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国王様、失礼します。
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「こ、これはっ……!」
国王があからさまに狼狽した。
財務大臣としての仕事で、一番最初に取り掛かったものだ。減税をしまくる中で、しれっと国王に承認してもらったものである。
王家資産と国家資産について。
つまり、王家の予算からではなく、国家予算から算出されて王家に納品された物資に関する取り扱いの詳細だ。
ここには、王家に納品された品物は王家が管理するべし。しかし、管理責任が国家に委ねられたものは、国家資産とすべし。その場合、国家は管理を十全にしなければならない。とある。
「つまり、国家予算で購入したもので、王家が管理責任を国家に委譲したものに関しては、全て国家資産とする、です」
「ぬ、ぬうっ……!」
「王家がしっかりと管理しているものであれば、国家として手を出すつもりはありませんが、国家資産とするのであれば話は別です。財務大臣の一任で処理は可能のはずですが」
まずは正論を叩きつける。
これで引き下がってくれるなら、一番なんだけど……。
「パパぁ、ふえええん」
予想通り、泣きながらの涙の訴え攻撃がやってくる。
無駄に可愛いのがムカつくのだが、私からすればあざといまみれである。
しかし悲しいかな、国王は肉親である。
しっかりとほだされてしまい、顔色を戻す。
ああもう。
「だが、それでも、ベスのために買ったものだぞ、あれらは」
「恐れながら、陛下。その購入費用がとてつもない巨額になっており、国家存亡の危機にまで瀕しています」
悪いけど大げさじゃない。
こんな小さい王国でまかなえるものではないのだ。
「そこをなんとかするのが、財務大臣としてのつとめであろう!」
「なんとかしようとした結果にございますれば」
「ええいっ! 金がないなら刷ればよいだけだろう! 違うのか!」
「はい。違います」
私は明確に否定する。
「我が王国は、大陸北部広域経済連合に参加している国家にございます。すなわち、広域経済連合の共通通貨も使用しております」
「それくらいのことは知っておる」
憤然とした様子で国王が言う。バカにするなといいたいのだろうケド、私からすればさっきの発言はバカの極みである。
この王国には、広域経済連合の共通通貨と、自国の通貨の二種類がある。
国内で使用する場合は自国通貨、他国とやりとりする場合は共通通貨を使用するのがルールだ。そして、この二つの通貨には交換レートが存在する。
これは共通通貨の価値を一定に保つためのルールだ。
ネックになるのはここである。
自国の金を大量にすれば、一時的に国庫は潤うかもしれない。
だが、この王国は多くの資源を輸入に頼っている。つまり、そのぶん大量に国外へ流通してしまい、自国通貨の価値が下がっていく。交換レートが悪くなれば、それだけ自国通貨が更に必要となり、負担になる。結果、物価は上昇していく。そう。インフレを引き起こすのだ。
結論、お金を刷っただけでは経済は上向きにならないのである。
単純な理論だ。
私はそれを丁寧に説明した。
「ですから、自国通貨価値を守るためにも、今回の措置は妥当だと判断しました」
「ええい、さっきから理詰めばかり! アリシャよ。おぬしには情というものがないのか! 見なさい! おぬしの行動で、これだけベスが悲しんでおる! 心が痛まないのか! そんな嫌がらせをして楽しいか!」
はぁぁあん?
私のこめかみに亀裂とけいれんが走る。
嫌がらせだ?
今まで!!
さんざん!!
嫌がらせをしてきたのはそっちだろうがっ!!
叫びそうになるのを私は我慢する。
落ち着け。そーくーる。びーくーる。
「恐れながら陛下。心は確かに痛みます。しかし、私はそれ以上に多くの民が苦しみ、悲しみ、嘆くことに心を痛めております。我が王国のために粉骨砕身、ふんばる民のことを思えばこそ、です」
私は静かに言い返す。
民があってこそ、王国があるのである。
「しれたことを! 我が民は潤っておる! 十分にな! だから税金を課しても問題がなかっただろう!」
「いえ、問題は頻発しておりました。国内の情勢は悪くなっております」
さすがに旦那が割り込むように言い返した。
旦那はすでに知っている。
王国に、革命を引き起こさんとするレジスタンス集団の存在を。彼らが一斉蜂起すれば、王国としてかなり危険な状態になることも。
「そんなもの、おためごかしだろう! 貴様、そこの女狐にほだされたか!」
――ああん?
