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汚染の先

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 聖女の仕事には、大きく分けて三つ。
 一つは浄化。
 聖女として最も基本の仕事だ。魔の影響で悪い影響の出た土地や人を歌で癒し、浄化する。
 一つは慰問。
 こちらは表敬訪問みたいなもので、歌を披露したり、演説したり、とにかくみんなを勇気づけるためのものだ。
 一つは討伐。
 これは魔物を聖なる歌で弱体化させ、騎士団と共に倒すというもの。聖女の力を借りなければならない強力な魔物討伐なので、とても危険だ。でも、これも使命の一つ。

 聖女としての初仕事は、基本である浄化だ。

 畑を歌で浄化するというものだったけど、少し様子が変だった。
 土地そのものが魔に汚染されている感じではない。

「どうしましたか、ミル――いいえ、聖女様」

 声をかけてきたのはリンクさんだ。
 私が悩む素振りを見せたので心配になったのだろう。
 私のことをミルと呼び掛けて聖女と呼び直したのは、仕事だからだ。ちょっと可愛いと思ってしまうけど。
 今はそこにツッコミを入れている場合じゃない。

「はい。畑の浄化は済んだんですけど、たぶん、原因は他にありそうだなって思いまして」
「原因——汚染源ですか?」
「そうです」

 頷くと、私は意識を集中する。
 穢れの感知は、聖女である私が一番鋭い。じっくり観察していくと、何かの流れが見えた。

 これは……

 私はその流れを追いかける。
 僅かずつだけど、不吉な何かが流れ込んできてる。たぶんこれ、穢れだ。
 やがて辿り着いたのは、村の水源となっている森だった。この奥には泉があるはずだ。

「ここ、ですね」
「水が原因ですか?」
「おそらくは。森の中に入りましょう」
「ついていきます。護衛は陣形を取って進軍!」

 リンクさんがすかさず指示を出す。
 私は騎士さんたちに守られながら森を進む。予想通り、魔物たちが飛び掛かってくる。

「甘いっ!」

 素早くリンクさんたちが反撃し、次々と魔物を倒していく。
 やっぱり……
 倒されていく魔物たちを見て、私は確信する。
 この魔物たちは、穢れがないと発生しない。ということは、やはり泉が汚染源になっているんだろう。

 やがて、問題になっている泉に辿り着いた。

 森の中にある広場のようなそこは、確かに泉から水が大量に湧き出ていた。いつもなら動物たちの憩いの場でもあるはずで、穏やかなはずなのに、生き物の気配はない。
 当然だと思う。
 これだけの穢れ……っ! 空気まで穢れて紫色になってる。

「聖女様、これは……」
「これ以上近寄るのは危険ですね。ここでまず浄化します」

 私はみんなに近寄らないよう警告しながら、歌を奏でる。
 聖なる力のこめられた歌で周囲の空気が綺麗になっていく。

 でも、肝心の大元にはそこまで響かない。

 どういうことだろう?
 警戒しつつ、少しずつ近寄っていくことにした。

『それ以上近寄ってくるんじゃないわよ、このアバズレ』

 痛烈な罵倒が飛んできた。
 私はびっくりして目線を送ると、泉から誰かが出てくる。
 って、その恰好と髪の色は!

「シルニア……!?」

 名前を呼ぶと、彼女は不気味に嗤いながら顔を上げた。
 その喉には、ドス黒いものがはりついている。

『あんた風情が、私の名前を呼ぶんじゃないわ』

 穢れにのって、声が伝わってくる。
 そんな……!? どうして、彼女がここに!
 驚いていると、彼女のドレスがどんどん腐食するように黒く染まっていく。これは、穢れを取り込んでる!?

「シルニア、ダメです! それはいけないっ!」

 私は制止するが、彼女は止まらない。

『あんたに指図されたくないわ。こうすれば、喉の調子がとても良いのよ。ほら、こうやってしっかりと話すこともできる。火傷みたいに痛む喉が和らぐの』

 薄気味悪く笑う彼女の喉から放たれる声は、おぞましい声だった。

「なんてことを……彼女は聖女候補生だったはずでは?」
「ええ。その力が穢れを取り込んで汚染されています」
「どうしてこんなことに?」
「おそらくですけど、何らかの理由でこの地にやってきてしまって、穢れに取り込まれたんだと思います」

 それしか説明がつかない。
 浄化すればいいんだけど、シルニアは喉を壊している。聖女としての力はほとんど使えなかったはずで、取り込まれても不思議はなかった。

「そういえば、この森の泉は治癒効果があると聞いたことが……」
「そういうことか」

 湯治のつもりでやってきたのだろうか。
 だとしたら、なんて悲しい。
 いや、哀れむのは後は。まずは彼女をどうにかしなければ。


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