姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか

文字の大きさ
上 下
2 / 11

追放された先

しおりを挟む
 最悪の舞踏会が終わって三日後。
 私と第一王子の婚約解消と、新たな婚約者の発表がなされ、私は王室から除名され、退城させられた。だが、実家に戻ることもできない。私の失態に両親が激怒したからだ。

 そんな私に、更なる追い打ちがやってくる。

 それは、辺境地の子爵の息子と婚約しろという命令だった。
 その子爵は遠い縁戚関係にある。城から追い出され、実家にも戻れない私を唯一引き取ってくれた。だが、その条件がその子爵の息子と結婚しろというものだ。

 私の父は公爵。

 本来であればあり得ない。
 けど、私には逆らうなんて出来ないし、何より投げやりだった。

 私は騙されたのだ。

 他でもない、エレナに。
 幼い頃からの友達で、何より信頼していた使用人。けど、彼女は私たちの好意によって教え込まれた貴族の所作と立場を利用して第一王子に取り入り、そして私から奪い取ったのだ。

 きっとも何も、第一王子が深紅を嫌っていることを教えなかったのも、私が深紅を通じて第一王子を侮辱していると教え込んだのも、全部エレナの仕業だ。

 私の主要な使用人はエレナ一人で、私が心を許しているのもエレナだけだったから、第一王子と直接会えない間は彼女が伝令役になっていた。そこを利用された形だ。
 もちろん私がもっと第一王子と親密にあっていれば違っただろうけれど、深紅を利用されて接触そのものも遠ざけられてしまった。これもエレナの策略だろう。

「エレナ……いつから?」

 揺られる馬車から遠ざかる王都を見つめながら、私は独りごちる。
 まだショックを隠し切れない。
 どうして、彼女が? 本当の姉妹のように思っていたのに。

「うっ……」

 ふと眩暈を感じて、私はこめかみあたりをさする。体調も悪い。

「お嬢様、大丈夫ですか」

 私の体調不良を察したか、御者が心配そうに聞いてきてくれた。
 思わず苦笑しそうになった。まだこのように大切な扱いを受けるのかと。

「ええ、少し体調が悪くて。馬車が揺れるからではありませんよ」

 気にして欲しくなくて、私はできるだけやわらかい口調で言う。
 むしろこの馬車の乗り心地はとても良い。
 地方領主、子爵が用意したとは思えない上等な馬車だ。

「ただ、そうですね。少し休ませていただきますわ」
「そうですね、ご心労もあるでしょうし。どうぞごゆっくりと。なるべく揺れないように注意致しますので」
「ありがとう」

 私は会釈してから、そっと目を閉じた。
 城から追い出されるまでずっと針のむしろだった。誰も私に味方しない。使用人でさえ好奇の目線をぶつけてくる始末だった。心など休まるはずもないし、食事もほぼとっていなかった。

 ああ。私が何をしたというのだろう。

 悔しさばかりが心を渦巻いて、私はうとうとと眠りに落ちた。

 ◇ ◇ ◇

 春の香りがして、私はゆっくりと目を開けた。全身をやわらかい感触が包む。どうやら寝かされているらしい。質の良いシーツだ。とても肌触りが良い。
 いや、待って。
 私は目をはっきりと開けて上半身を起こす。

 見渡す景色を、私は知らない。

 城にいた頃と比べれば狭い部屋だが、大きめの窓は爽やかな白いレースのカーテンを揺らしながら穏やかな風を運んできていて、さらに何かのお花の香がたかれているのか、少し爽やかな匂いがする。
 室内の調度品もしっかりと整えられていて品が良い。

「こ、ここは……私、まさかっ」

 はっと気づいて、顔が青くなっていく。
 おそらくも何も、ここは子爵の屋敷だろう。なんと恥ずかしいことをしたのか。私は眠りこけてしまって、屋敷についても起きなかったのだ。それでここに運ばれて寝かされていたのだろう。
 まだ挨拶も何もしていないというのに。
 いけない。すぐにでも顔を出してご挨拶をしなければ。いくら子爵といえど、貴族だ。無礼は許されない。

「うっ」

 すぐにベッドから出ようとしたが、立ちくらみに襲われた。
 体調がここまで悪くなっているとは。情けない。
 それでもプライドを振り絞ってベッドから立ち上がると、控えめなノックがした。思わず返事をすると、ゆっくりとドアが開かれ、男性が入ってくる。

 すらりとした長身に、穏やかなウェーブがかった金髪。線の細そうな端正な顔立ちに反して、燃えるような朱色の瞳が印象的だった。

 正装の男性は、その胸の家紋ですぐに誰か分かった。
 私と婚約することになった子爵の息子――エドモントだ。

「まだ動いてはなりませんよ、アリスタ妃」

 想像よりも低いバリトンボイスを響かせ、エドモントは穏やかに言う。だが、私はそれどころではない。すっかり取り乱していた。

「いえ、そういうわけには参りません。私はなんと失態を……ちゃんとしたご挨拶もせずに、このようなっ」
「構いません。体調面でのお話は伺っておりますから」
「し、しかし」
「良いのです。それよりも本当に心も体も大変だったでしょう。まずはゆっくり休んで養生してください。我が父もそれを望んでおります。挨拶などは、それからで良いのです」

 慈しみのこもった言葉をいだたいて、私は安堵した。崩れ落ちそうになって、そして涙が一筋こぼれる。ああ、なんて情けない。私は、また!

「ようこそお越しになられました。王室と比べればとても小さく、田舎で貧相ではありますが、私たちは心より貴女様を歓迎いたします」
「歓迎……?」

 とんだ失態で王室から追い出された、私を?

「はい。ご安心を。貴女様を何があっても、この私、エドモントがお守りします」

 胸に手を当てながら、エドモントは穏やかに一礼した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい

Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい    そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす 3/22 完結予定 3/18 ランキング1位 ありがとうございます

甘やかされて育ってきた妹に、王妃なんて務まる訳がないではありませんか。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラフェリアは、実家との折り合いが悪く、王城でメイドとして働いていた。 そんな彼女は優秀な働きが認められて、第一王子と婚約することになった。 しかしその婚約は、すぐに破談となる。 ラフェリアの妹であるメレティアが、王子を懐柔したのだ。 メレティアは次期王妃となることを喜び、ラフェリアの不幸を嘲笑っていた。 ただ、ラフェリアはわかっていた。甘やかされて育ってきたわがまま妹に、王妃という責任ある役目は務まらないということを。 その兆候は、すぐに表れた。以前にも増して横暴な振る舞いをするようになったメレティアは、様々な者達から反感を買っていたのだ。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

四季
恋愛
前妻の子であった私は義母義妹に虐げられていましたが、ある日城へ行ったことをきっかけに人生が変わりました。

平凡な伯爵令嬢は平凡な結婚がしたいだけ……それすら贅沢なのですか!?

Hibah
恋愛
姉のソフィアは幼い頃から優秀で、両親から溺愛されていた。 一方で私エミリーは健康が取り柄なくらいで、伯爵令嬢なのに贅沢知らず……。 優秀な姉みたいになりたいと思ったこともあったけど、ならなくて正解だった。 姉の本性を知っているのは私だけ……。ある日、姉は王子様に婚約破棄された。 平凡な私は平凡な結婚をしてつつましく暮らしますよ……それすら贅沢なのですか!?

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

処理中です...