上 下
29 / 35

29.騎士団からの依頼

しおりを挟む
「わたしがソルとクラーロと一緒に行くことができるのは35階までだよ!」
「ほう。35階に何かあるのか?」
「うん。35階にはガーゴイルがいるの」
「ガーゴイル?」

 反芻するマスターに対しチハルがうんうんと頷く。

「うん。ピースメイキングを聞いてくれないの」
「魔曲が効かねえモンスターなんているんだな。聴力がないのか?」
「ううん。ガーゴイルは小さな物音でも気が付くよ」
「となるとガーゴイルは特別なモンスターってことか」
「ガーゴイルは道具と同じだから。ダメなの」

 「ふむ」と丸太のような腕を組むマスターはガーゴイルとはゴーレムみたいなものか、と考察していた。
 ゴーレムは創造系が得意な魔法使いが作る人形みたいなものである。
 作り方は粘土をこねて人型にしたり、木や石を掘って形を整えたりと様々だ。大きさによって加速度的に製造コスト……つまり必要魔力があがる。
 人型の無機物にゴーレム製造の術式を魔力と共に注ぎ込むと、動く人形になるのだ。
 ゴーレムは術者の命令によって動く。命令が無ければ動かず元の人形のように振舞う。

「ガーゴイルは術者の命令以外受け付けないってことよね? だから、魔曲も効果がないのよね」
「うん!」

 アマンダの補足にチハルがうんうんと頷く。
 次に口を開いたのはゴンザだった。彼の考えていることはアマンダやギルドマスターとは異なる。
 
「チハル。ガーゴイルってやつは強いのか?」
「うーん。わたしには強さは分からないよ。わたしにとって迷宮のモンスターはみんな一緒だもの。わたしじゃどのモンスターにも敵わないよ?」
「そ、そうか。安心しろ。俺が護ってやる。いや、ピースメイキングがあるんだったな。そもそも、迷宮に入らなかったら……」
「ゴンザさん、よくわからなくなってるっすよ」

 意見が取っ散らかりぱなしのゴンザにルチアが突っ込みを入れた。
 彼はガーゴイルが太刀打ちできないほどの相手なのかそうでないのかを知りたかったようだが、チハルの返答にバグってしまったらしい。
 チハルは魔曲を使いこなしたり、強力な幻獣をおともだちとして連れている。
 これは間違いなく彼女の「力」なのだが、物理的な彼女の力となると話はことなるのだ。
 彼女は小さな女の子に過ぎず、魔法のリンゴが詰まったバスケットを持つのも精一杯といったところ。
 そんな彼女が一階層のモンスターに素の状態で対峙したとして、適うわけがない。
 改めてか弱い小さな女の子だと認識したゴンザは庇護欲を刺激され、よくわからない状態になってしまったというわけだ。
 そこへ、ギルドマスターはフォローを入れる。
 
「ガーゴイルって奴はソルより速いのか?」
「ううん。ソルの方が速いよ!」
「魔法を使ったりするか? 硬さはどうだ?」
「クラーロみたいに魔法は使えないよ。モース硬度は6.5だよ」
「モース硬度……6.5とはどれくらいの硬さなんだ?」
「水晶より柔らかいよ。鉄のナイフだと刃がかけちゃうくらい」
「ミスリルなら行けそうだな」

 「はいはいー!」と両手をあげたルチアが片手をおろし、腰に装着した左右のダガーを指さす。
 彼女の持つダガーはチハルと迷宮に潜った時に手に入れたアーティファクト「ダンシングダガー」である。
 鑑定によると、ミスリル製だとのこと。
 
「ルチア、扱いには慣れたのか?」
「普通のダガーとして使う分には以前のものより格段に良いっす! スパスパ切れまっす」

 彼女の武器のその後が気になっていたゴンザが彼女に使い心地を聞いてみたが、何やら妙な表現だった。

「普通の……?」
「ダンシングが難しいんっす。投擲して自動で手元に戻って来る以外はなかなか難しいんですよ」
「ほお。面白いな」

 ガハハと笑うゴンザとてへへと後ろ頭をかくルチアの様子にチハルはきょとんと首を傾げる。
 そんな中、ギルドマスターとアマンダは小声で何やら囁き合っていた。

『チハル。あの二人、俺たちのことが気になっているようだぜ』
「ん?」
 
 カラスがちょこんと机の上に乗り、彼女の腕を突っつく。

「スタンさん、アマンダさん。どうしたの?」
「あ、いや。さっきよ、『クラーロみたいに魔法を』と言ってただろ。ソルも鋭い爪を持っているし。それならガーゴイルでも何とかなるんじゃねえかってさ」
「ダメなの。クラーロもソルも戦えないんだ」
「チハルのおともだちに血なまぐさいことをさせたいってわけじゃないんだ。忘れてくれ」
「ううん。クラーロもソルもわたしのおともだちだから、戦えなくなっちゃったの。ごめんね、クラーロ」
『何言ってんだよ。そんなもん必要ねえ』

 クラーロが嘴を上にあげ「くああ」とやる気のない鳴き声を出す。
 チハルに喚ばれたおともだちは、彼女の意思を尊重する。彼女に戦う意思がないため、おもどだちは戦う意思を持たない。
 彼女を護ろうとする強い意思は備えているが、護ることしかできないのだ。つまり、逃げることや盾になることはできるが、相手を攻撃することができない。
 
「迷宮以外にガーゴイルのような奴らはいねえ。ゴーレムがいたとしても、術者にはピースメイキングが効くだろうし、チハルを脅かす者はいねえだろ」

 ポンとチハルの頭を撫で、白い歯を見せるマスター。
 彼女らの会話はこれで終わりとなり、救出が必要な事態になった時はここにいるメンバーを一旦集め、対応策を練るということとなった。
 
 ◇◇◇
 
 マスターたちと夜の相談会を行ってからはや二週間が経過しようとしている。
 チハルは行方知れずになった指輪を探したり、迷子のペットを見つけたり、おともだちと一緒にピクニックに出かけたりと充実した毎日を送っていた。
 もちろん、日課の魔法のリンゴ販売も毎日こなしている。
 
 騎士団と猛者たちは大迷宮の最高到達記録を更新したとマスターがチハルに教えてくれた。
 彼の報告を聞いた彼女は「もし魔晶石のあるところまで行くなら、魔晶石を取って来てほしいなー」とにこにこした顔で彼に語ったという。
 更に三日が経過したところで、事態は急変する。
 
 騎士団の一人がギルドマスターを訪ねてきて、最深部を探索していた一団が閉じ込められてしまったとのこと。
 彼らの救援要請に対し、できることがあれば協力すると返答したマスターはチハルたちを自分の執務室に呼ぶ。
 たとえ彼らを見殺しにしたとしても、ギルドマスターらが咎められることは一切ない。前人未踏の階層まで挑むのだから、自己責任であることは事前に取り決めている。
 もし、彼らを助けることができれば多額の報奨金が国から出るとの知らせも騎士団からあった。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...