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第39話 ハチガネと鵺

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 コーガの里は山林の奥地にある秘境と呼んで差し支えない場所だった。モンスターからの防衛のためか小高い丘に村が築かれており、丘のふもとに木製の門がある。金属は奥深くという立地的に難しいにしても、石造りにした方がモンスター対策になりそうだけど……、結局扉は木製になるから同じことかと思い直す。
門の柱は薄らと苔が浮いており年季を感じさせる。門には門番はおらず、門扉は開け放たれていた。夜になったら閉めるのだろう。
 門が入口で里の一番低い位置にあり、急な坂が続いているって感じだ。

「すんごいところだな」
「人里離れた山奥な故、ゴッズタウンに比べるとモンスターが……でござる」

 そうだろうな……。ザ・ワンの中のようにモンスターが密集しているわけじゃないけど、外にもモンスターがいる。外のモンスターは倒しても光となって消えることはない。ザ・ワンのモンスターが特殊なのだけど、特段ザ・ワンのモンスターを区別する呼称はなく、どちらもモンスターでひとくくりにされている。
 外のモンスターは鱗や牙を剥ぎ取れるので価値が高い。一方、ザ・ワンのモンスターは例の換金装置があるから無価値ではないのだけど、個人的には外のモンスターの方が一体当たりより価値が高いんじゃないかと思う。いや、モンスターにもよるか。素材が全く取れないモンスターもいるからなあ。代表的なのはアンデッドだ。ん、そういや。

「モンスターで思い出した。道中一度もモンスターに会わなかったよな」
「そうでござるな。徒歩ではなかったからかもしれません」
「うしは速いから、モンスターも追いかけてこない、のかもな」
「然り。空を飛ぶモンスターならば襲撃してくるやもでござる」

 空を飛ぶモンスターかあ。飛竜とか怪鳥とかだよな。出会ったとしても空から空襲してきたところを、アクアブレスと投擲で仕留めることができそうだ。
 飛竜だったらおいしいよな。
 カエデと会話を続けていたら、うしからタヌキがひょいっと地面に降り立つと同時に人型に変わる。

「進まないのかぽん?」
『箱を開けるモ』
「箱は後からな。カエデ、入っても良いのかな?」

 俺の言葉に頷きを返したカエデが歩き始めた。
 里の中は坂道が続き、ポツポツと瓦屋根の民家があった。小さな畑や鶏舎らしいものはあるが規模の大きな農場や牧場はなさそうだ。
 狩猟と採取が主で畑はおまけ程度ぽいな。山の中だし山の恵みは豊富そうだからかも。
 里の様子を見ながら進むこと20分ほどでカエデの家に到着する。彼女の家もまた瓦屋根の平屋でここまで見た家の中では1番大きい。
 先に彼女に家に入ってもらい、待つこと数分……すると彼女ではなく、年配の人間の女性が俺たちを中に招いてくれた。
 余談ではあるが、待っている間にマーモの箱を開けている。何か食べさせておかないとうるさいから仕方ないからさ。帰りに野菜を補充したいけど、あるのかなあ。カエデは「仕入れることができる」と言っていたが、里にはお店がなさそうなのだよね。

 そにしてもカエデの家は思った以上に広い。彼女の家はロの字型になっているのかな? 廊下を歩いているのだが、左手は庭で庭を囲むように廊下が見える。

「こちらです」

 スライド式の扉を開けた彼女が俺たちを中に促す。
 広い部屋だ。床には変わった絨毯が敷き詰められている。藁を編んだものかな?
 俺が入るに合わせて、正座していたカエデと30台後半くらいの黒髪オールバックの男が立ち上がる。

「クラウディオ殿、こちらは某の父でござる」
「クラウディオです、はじめまして」

 まあそうだよな、彼女の父親が出てくるよねえ。彼女の婚姻を回避するために頑張らないと。

「ハチガネと申す。以後お見知り置きを、婿候補殿」

 笑顔で握手を求めてくるが、ピリリとした緊張感が半端ない。

「カエデ、候補とは?」
「クラウディオ殿の強さを見せていただきたいのでござる」
「ザ・ワンの踏破証明でよいかな?」
「父上、いまお見せするでござる」

 無言で頷くハチガネの姿にホッとする。

「マーモ、箱出して」
『分かってきたじゃないかモ』
「餌じゃないからな……」
『自分で取るモ』

 ……勘違いも甚だしい。箱イコール餌じゃないんだぞ。
 マーモは箱を開けることができないだけで、開けた箱なら中に前脚を伸ばすことができる。
 うわあ、マーモが箱の中に潜り込んでしまったじゃあないか。このままじゃ、食いつくすまで出てこなくなるぞ。
 緊急事態に踏破の証は後回しにして、マーモの尻尾を掴んで引っ張り出す。
 両前脚の爪に引っかけれるだけ野菜を引っかけてやがった。さすが強欲のマーモである。
 そして、マーモに荒されたため、整理整頓していた箱の中はぐっちゃぐちゃになっていた。

「カエデ、もう少し待って、えらいことになった」
「手伝うでござる」

 爪で踏破の証が破れていやしないか心配だよ。破れていても階層が見えりゃ問題ないか。
 ドタドタドタ。
 箱を漁っていたら俄かに外が騒がしくなってきた。
 何事だ?
 ガタリと横開きの扉が開き、若い男たちがハチガネに向け片膝をつく。
 
「お館様! 緊急事態でござる!」
「婿候補殿、騒がしくてすまぬ。して、何が起こったのだ?」
ぬえが出たでござる!」
「なんと……誠か?」
「見張り台よりしかと」

 何やら深刻そうに会話しているが、何のことやら一人だけ置いてけぼり状態になっている。
 俺と箱の中を探してくれていたカエデの手も止まっているし、余程の事態なのか?
 
「カエデ、ヌエって?」
「鵺は大妖でござる。ザ・ワンのボスモンスターみたいなものでござるな」
「人を積極的に襲ってくるから一大事なのかな?」
「然り。里に古くから伝わる最も恐れられているモンスターでござる」
「そいつは油断はできないな。カエデ、行くか」
「クラウディオ殿ならそうおっしゃると思っておりました」

 実力を見せるにはこれほど手っ取り速いものはない。ザ・ワンで200階まで行きました、と証明を出すより余程分かりやすいだろ。
 両手を組み骨を鳴らし、首をぐるんと回す。
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