女狐?
誰が?
言うに事欠いて、私を、女狐?
「大体最初から気に入らなかったのだ。隣国の公爵家の分際で、我が王国に手を入れてくるなど! 我が王国が恐ろしいから嫁入りしてきた人質同然の分際で、偉そうにしおって、毎日毎日!」
国王が口汚く罵ってくる。
「にも関わらず、何が気に食わないのか、我輩のいとしの娘であるベスに嫌がらせをことごとく繰り返しおって! あげく私物の没収など! この女狐は我が王国をのっとるつもりだぞ!」
「陛下っ! いくらなんでも言い過ぎだ! アリシャは俺の大事な伴侶です! 愛しているし、この先も一緒にいたい相手です! そんな人を罵らないでいただきたい!」
「黙れっ!! 今まで我慢しておったが、もう堪忍ならん! アリシャ! 貴様も分を弁えよ! 我輩といとしのベスに頭をたれ、忠誠を誓え! 貴様は我が王国のロイヤルファミリーではあるが、下僕なのだと!」
は? 下僕?
私はゆらり、と立ち上がった。
「恐れながら陛下」
私は飛びっきりの笑顔を浮かべ、ぼきぼきと拳を鳴らす。
「なんだ!」
「今から殴ります」
「えっ」
「聞こえましたよね? 今から、殴ります。しこたま」
「しこたま!?」
私の全身から、覇気がもれ出る。
そそくさと旦那が部屋の端っこのほうへ避難していくのが見えたが、気にしないことにした。
今は、このクソ国王への成敗が最優先である!
国王があからさまに狼狽した。
財務大臣としての仕事で、一番最初に取り掛かったものだ。減税をしまくる中で、しれっと国王に承認してもらったものである。
王家資産と国家資産について。
つまり、王家の予算からではなく、国家予算から算出されて王家に納品された物資に関する取り扱いの詳細だ。
ここには、王家に納品された品物は王家が管理するべし。しかし、管理責任が国家に委ねられたものは、国家資産とすべし。その場合、国家は管理を十全にしなければならない。とある。
「つまり、国家予算で購入したもので、王家が管理責任を国家に委譲したものに関しては、全て国家資産とする、です」
「ぬ、ぬうっ……!」
「王家がしっかりと管理しているものであれば、国家として手を出すつもりはありませんが、国家資産とするのであれば話は別です。財務大臣の一任で処理は可能のはずですが」
まずは正論を叩きつける。
これで引き下がってくれるなら、一番なんだけど……。
「パパぁ、ふえええん」
予想通り、泣きながらの涙の訴え攻撃がやってくる。
無駄に可愛いのがムカつくのだが、私からすればあざといまみれである。
しかし悲しいかな、国王は肉親である。
しっかりとほだされてしまい、顔色を戻す。
ああもう。
「だが、それでも、ベスのために買ったものだぞ、あれらは」
「恐れながら、陛下。その購入費用がとてつもない巨額になっており、国家存亡の危機にまで瀕しています」
悪いけど大げさじゃない。
こんな小さい王国でまかなえるものではないのだ。
「そこをなんとかするのが、財務大臣としてのつとめであろう!」
「なんとかしようとした結果にございますれば」
「ええいっ! 金がないなら刷ればよいだけだろう! 違うのか!」
「はい。違います」
私は明確に否定する。
「我が王国は、大陸北部広域経済連合に参加している国家にございます。すなわち、広域経済連合の共通通貨も使用しております」
「それくらいのことは知っておる」
憤然とした様子で国王が言う。バカにするなといいたいのだろうケド、私からすればさっきの発言はバカの極みである。
この王国には、広域経済連合の共通通貨と、自国の通貨の二種類がある。
