームの悪役令嬢だと気づくが、もう遅かった。王太子から追放されたエリザベスは、自分の領地である辺境の地へと向かう。そこで彼女は自分の才能や趣味を生かして領民や家臣たちと共に楽しく暮らし始める。しかし、王太子や聖女が放った陰謀がエリザベスに迫ってきて……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった
月
恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。
そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。
ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。
夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。
四話構成です。
※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです!
お気に入り登録していただけると嬉しいです。
暇つぶしにでもなれば……!
思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。
一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
無能と罵られた私だけど、どうやら聖女だったらしい。
冬吹せいら
恋愛
魔法学園に通っているケイト・ブロッサムは、最高学年になっても低級魔法しか使うことができず、いじめを受け、退学を決意した。
村に帰ったケイトは、両親の畑仕事を手伝うことになる。
幼いころから魔法学園の寮暮らしだったケイトは、これまで畑仕事をしたことがなく、畑に祈りを込め、豊作を願った経験もなかった。
人生で初めての祈り――。そこで彼女は、聖女として目覚めるのだった。
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
聖女とは国中から蔑ろにされるものと思っていましたが、どうやら違ったようです。婚約破棄になって、国を出て初めて知りました
珠宮さくら
恋愛
婚約者だけでなく、国中の人々から蔑ろにされ続けたアストリットは、婚約破棄することになって国から出ることにした。
隣国に行くことにしたアストリットは、それまでとは真逆の扱われ方をされ、驚くことになるとは夢にも思っていなかった。
※全3話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる