上 下
34 / 39

34.どんな時デもフルーツダ

しおりを挟む
 オルトロスのクレインは未だ上空から二首ドラゴンと対峙している。
 
「クレインって飛べるの?」
「いや、私の魔法で落下速度を調整している。私の魔力では彼を飛ばすことはできない」

 口惜しそうなラージプートであったが、あれだけの巨体を支えるって相当な魔力が必要なんじゃないのか?
 よく観察してみると、確かにオルトロスは徐々にではあるが落下していっている。
 最初に彼らを見た時は目に見えて明らかに落ちてきていたんだけど、今はよく見ないと分からないほどだった。
 飛んでいると俺が勘違いしても不思議ではないほどに。
 
『ノエル。動くカ?』
「クレインがどう判断するか次第だけど」

 ロッソがぎょろりとした目をこちらに向け問いかけてくる。
 そこへラージプートが口を挟んできた。

「クレインのことは私が責任をもって指示を出している」
「ん? 全部指示通りに動いてもらっているのか?」
「力不足甚だしい身ではあるが、できうる限り最善を」

 的確に指示を出し、獣魔を生かすことはテイマーに求められる重要な能力の一つであることは確かだ。
 だけど、俺はそれだけじゃあないと思っている。これはスタンスの違いなのだけど、俺は獣魔であるというより仲間であるという意識で接しているんだ。
 だから、ロッソやエンがどうしたいのか、何を求めているのかを重視している。
 ……丸投げじゃねえなという突っ込みは聞かないんだからな!
 ロッソやエンにお願いする時はちゃんとしているつもりだし……。
 
「指示を守り、あの場で二首ドラゴンにあたっているってわけなのか」
「高い位置に陣取った方が対処しやすいと踏んで。しかし、私がしくじってしまった……」

 真面目過ぎるのも考えものだな。俺くらい適当なのもそれはそれで問題だけど。
 なかなか良いバランスってのも難しいもんだ。
 
「まずい!」

 思わず叫んでしまったが、間に合うか微妙だ。
 エンが二首ドラゴン……認めたくないけど種族名ティアマトの緑のブレスを。オルトロスが赤のブレスを相殺したまではいい。
 オルトロスが三度吐きだしたブレスをティアマトがかき消し、お互いに次の行動を準備していた。
 オルトロスは指示されていたのか不明だけど、右の首だけに炎のブレスを溜めている。
 一方でティアマトは二首の両方に赤と緑のブレスを。更に胸の辺りに魔力が集中し青色の塊が生じていた。
 奴の攻撃対象はオルトロスのみ。
 
「ロッソ。頼む」

 創造を形にし、ロッソから白い煙があがった。
 だけど、その時には既にティアマトから三つの攻撃が全てオルトロスに向け放たれていたのだ!
 
 一つ。赤いブレスはオルトロスのブレスで相殺できた。

「くああ」

 気の抜けた鳴き声がした瞬間に暴風が吹き荒れ、緑のブレスをかきけす。
 残像が映るほどの速度でティアマトとオルトロスの間に割り込んだエン。
 次の瞬間、彼の体に青色の閃光が直撃した。
 
 その時眩いばかりの赤い光が俺の目を焼き、思わず目を閉じる。

「エン!」
「くああ」

 見えないながらも叫ぶとエンのいつもの鳴き声が返ってきた。
 ホッと胸を撫でおろし、目を閉じたままロッソが転じたブーメランを握りしめる。
 このブーメランは特別性なんだぜ。
 
 体をねじり、足先から腰、腕に向けて体全体の力を使いブーメランを投擲する。
 そこでようやく、目を開くことができた。
 
 オルトロスの前でホバリングするエン。
 くるくると回転しながらティアマトの左の首に向かっていくブーメランの姿もハッキリと確認できた。
 見えもしない状態で投擲したにも関わらず、ブーメランは一直線に狙った箇所へ向かっている。
 ティアマトまで残り一メートルのところで、ブーメランの形はそのままに木から鋭い両刃に変質した。

 ズバアアアアン! 
 
『グギャアアアアア』

 ティアマトの絶叫が響き渡る。
 見事、ティアマトの左の首にヒットしたブーメランは勢いそのままに首を真っ二つに切り裂き、方向を変え俺の手元に戻って来る。
 俺が握る直前に両刃は元の木製に転じた。
 
「よっし」
『フルーツ』

 元の姿に戻ったロッソは開口一番、自分の欲望を口にする。
 二首のうち一つを落としたものの、まだティアマトは健在だ。
 それでもどくどくと溢れる血と、次のブレスの動作に入らないことから相当ダメージを受けていることはうかがい知れる。
 
 しかし、手負いの獣ほど警戒すべき相手はいない。
 できればロッソにもう一発いってもらいたいところだけど、どうやら彼は閉店の様子である。
 のろのろとした動きで、リュックの中に入ってしまった。
 そして、タイミングの悪いことにアルティメットの効果も切れたようで……エンの姿が元に戻る。
 ひょっとしてピンチ?
 いやいや、まだオルトロスがいるじゃないか。後は彼に何とかしてもらいたい。

「ノエル。見事だ」
「感想は後で、で。俺の方はこれで打ち止めだ。クレインはまだ行けそうか?」
「もちろんさ。君とフェニックスの助力に本当に感謝している。後で何かお礼をさせて欲しい」
「分かった。分かったから。ティアマトが動き出す前に」
「承知した」
「一つだけ言っておくけど、ブレスで攻撃は控えてくれ。万が一、傷が焼かれでもしたら」
「……もちろんだとも」

 この微妙な間は、「ブレスで止め」だとか考えていたのかもしれない。

 すぐにラージプートが動く。
 彼がピューと口笛を鳴らすと、オルトロスがドシンと地面に降り立ち俺たちの前まで駆けてきた。
 なるほど。これが最も安全な戦い方だと感心する。
 ティアマトはこのまま放置しているだけで衰弱していく。もし奴が俺たちのうち誰かを道ずれにしようとしたら?
 狙うはオルトロスやエンではなく、俺とラージプートで間違いない。
 オルトロスに向けブレスを吐きだしたところで、彼のブレスで相殺されてしまうから。エンはエンで空を飛び逃げ去ってしまうだろう。
 となると、動きが鈍い俺たちを狙う以外の選択肢は無い。
 オルトロスがこの位置にいれば、狙いが一つに絞ることができ、かつ俺たちにブレスが直撃することもないというわけだ。

 だけど、このままではオルトロスの攻撃がティアマトには届かない。
 さて、どう出る? ラージプート。
 
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。

向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...