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20.岩を投げる
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八日目――。
「お、重い……が、何とか」
「よいっしょー」
一抱えほどある岩をひいひい言いながら小屋の前まで運んできた。
ニーナも僕と同じくらいの大きさがある岩をドスンと地面に置く。
どうも、彼女と僕の腕力は同程度か彼女の方が上という体たらくである。折れそうに細い腕だというのにどこにあんな力があるのか不思議でならない。
それでも、彼女もまた僕と同様に玉のような汗を額から流している。
この生活を続けていれば、自然と腕力だけでなく体力もついてくるはず。元々、全く動いていなかった体にしては上出来じゃないのかな。
なんて自分に甘い僕であった。
「あんちゃん、落ちてる石だけじゃ難しくない?」
「そこは粘土で……あ、そうか」
本日も晴天だったので、僕たちは家作りを開始したんだ。
小屋は手狭だし、せっかく広い土地もあるのだから一人一部屋くらい持ってもいいだろってことで。
といっても、まずは雨の日でも快適に煮炊きができるように屋根だけでも作ってしまうことが目標だ!
ぽんと手を叩いた僕は道具作りこそ先にすべきだったと気が付く。
元々の計画は適当な大きさの岩を集めてきて、粘土で隙間を埋め柱にする。長方形になるように四隅に柱を立てて、その間に一本か二本の柱を並べようと考えていた。
これらの柱を支柱にして、屋根を作る。最初は枝や藁を組み合わせて適当に、後程、粘土に枝の破片を混ぜて……うまくいけばいいなと計画していたのだ。
粘土は火を通せば固まるから、窯の要領でいける。
計画に大きな変更はないのだけど、もっと楽に、かつ頑丈に、綺麗に作る手段があったことを今更ながら思い出した。
そう、クラフトの特性だよ。
クラフトの特性を使うには、道具と素材が揃っていなきゃならない。
逆に言えば、道具と素材があればクラフトの特性を使えるということ。
しかも、チートなことにクラフトの特性を使えば道具が傷まないときたものだ。
使わない手はないだろ。
「黒曜石で石切りナイフを作ろうと思っているんだけど、斬れるかなあ……」
「それでしたら、鮫の歯でどうですか?」
「鮫の歯ってそれほど硬いものじゃないんじゃ」
「ブルーシャークの歯なら大丈夫です!」
「あれ、そんな名前だったっけ」
そういや、見た目が自分の知っているホホジロザメだったので海の書に触れさせていなかったんだった。
さっそく小屋に入って、鮫の歯を海の書で調べてみるとニーナの言った通り「ブルーシャーク」って鮫であることが分かる。
「泡の中でも岩に彫刻をしたりするときに使うんですよ」
「なるほど。斬れさえすれば僕の特性が使える!」
「はいい。あのすんごい魔法ですよね! でしたら、わたし、岩を取ってきますよ!」
「ん?」
「海の中でしたら、地上と違って力が出ますので」
そういや、ニーナは鮫の頭を被ってきた時に「脚になるとか弱くなる」って言ってた。
「分かった。じゃあ、僕はブルーシャークの歯でノコギリのような道具を作るから、ニーナは海へ」
「はいい。お任せを! とっておきのを取ってきます! うふふー」
彼女は既に岩の目星をつけているようだ。
僕は僕でやることをやってしまおう。ウキウキした様子で小屋を出て行く下半身すっぽんぽんのニーナを見やりつつ、鮫の歯を床に並べる。
パックが興味津々に僕の手元を見つめる中、作業開始だ。
鮫の歯を接合するアスファルトとかがあればいいんだけど、残念ながら手元にない。
そこで黒曜石に窪みをつくって鮫の歯を埋め込み、隙間を粘土で埋める。
こうすることで鮫の歯が並んだかのようなギザギザしたノコギリが出来上がった。焼き入れもして粘土も固めてみたぞ。
普通に使うとあっさり鮫の歯が取れそうだけど、クラフトならいけるんじゃないかと。失敗したら、やり方を変えればいいだけ。まずは試してみることにしようか。
さっそく出来上がった鮫の歯ノコギリを掴み、手頃な岩にあてがう。
僕の手が光り、岩が真っ二つに分かれた。
「よし、成功だ」
「やっぱすげえ、その魔法!」
パックが興奮した様子で拍手をする。
一発でうまくいくとは思ってなかったけど、これでいけそうだぞ。
◇◇◇
「な、なんじゃこら……」
「ねえちゃんだよな? すげーじゃねえか!」
大喜びのパックと茫然とする僕。
対称的な二人はもちろん同じ光景を目にしている。
ただ反応が異なるだけだ。
岩がさ、宙を舞ってどしーんと砂浜に着弾していた。
あの大きさの岩だと500キロは余裕で越えている。
そいつが海中から飛び出し上空数メートルまで登ったところで弧を描き砂浜に落ちていた。
冗談のような光景に開いた口が塞がらないってわけなんだよ!
