姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか

文字の大きさ
上 下
9 / 11

反撃の狼煙

しおりを挟む
 《武王》であるグスタフ様の右腕として、エドモントは想定以上の活躍を見せた。結果、帝国側の総大将を討ち取り、大勝利へと導く。
 それからは私の出番だ。
 傷ついた兵士たちのために、丹精こめて作り上げた薬草や、それらから抽出した薬を送り届け、私も陣頭にたって治療に当たった。薬たちの効果は目覚しく、助からないと思っていた兵士たちも助かった。

 たくさんの感謝が届いた。

 いつしか、私は《癒し手の聖女》なんて二つ名をいただくようになり、夫婦そろって王国に大変な貢献をしたと認められ、辺境伯に任ぜられた。地方において大きい権力を有したことになる。
 この事実を受けて、実家との冷え切った関係も改善されていった。
 元々父が情け深いこともあるが、エドモントとグスタフ様が父を説得してくれたのだ。エレナによって私が貶められた事実を伝え、味方になってくれる約束も取り付けた。

 この後ろ盾を武器に、エドモントは奇策を打って出た。

 ある種の賭けにもなるが、グスタフ様の協力もあって、実行に移される。
 第一段階として、第一王子の失態だ。深紅を目にしてしまったが故に馬の統制を失い、落馬してケガをしたという芝居を打ってもらった。

 第三王子で《武王》であるグスタフ様がまた功績をあげた直後ということもあり、王室内では第一王子の資質を疑う声が囁かれるようになる。

 さらに第二王子で《智王》とも呼ばれる方も功績をあげたことが決定打になる。
 エレナは第一王子を見限るようにして、第二王子や第三王子へ接近してきたのである。なんとも早い身代わりである。
 だがそれは疑似餌だ。
 第三王子はその気になった様子を見せ、第一王子が邪魔だと訴えるようになる。すると、エレナはあっさりと第一王子を毒殺するべしと、私と同じ毒を盛るようになったのだ。

 これを知った第一王子の落胆は大きかった。

 だが、厳然とした事実を突きつけられては反論のしようもない。もちろんその毒を口にいれることなく、第一王子は体調不良で寝込んだことになった。
 同時に、密かに《癒し手の聖女》である私へ招聘がかけられる。

 準備は全て整ったのだ。

 どれくらいぶりだろうか。
 私はエレナが――第三王子の手引きで――エレナが外出している間に王城へ登城し、完璧な所作で謁見を済ませ、第一王子と面会する。
 ひとしきり侘びを申し入れられたので、私は全て受け入れた。ここで遺恨を残すつもりはないし、第一王子も騙された側だったのだ。何より今の私は幸せで満たされていて、恨みもない。

 うらむべきは、エレナただ一人だ。

 その日の晩、仕掛けは整う。
 説明を済ませた国王陛下に呼ばれ、第一王子の寝室に一同は集められる。そこに入ってきたのは、私だ。エレナが私を認めたとたん、目を大きくさせて驚く。
 すかさず第三王子が「どうしたの」と一撃を叩きいれていた。

「《癒し手の聖女》として馳せ参じました。王子の診察を」

 私は恭しく一礼し、第一王子の診察を行う。毒を盛られないようにしていたはずだが、一応心配なので本当の薬草を煎じた茶を飲んでもらう。
 そして、私は口を開いた。

「これは、毒ですね」

 この一言が、はじまりだ。

「毒って、どういうこと?」

 打ち合わせ通り、第三王子たるグスタフ様が食いついてくる。私は穏やかに踵を返してから、大きく頷いた。

「症状からして、グエーリプの実です。この果実は栽培が容易で、毒性そのものも継続してそれなりの量を摂取しない限りは問題ありません」
「……それって、裏を返せば継続して摂取させられてたってこと?」
「そうなります」

 ハッキリ認めると、周囲がざわついた。
 その中で、グスタフ様は険しい表情だ。

「大変なことだね。王室としてあってはならないことじゃない? 父上」
「そうだな。早急に調べあげねばならん」
「それであれば、すぐに特定できる方法があります」

 私は静かに提案する。エレナは大きく動揺したのを見逃さない。

「グエーリプというのは背の低い樹木で、ちょっとした草むらにも紛れ込みます。生命力も強く、多少の悪環境ではへたれません。しかし、株によって毒の成分が変わるという特徴があります」
「ほう」
「毒は水に溶けやすく、食器などには残りにくいのも特徴です。ですから、第一王子の体内から排出された毒の成分と一致する株を探せば、入手経路が判明します」

 淡々と告げる中、エレナが少しずつ後退していく。部屋から出ようとするつもりか。もう無駄だ。貴女はもう、蜘蛛の巣にしっかりとかかっている。

「それもそうだね。そして継続的に摂取、ということは、継続的に毒を盛り続けたってことだよね? 王室の食事に、誰がどうやって? 毒見もいるのに」
「食事に限ったことではありません。お茶にも紛れ込ませられますから。ですが、すぐに分かるかと思います。というか、心当たりがありますから」

 また私に注目が集まる。
 そのタイミングで、私はしっかりとエレナを睨みつけた。

「あなたよね? エレナ」

 私からの、宣戦布告だ。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

四季
恋愛
前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

平凡な伯爵令嬢は平凡な結婚がしたいだけ……それすら贅沢なのですか!?

Hibah
恋愛
姉のソフィアは幼い頃から優秀で、両親から溺愛されていた。 一方で私エミリーは健康が取り柄なくらいで、伯爵令嬢なのに贅沢知らず……。 優秀な姉みたいになりたいと思ったこともあったけど、ならなくて正解だった。 姉の本性を知っているのは私だけ……。ある日、姉は王子様に婚約破棄された。 平凡な私は平凡な結婚をしてつつましく暮らしますよ……それすら贅沢なのですか!?

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

処理中です...