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見ぃつけたっ?

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 テレジアは魔法の才能にも恵まれている。
 好奇心に満ち溢れる彼女は、あっという間に師匠を追い抜かし、あらゆる魔法に精通した。さらに品格の高さから、幼い頃に聖女として選抜された過去がある。
 史上最年少にして、史上最強。

 テレジアの数ある功績の一つだ。

 聖女は任期制で、最大で三年間。
 テレジアはその間、困っている民を救い、時には勇敢に戦い、悪竜さえも討伐し、立派に勤めあげた。
 まさに国のアイドルだったが、テレジア自身が大侯爵の令嬢であると名乗らなかったため、テレジアがその伝説の聖女だと知る者は少ない。
 そんなテレジアには、一つの秘密がある。


 ◇ ◇ ◇


 ──さて、と。 
 僅か半日でメリッサ派閥を支配すると、テレジアは早速行動に移していた。
 既にメリッサの恥はアンゼル派閥伝わっているようで、翌日からは早くも嘲笑を浴びせてくるようになっていた。

 だがこれは序の口だ。

 直にエスカレートして、もっと分かりやすい嫌がらせに出てくるだろう。
 そんな状況下で、テレジアは自らが統率するメリッサ派を巧みに誘導し、嫌がらせを受けにくいように立ち回っていく。
 そうやって過ごすこと数日。
 必然的に目立つのはテレジアで、嫌がらせの矛先はテレジアに向けられた。

「……あら、ごきげんよう。何やらお揃いですのね」

 あくまで人当たりの良い笑顔のまま、テレジアは言う。
 少し話がある、とクラスメイトに呼び出されて向かったのは、誰も使っていない空き教室だった。
 おあつらえ向きに教室のカーテンは全て閉められていて、薄暗い。

 数は、一〇人。

 気配で人数を数え、テレジアはほんの僅かだけ目を細める。
 教室の中へ誘導されると、すっかりと囲まれてしまった。

 ──……逃がすつもりはない、というこおね。面白い、面白いわぁ!

 内心でうずうずしながらも、テレジアは不安そうな顔を見せる。
 それを見逃さず、攻撃が始まった。

「ちょっと貴女。どうにもこうにも目立っているのではなくて?」

 口火を切ってきたのは、テレジアの正面で腕を組む気の強そうな女子だった。
 このグループの中ではリーダー格か、それとも前衛タイプなのか。見極めつつ、テレジアは首を傾げた。

「目立っている、ですか?」
「そうよ。転入早々メリッサに上手く取り入ったようだけど、勘違いなさってないかしら。調子に乗ってあれこれ発言したり、取り巻きを引き連れたり。まして、ついさっきなんて廊下の真ん中を歩くなんて!」

 女子は目と眉を一気につり上げてから捲し立ててくる。
 それからもあーだこーだと言われ、周囲が同調して頷いたり、相づちを打ったり。ともあれあたかもテレジアが悪いのだと思い込ませる作戦らしい。

 涼しい顔でテレジアは聞き流す。

 最初こそ不安そうな顔を作っていたが、途中で飽きてしまった。
 一通り聞いてやるつもりではあったのだが、あまりにもつまらなかったのだ。

「……要するに。自分より目立つのが気にくわない、と言いたいのですね?」

 相手の声を遮って、テレジアは微笑む。
 空気がヒビ割れるように厳しくなるが、テレジアは無視する。

「たった一言で済む話なのに、長々と自分を正当化するかのように理由をつけて……くどいですわ」
「くどっ……!?」
「それに薄暗い教室の真ん中で、十人でたった一人を囲うなんて。確かに心理的圧迫効果はあるでしょうけれど、それ、こんな優位な状況じゃないと口もきけない弱い人間だって自白してるようなものよ?」
「弱いっ……!?」
「まったく。面白い話が聞けるかもってほんの少しだけ期待してたのに……こんな下らないことをネチネチと。カビが生えてるんじゃないの?」
「かっかかかカビっ!?」

 反応もいちいちワンパターンだ。
 テレジアは盛大にため息をつく。

「貴族ならば、身分に関わらず誇り高くあるべきよ。大事なものを見失っているのではなくって?」
「あ、貴女ねえっ!」

 激昂したか、女子がカツカツと足音を立てて近づいてくる。

「あら。不利になったら数の暴力ってわけ? 小者臭がスゴいのね。でも大丈夫かしら? 貴女たち、そういう行動を取るってことは、貴女たちを束ねる人物もその程度なんだ、と認めるようなものよ?」
「関係なくってよ!」

 吠えながら、女子が振りかぶる。フルスイングでビンタするつもりらしい。
 テレジアはとってもナチュラルに回避しつつ、足をそっと伸ばした。

「えいっ。」
「きゃひゃああ────っ!?」

 全力スイングを回避されたことでつんのめった女子は、華麗に足を引っ掛けられて悲鳴をあげる。良い音を立てて盛大に転んだ。
 思わずテレジアは拍手を送ってしまう。
 瞬間、鼻と額を擦って赤くさせた女子が怒りの形相で睨んでくる。

「ちょっと! 何で回避しますの!」
「いやそんな全力でぶちますって感じでこられたら回避してちょっと足でも引っ掛けようかなってなるでしょ、フツー。乙女のたしなみよ?」
「そんなたしなみがあってたまりますかっ!」
「やだ、知らないなんて遅れてるわよ」
「貴女ねぇっ……!」

 ……――ふふ。ふふふ。

 怒り猛る少女の耳元で、何かが囁いた。
 それも、一つや二つではない。

「な、何……?」

 うふふふふ。ははははは。うふふふふふ。

 少女の笑いにも、誰かの叫びにも聞こえる声は、やがて教室をぐるりと巡るように響き渡り始める。
 いきなり始まったホラー現象に、誰もが言葉を失う。

「あ、ああ、あたくし、ちょっと用事を思い出しましたわ」

 一人の女子が声を上ずらせながらそそくさと逃げようとする。
 だが、教室のドアはもちろん開かない。

「そ、そんな、どうしてっ!? カギもかかっていないのに!」

 動揺する女子に、何かが息をふう、とふきかけた。

「っきゃあああああ――――――――っ!?」

 金切り声があがり、周囲の女子も釣られて叫んでパニックになる。
 まさに阿鼻叫喚の中、テレジアは指を鳴らした。
 瞬間、声の正体が一斉に姿を見せる。巨大な、真っ白な顔。怒り、悲しみ、絶望、憎しみ。あらゆる負の感情を見せる大量の顔たちだった。

「「「見ぃつけたっ」」」

 地獄の底からのような声が響く。
 あっさりと限界を迎えた女子たちは、泡を吹きながら卒倒した。
 その無様さに、テレジアはため息をつく。

「もういいわよ。ありがとう、精霊たち」

 テレジアの声がけに、顔が消えていく。
 代わりに姿を見せたのは、かわいい小さな精霊たちだった。

 精霊たちと心を通わせ、従えさせる。

 それが、テレジアの秘密である。
 彼女はこの特殊能力で、聖女時代はなんども危機を乗り越えてきた。
 今回はホラーを演出したというわけだ。

「さて、お仕置きはこれくらいでいいわね。じゃあ、次はどうでるかしら」

 テレジアは、一人そう呟いた。
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