それも、一つや二つじゃない。
僕とパックが目にしたのは十個目くらいかな……。
「ニーナ! もう十分だよ。あがってきて!」
声が届いたのか、ヒレが水面をバシャッとやって海面からニーナが顔だけを出す。
力持ちってのにも程度ってものがあるだろ。
いやでも、考えてみろ。
ニーナはあの巨大なブルーシャークの頭を被って海中から出て来た。
頭の大きさからして、あの鮫は500キロ以上はあるはず。そいつを海中で「素手で」仕留めて、両手があかないからという理由で持ってくるのをやめた。
となるとだな。ブルーシャークを丸ごと運ぶこともできたってわけだ。
なので、あのサイズの岩を放り投げることなんて造作もないこと。
海中のニーナは怖すぎだろ。
背筋に冷たいものを感じた僕はブルリと全身を震わせる。
問題はこの後、起こった。
ニーナが岩を投げてくれたのはいいが、小屋まで持って行く手段がない。
こんな重たいものを持ち上げることなんて三人がかりでも不可能だ。
そのため、幾本もの丸太を切り出し、梃の要領で岩を丸太の上に乗せる。
あとは、丸太を転がしつつ移動して小屋まで岩を運び込んだのだった。
ここまで来たところでもうへとへとで、完全にグロッキーだ。パックも途中でカモメ姿に戻っちゃったし、残りの作業は翌日に繰越すことにした。
◇◇◇
――九日目。
八日目のガチャは工事現場で使うような大き目のシャベルだった。こいつはありがたい。
活躍する場面は多々出てくると思う。
小屋の前にはゴロゴロと運んできた岩が転がっている。
我ながらよくここまで運んだものだよ。もちろん、ニーナとパックの力があってこそだ。
疲れのためか、二人はまだ眠っている。
そのうち起きて来るだろうから、僕は僕で朝食の準備でもすることにしようか。
「やっぱり。そのまま運んでよかったな」
竈からしげしげと運んできた岩の一つを眺める。
この大きさなら一本の石柱として切り出せそうだ。小さなサイズにして個別に運ぶという手段もあった。
だけど、石柱としてそのまま使えると思って、頑張って運んだんだよ。
「それにしても綺麗な岩だな」
「でしょー。真っ白に海の色が混じった岩なんですよー。泡の中でも人気の石材です」
「ニーナ、起こしちゃったか」
「いえいえ。ちょうど起きたんです!」
後ろからニーナに声をかけられるが、僕の目線は岩から動かなかった。
確かに人気なのは頷ける。
大理石よりこちらの岩の方が遥かに美しいんじゃないか。純白に海のような青が混じり、場所によっては透明感のある青色になっている。
この青と白の混じり方が何とも言えず綺麗なんだよな。
この岩が美しいことに異論はないけど、ここに不釣り合い過ぎないか……まあいいや、使えるものは使わないとね。
「お、重い……が、何とか」
「よいっしょー」
一抱えほどある岩をひいひい言いながら小屋の前まで運んできた。
ニーナも僕と同じくらいの大きさがある岩をドスンと地面に置く。
どうも、彼女と僕の腕力は同程度か彼女の方が上という体たらくである。折れそうに細い腕だというのにどこにあんな力があるのか不思議でならない。
それでも、彼女もまた僕と同様に玉のような汗を額から流している。
この生活を続けていれば、自然と腕力だけでなく体力もついてくるはず。元々、全く動いていなかった体にしては上出来じゃないのかな。
なんて自分に甘い僕であった。
「あんちゃん、落ちてる石だけじゃ難しくない?」
「そこは粘土で……あ、そうか」
本日も晴天だったので、僕たちは家作りを開始したんだ。
小屋は手狭だし、せっかく広い土地もあるのだから一人一部屋くらい持ってもいいだろってことで。
といっても、まずは雨の日でも快適に煮炊きができるように屋根だけでも作ってしまうことが目標だ!