国内で使用する場合は自国通貨、他国とやりとりする場合は共通通貨を使用するのがルールだ。そして、この二つの通貨には交換レートが存在する。
これは共通通貨の価値を一定に保つためのルールだ。
ネックになるのはここである。
自国の金を大量にすれば、一時的に国庫は潤うかもしれない。
だが、この王国は多くの資源を輸入に頼っている。つまり、そのぶん大量に国外へ流通してしまい、自国通貨の価値が下がっていく。交換レートが悪くなれば、それだけ自国通貨が更に必要となり、負担になる。結果、物価は上昇していく。そう。インフレを引き起こすのだ。
結論、お金を刷っただけでは経済は上向きにならないのである。
単純な理論だ。
私はそれを丁寧に説明した。
「ですから、自国通貨価値を守るためにも、今回の措置は妥当だと判断しました」
「ええい、さっきから理詰めばかり! アリシャよ。おぬしには情というものがないのか! 見なさい! おぬしの行動で、これだけベスが悲しんでおる! 心が痛まないのか! そんな嫌がらせをして楽しいか!」
はぁぁあん?
私のこめかみに亀裂とけいれんが走る。
嫌がらせだ?
今まで!!
さんざん!!
嫌がらせをしてきたのはそっちだろうがっ!!
叫びそうになるのを私は我慢する。
落ち着け。そーくーる。びーくーる。
「恐れながら陛下。心は確かに痛みます。しかし、私はそれ以上に多くの民が苦しみ、悲しみ、嘆くことに心を痛めております。我が王国のために粉骨砕身、ふんばる民のことを思えばこそ、です」
私は静かに言い返す。
民があってこそ、王国があるのである。
「しれたことを! 我が民は潤っておる! 十分にな! だから税金を課しても問題がなかっただろう!」
「いえ、問題は頻発しておりました。国内の情勢は悪くなっております」
さすがに旦那が割り込むように言い返した。
旦那はすでに知っている。
王国に、革命を引き起こさんとするレジスタンス集団の存在を。彼らが一斉蜂起すれば、王国としてかなり危険な状態になることも。
「そんなもの、おためごかしだろう! 貴様、そこの女狐にほだされたか!」
――ああん?
女狐?
誰が?
言うに事欠いて、私を、女狐?
「大体最初から気に入らなかったのだ。隣国の公爵家の分際で、我が王国に手を入れてくるなど! 我が王国が恐ろしいから嫁入りしてきた人質同然の分際で、偉そうにしおって、毎日毎日!」
国王が口汚く罵ってくる。
「にも関わらず、何が気に食わないのか、我輩のいとしの娘であるベスに嫌がらせをことごとく繰り返しおって! あげく私物の没収など! この女狐は我が王国をのっとるつもりだぞ!」
「陛下っ! いくらなんでも言い過ぎだ! アリシャは俺の大事な伴侶です! 愛しているし、この先も一緒にいたい相手です! そんな人を罵らないでいただきたい!」
「黙れっ!! 今まで我慢しておったが、もう堪忍ならん! アリシャ! 貴様も分を弁えよ! 我輩といとしのベスに頭をたれ、忠誠を誓え! 貴様は我が王国のロイヤルファミリーではあるが、下僕なのだと!」
は? 下僕?
私はゆらり、と立ち上がった。
「恐れながら陛下」
私は飛びっきりの笑顔を浮かべ、ぼきぼきと拳を鳴らす。
「なんだ!」
「今から殴ります」
「えっ」
「聞こえましたよね? 今から、殴ります。しこたま」
「しこたま!?」
私の全身から、覇気がもれ出る。
そそくさと旦那が部屋の端っこのほうへ避難していくのが見えたが、気にしないことにした。
今は、このクソ国王への成敗が最優先である!
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