姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか

文字の大きさ
上 下
8 / 11

エレナ、その心

しおりを挟む
 心も身体も満たされる中、私は必要な技術と知識を習得し、エドモントを見送った。とても心配だが、《武王》であるグスタフ様がいる。必ず無事で戻ってくるだろう。今は信じるしかない。
 何より、私には使命がある。

 この三ヶ月で、薬草を育て上げるのだ。

 薬草はとても繊細だ。土も水も気候も大事にしないといけない。毎日ちゃんと目配り気配りする必要がある。
 もちろん私一人では限界がある。
 だからこそ、技術を持つ職人が必要不可欠だった。私は薬草を管理しつつ、職人の育成にも着手した。人に何かを教えるというのはとても大変で、時にはぶつかったりもしたが、それでも多くの職人がついてきてくれた。

 一ヶ月も経てば職人の数もそろって、プラントは広くなっていく。

 エドモントやグスタフから目的とする量を確保するため、私も毎日土にまみれるが、充実していた。毎日がこんなに楽しいなんて!
 そして日々を過ごしていくうちに、このあたりの気候がとても穏やかで恵まれていることにも気づいた。
 水源も豊かだし、森も多い。
 薬草だけでなく、色々な作物も育ちそうな土壌だ。薬草が一息つけば、他にも何か育てられるかもしれない。

 そんなことも思っていたある日のことだった。

 今日はプラントを拡大する日で、朝から土を耕していた。この領地に手持ち無沙汰な人員なんていないし、耕す土は自分で確認しておきたい。土にあった薬草を植えなければならないからだ。
 ある程度狙いはつけているけれど、それでも育てる薬草が代わったりするのである。それもまた楽しい。

「あははっ、噂は本当だったようね。クリムゾンレッド」

 心底バカにするような声と名を呼ばれ、私は弾かれるように振り向いた。
 辛うじて舗装されている道の上、使用人に日傘まで差させているのは、派手な装飾の施された、黄色のドレスを身に纏う女。
 頭には、王家を証明するティアラ。

「エレナ……!」
「エレナ様よ。分を弁えなさい。田舎もの」

 名を呼ぶと、傲慢な口調でやり返されてしまった。
 ずいぶんと変わった。いや、これが本性なのだろうか。なんと醜い。

「それならば、そちらも訂正したらいかが? 私はクリムゾンレッドなどではありません」
「はっ。下賤風情が、私に求めるんじゃないわよ。私は第一王子の妃よ」

 すっかり醜い表情で、エレナは上から目線で圧力をかけてくる。
 けれど、そんな薄っぺらいものに屈する私ではない。

「第一王子の妃であるならば、なおさら王家としての品格が必要ではなくて? 私は確かに子爵の嫁ですが、公爵家の娘でもあります。仮にも王家に連なるものが、密接に関わりあう貴族に対し、一方的な無礼を働くとは何事ですか」

 ぴしゃりと言い返すと、エレナはようやく口をつぐんだ。とはいえ、不満だらけの表情だが。

「それよりも、どのようなご用件で? 妃がこのような田舎に?」
「領地の見回りよ。後々は王妃になるんだから、支配下がどのようなことをしているのか、視察は必要でしょう」

 こんな有事に、何をのうのうと。許可する第一王子も第一王子だ。
 今、まさにエドモントやグスタフ様は命をかけているというのに。

「転生者と聞いていたけれど、傲慢ね」
「あら、知ってたんだ。ははっ。じゃあ、とっておきを教えてあげるわ。私は確かに転生者。前世では、この世界はソシャゲの世界だったわ。だから私は攻略をしたの。そのゲームの世界じゃ、主人公はあなただったわ」
「私……?」
「そう。エレナである私は、そんな主人公を妹として、使用人として献身的に支えるモブキャラ。いえ、チュートリアル係でもあり、日々攻略のアドバイスを語る便利屋ポジションだったわ。私はそんなものに転生させられて、許せなかった」

 闇だ。
 私は今、エレナの闇を見ている。何を言っているのか、あまり理解できないけれど、どろどろとした黒い感情だけは伝わってくる。

「だから攻略することにしたのよ。エレナとしてね。どう? どうかしら。本来なら華やかな生活を送れるはずだったのに、単なるモブキャラにのっとられた気分というものは。是非教えて欲しいわね」

 そして、とことん歪んでいる。私は嫌悪しか感じられなかった。
 こんな娘を、私は妹として慕っていたのか。
 なんと情けない。

「お答えしかねますわね」

 だから、冷たく返した。
 エレナはつまらなさそうにため息をつく。

「あらそう。まぁそういう性格だもんね。泣き喚いて欲しかったけれど。まぁいいわ。もう二度と会うこともないだろうし。さようなら。土と一緒に元気でね」

 エレナはそう言ってから、一度も振り返ることなく立ち去っていった。
 反対に、私は一切目を離さなかった。

 エレナは、彼女はもういない。

 あれは、人の形をした怪物だ。自分勝手な思考で私を歪ませた。許せない思いはある。けれど、それよりも何よりも許せないのは、私の生きる世界をバカにしたことだ。
 そればかりは、放置しておけない。

 そんな誓いを立てて、数ヶ月。

 エドモントたちは、無事に武勲を挙げて凱旋してきた。同時にそれは、エレナへの反撃の狼煙である。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

四季
恋愛
前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

平凡な伯爵令嬢は平凡な結婚がしたいだけ……それすら贅沢なのですか!?

Hibah
恋愛
姉のソフィアは幼い頃から優秀で、両親から溺愛されていた。 一方で私エミリーは健康が取り柄なくらいで、伯爵令嬢なのに贅沢知らず……。 優秀な姉みたいになりたいと思ったこともあったけど、ならなくて正解だった。 姉の本性を知っているのは私だけ……。ある日、姉は王子様に婚約破棄された。 平凡な私は平凡な結婚をしてつつましく暮らしますよ……それすら贅沢なのですか!?

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

処理中です...