ぽんと手を叩いた僕は道具作りこそ先にすべきだったと気が付く。
元々の計画は適当な大きさの岩を集めてきて、粘土で隙間を埋め柱にする。長方形になるように四隅に柱を立てて、その間に一本か二本の柱を並べようと考えていた。
これらの柱を支柱にして、屋根を作る。最初は枝や藁を組み合わせて適当に、後程、粘土に枝の破片を混ぜて……うまくいけばいいなと計画していたのだ。
粘土は火を通せば固まるから、窯の要領でいける。
計画に大きな変更はないのだけど、もっと楽に、かつ頑丈に、綺麗に作る手段があったことを今更ながら思い出した。
そう、クラフトの特性だよ。
クラフトの特性を使うには、道具と素材が揃っていなきゃならない。
逆に言えば、道具と素材があればクラフトの特性を使えるということ。
しかも、チートなことにクラフトの特性を使えば道具が傷まないときたものだ。
使わない手はないだろ。
「黒曜石で石切りナイフを作ろうと思っているんだけど、斬れるかなあ……」
「それでしたら、鮫の歯でどうですか?」
「鮫の歯ってそれほど硬いものじゃないんじゃ」
「ブルーシャークの歯なら大丈夫です!」
「あれ、そんな名前だったっけ」
そういや、見た目が自分の知っているホホジロザメだったので海の書に触れさせていなかったんだった。
さっそく小屋に入って、鮫の歯を海の書で調べてみるとニーナの言った通り「ブルーシャーク」って鮫であることが分かる。
「泡の中でも岩に彫刻をしたりするときに使うんですよ」
「なるほど。斬れさえすれば僕の特性が使える!」
「はいい。あのすんごい魔法ですよね! でしたら、わたし、岩を取ってきますよ!」
「ん?」
「海の中でしたら、地上と違って力が出ますので」
そういや、ニーナは鮫の頭を被ってきた時に「脚になるとか弱くなる」って言ってた。
「分かった。じゃあ、僕はブルーシャークの歯でノコギリのような道具を作るから、ニーナは海へ」
「はいい。お任せを! とっておきのを取ってきます! うふふー」
彼女は既に岩の目星をつけているようだ。
僕は僕でやることをやってしまおう。ウキウキした様子で小屋を出て行く下半身すっぽんぽんのニーナを見やりつつ、鮫の歯を床に並べる。
パックが興味津々に僕の手元を見つめる中、作業開始だ。
鮫の歯を接合するアスファルトとかがあればいいんだけど、残念ながら手元にない。
そこで黒曜石に窪みをつくって鮫の歯を埋め込み、隙間を粘土で埋める。
こうすることで鮫の歯が並んだかのようなギザギザしたノコギリが出来上がった。焼き入れもして粘土も固めてみたぞ。
普通に使うとあっさり鮫の歯が取れそうだけど、クラフトならいけるんじゃないかと。失敗したら、やり方を変えればいいだけ。まずは試してみることにしようか。
さっそく出来上がった鮫の歯ノコギリを掴み、手頃な岩にあてがう。
僕の手が光り、岩が真っ二つに分かれた。
「よし、成功だ」
「やっぱすげえ、その魔法!」
パックが興奮した様子で拍手をする。
一発でうまくいくとは思ってなかったけど、これでいけそうだぞ。
◇◇◇
「な、なんじゃこら……」
「ねえちゃんだよな? すげーじゃねえか!」
大喜びのパックと茫然とする僕。
対称的な二人はもちろん同じ光景を目にしている。
ただ反応が異なるだけだ。
岩がさ、宙を舞ってどしーんと砂浜に着弾していた。
あの大きさの岩だと500キロは余裕で越えている。
そいつが海中から飛び出し上空数メートルまで登ったところで弧を描き砂浜に落ちていた。
冗談のような光景に開いた口が塞がらないってわけなんだよ!
