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第4話 はじめてのボス

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 ファングを習得してから非常に楽になった。
 マンティコアや炎の虎といった深層のモンスターはいくつもスキルを持っているらしい。
 攻撃手段のできた俺は、宝箱を探しながら遭遇したモンスターを狩って行った。倒せば倒すほど、自分のステータスがあがるので今となっては鼻歌交じりにこの階層を歩くことができるまでになっている。
 奴らから取得したスキルはどれも強力なものばかり。
 炎耐性があれば、炎の虎の体に触れても全く熱くなくなるし、同じく炎の虎からフレイムウィップというスキルも獲得できた。こいつは中距離攻撃が可能な上に、相手を鞭で縛り付け拘束することまでできる。
 俺の現在のスキルはこんな感じ。

『固有スキル:吸収
 スキル:麻痺耐性
 スキル:麻痺
 スキル:ファング
 スキル:炎耐性
 スキル:フレイムウィップ
 スキル:アクアブレス
 スキル:毒耐性
 スキル:睡眠耐性
 スキル:自己修復(小)
 スキル:瞑想』
 
 まだ増やせそうではあるが、そろそろ上層階に向かわねば。いくら強くなったとしても腹は減るし、喉も乾く。
 水筒は持っているけど、携帯食を保持していない。
 残念だったのは、これほど歩き回ったというのに宝箱をあれから一つも発見できなかったことだな。
 せっかく深い階層まで来たのだから、何としても宝箱が欲しい。
 
「いや、欲張って死んでいった奴の話を何度聞いたか」

 自分に言い聞かせるようにあえて口に出し、大きく首を振る。
 また来ればいい。次はたっぷりと食糧を持って。ザ・ワンのモンスターは倒すと光となって消えるから、食糧も水も補給できないのだ。
 これが屋外なら、動物を狩ることも小川で水を補給することもできるのだが、ザ・ワンじゃそうはいかない。
 ザ・ワンに入ると補給の見込みはない。例外は探索者同業が落としていくことくらいだな。
 落とし物を期待してダンジョン滞在時間を増やすなんて、神頼みに等しい。
 だから、体力のあるうちに帰る。
 既にこの階層で結構な時間を消費していた。登れば登るほどモンスターは弱くなる。後はボスにさえ注意すれば、一気に駆け抜けることができる見込みだ。
 駆け抜けるためにここで粘った。だが、余計な時間を消費しているだけの余裕はない。
 
 後ろ髪引かれる思いで、階段を登る。
 
 ◇◇◇
 
 階段を登り切り、上層階のフロアへ足を踏み入れた途端に階段が床に塞がれてしまった。
 この階はガランとした30メートル四方の部屋で、扉も部屋から外へでる隙間も見当たらない。登り階段は確認できたが、その手前にモンスターが立ちはだかっていた。
 なるほど。ここが噂のボス部屋か。
 ボスがいる階層となると20階か10階のどちらかだな。いや、20階で確定だ。
 あのモンスターの姿……A級の冒険者だか誰だったか忘れたけど、聞いたことがあるぞ。
 八本の首を持つ大蛇。太い胴体から枝分かれした蛇の頭があって、尾の部分は一つ。名前はヒュドラという。
 胴から直立するように首が生えているのだけど、地面から頭の先までは5メートルほど。実際に対峙したら八本も頭があるからか、聞いていたより大きく見える。
 
 ヒュドラをくぐり抜けて階段を登る……のは難しそうだな。登っている間に横から下から上から蛇の頭に攻撃されては回避できない。
 ならば、やる。
 ボスがどれだけの強さか分からんが、一つ下の階で力を蓄えてきたんだ。
 お試しとばかりに奴の懐へ駆ける。奴の首のうちいくつかが反応したが、こちらの方が速い。
 このままファングで切り裂いてやるぜ。
 が、蛇の口から紫色の煙が吐き出され思いっきり吸い込んでしまった俺は咳きこんでしまう。転がって奴の尾の一撃を回避し、お返しとばかりに尾の裏側をファングで斬ってやった。
 『毒耐性でレジストしました』
 脳内にメッセージが流れる。今の紫色の煙は毒霧だったらしい。
 ゾッとしつつも、俺にとってはただむせるだけの煙だと自分に喝を入れる。
 ヒュドラの八本の首による噛みつきよりマンティコアの双頭と尾の連携の方が余程厄介だ。さくさく回避して、一本づつファングで首を落としていく。
 全ての首を落とした時、ヒュドラは光となって消えた。
 
『力+
 スキル「ポイズンミスト」を獲得しました』 
 
 ヒュドラの手強いところは毒霧攻撃なんだろうな。八本の首から毒霧で同時攻撃されては回避する術がない。
 俺はしばらく息を止めているだけの簡単なお仕事だったがね。
 毒耐性バンザイってとこだ。

「宝箱!」

 ヒュドラが倒れていた場所に宝箱が忽然と姿を現していた。なるほど。ボスを倒すと宝箱が出るのか。(後に誤りだったことが分かる。この時はたまたま出ただけだった)
 無縁だと思っていたから、ボス部屋とボスのことなんて聞いたとしても右から左だったよ。こんなことになるなら、ちゃんと聞いておけばよかった。
 罠は……無し。鍵もかかっていないな。
 宝箱の様子を確かめ、問題ないと判断しすぐさま箱を開く。
 また紙かよ。
 「転移の書」か。思わず破り捨てようとしてしまったが、何とか思いとどまる。こいつを売れば俺の一週間分くらいの稼ぎになるのだ。
 一時の怒りに身を任せてはいけない。

 ◇◇◇
 
 ボスを倒すとボス部屋にあるエレベーターなるもので地上まで一気に登ることができる、と知っていたのだが、エレベーターへ続く扉ってやつが出て来なかった。
 10階のボスを倒していないからかもしれない。
 しかし、ザ・ワンは不思議だ。俺が10階のボスモンスターを倒しているとか倒していないとかどんな仕組みでエレベーターを出現させているんだろうか。
 迷宮に挑む探索者なんて星の数ほどもいるってのに。一人だけクリア済みだったらエレベーターが出現するのか、しないのか、なんてことを考えながら19階を進む。
 
「21階と違って平和だな」

 19階を歩き始めて15分ほど経過しているが、まだモンスターに遭遇していない。階層によってモンスターの密度が違うのか?
 いや、21階と1階はモンスターの大きさは異なるが、出現率という点では殆ど変わらない。
 そこから導き出される答えは……他の探索者の存在だ。
 先に19階に挑んでいた探索者がバッタバッタと敵を仕留めているのかも。モンスターが光と化すと、一定時間が経過したらまたモンスターが湧く。
 次が湧くまでの間にはしばしの時間的猶予があるので、今がその時なのかもしれないってね。
 
 ところが――。
 広間から狭い入口に向けて、モンスターが八体も密集していたのだ。
 モンスターは全部同種で岩のようなゴツゴツした肌を持つ一つ目の巨人だった。身の丈3メートルを超える巨人は俺の胴より太い棍棒を握りしめている。
 密集していた場所は俺が来た方向と反対側の出口とでも言おうか。あの形だと反対側は部屋への入口かもしれない。
 あんなところに何故、大量の一つ目巨人が……?
 
「……そうなるよな」

 もう敵に発見されているので声を出しても問題ない。詰まっていた一つ目巨人たちは一斉に俺へと狙いを定めた様子。
 昨日までの俺と同じと思うな!
 ちょうどいい。こいつを喰らいやがれ。
 
「スキル『ポイズンミスト』」

 俺に向け殺到してくるモンスターを紫色の煙が包み込む。
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