それも、一つや二つじゃない。
僕とパックが目にしたのは十個目くらいかな……。
「ニーナ! もう十分だよ。あがってきて!」
声が届いたのか、ヒレが水面をバシャッとやって海面からニーナが顔だけを出す。
力持ちってのにも程度ってものがあるだろ。
いやでも、考えてみろ。
ニーナはあの巨大なブルーシャークの頭を被って海中から出て来た。
頭の大きさからして、あの鮫は500キロ以上はあるはず。そいつを海中で「素手で」仕留めて、両手があかないからという理由で持ってくるのをやめた。
となるとだな。ブルーシャークを丸ごと運ぶこともできたってわけだ。
なので、あのサイズの岩を放り投げることなんて造作もないこと。
海中のニーナは怖すぎだろ。
背筋に冷たいものを感じた僕はブルリと全身を震わせる。
問題はこの後、起こった。
ニーナが岩を投げてくれたのはいいが、小屋まで持って行く手段がない。
こんな重たいものを持ち上げることなんて三人がかりでも不可能だ。
そのため、幾本もの丸太を切り出し、梃の要領で岩を丸太の上に乗せる。
あとは、丸太を転がしつつ移動して小屋まで岩を運び込んだのだった。
ここまで来たところでもうへとへとで、完全にグロッキーだ。パックも途中でカモメ姿に戻っちゃったし、残りの作業は翌日に繰越すことにした。
◇◇◇
――九日目。
八日目のガチャは工事現場で使うような大き目のシャベルだった。こいつはありがたい。
活躍する場面は多々出てくると思う。
小屋の前にはゴロゴロと運んできた岩が転がっている。
我ながらよくここまで運んだものだよ。もちろん、ニーナとパックの力があってこそだ。
疲れのためか、二人はまだ眠っている。
そのうち起きて来るだろうから、僕は僕で朝食の準備でもすることにしようか。
「やっぱり。そのまま運んでよかったな」
竈からしげしげと運んできた岩の一つを眺める。
この大きさなら一本の石柱として切り出せそうだ。小さなサイズにして個別に運ぶという手段もあった。
だけど、石柱としてそのまま使えると思って、頑張って運んだんだよ。
「それにしても綺麗な岩だな」
「でしょー。真っ白に海の色が混じった岩なんですよー。泡の中でも人気の石材です」
「ニーナ、起こしちゃったか」
「いえいえ。ちょうど起きたんです!」
後ろからニーナに声をかけられるが、僕の目線は岩から動かなかった。
確かに人気なのは頷ける。
大理石よりこちらの岩の方が遥かに美しいんじゃないか。純白に海のような青が混じり、場所によっては透明感のある青色になっている。
この青と白の混じり方が何とも言えず綺麗なんだよな。
この岩が美しいことに異論はないけど、ここに不釣り合い過ぎないか……まあいいや、使えるものは使わないとね。
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