上 下
166 / 167

166.ベリサリウスの結婚式

しおりを挟む
 俺は明日に控えたベリサリウスとエリスの結婚式の衣装を届ける為、ベリサリウスの家を訪れている。ベリサリウスには金糸で双頭の鷲が描かれた絹のマント。エリスには純白のウェディングドレス。もちろん純白のヴェールも付属している。
 エリスに案内されてベリサリウス邸のリビングに通されると、ベリサリウスは椅子に座って俺を待っていてくれたが、俺が目に入ると立ち上がって迎え入れてくれた。
 俺はベリサリウスに一礼すると、さっそくエリスのウェディングドレスが入った包みをエリスへ手渡す。
 
 エリスは頬を上気させて包みを受け取ってくれた。
 
「ピウスさん。ありがとう」

 エリスは嬉しそうに包みを胸に抱くと、ベリサリウスの後ろへ控える。
 エリスはベリサリウスがいるときには「ピウスさん」と俺のことを呼ぶ。いつまでぶりっ子しているのか見ものだ……結婚すると素が出るのかそれともそのままなのか。
 
「エリスさん。明日の朝、着付けにカチュアがこちらに来ますのでよろしくお願いします」

「わかったわ。本当にありがとう。ピウスさん」

 エリスは長い耳が垂れ下がり、口元が緩みながらも俺に礼を述べる。
 
「ベリサリウス様はこちらを」

 俺はベリサリウスに向きなおると、両手でマントの入った包みを持ち膝をついて彼に包みを掲げる。
 
「ありがとう。プロコピウス。結婚式の差配も感謝しているぞ」

 ベリサリウスは包みを受け取ると、俺に開けていいか目くばせする。俺が無言で頷くと、彼は包みを開封し中にはいった純白のマントを両手に持ち俺にも見えるようにマントを開く。
 金糸で描かれた双頭の鷲がベリサリウスの目に入った時、彼の表情は懐かしいものを見るような顔になり、目尻が下がるのが見て取れた。
 
「いかがでしょうか?」

 おずおずと俺が尋ねると、ベリサリウスは暫く無言でマントを食い入るように見つめた後、俺に向きなおる。
 
「帝国の鷲とは……お前の心遣いに……私は何と言っていいか……ありがとう。プロコピウス」

「喜んでいただけて嬉しいです!」

「ありがとう。本当にありがとう。プロコピウス。お前がいてくれてどれだけ私は……」

 ベリサリウスの言葉は感動のためか、最後の方は途切れてしまったが、俺もこれだけベリサリウスに喜んでもらえると感激で胸がいっぱいだ。
 ブリタニアに来て以来、彼がいたからこそ俺はここまでこれた。彼なしでは生きていくことさえままならなかっただろう。ありがとう。ベリサリウス。
 これからもよろしくお願いします……俺は心の中で独白する。
 
 
◇◇◇◇◇

 
――翌日
 ティモタとライチが指導しオークと犬耳族が建築した凱旋門は想像以上の出来で、見事なアーチの技術が使われた立派な凱旋門となった。凱旋門は横幅が四十メートル、高さ二十メートルと本当にこんな短期間でつくったのかと思えるほどの巨大さだ。
 ローマの入口を飾るにこれ以上に相応しい建築物はないだろう。
 
 凱旋門を境にローマと外が区切られ、真っすぐにアスファルトの道が中央広場まで続いている。
 ベリサリウスとエリスの乗せた屋根の無い馬車は四頭の騎乗竜が取り付けられ、俺、ジャムカ、カエサル、モンジューが御者を務める。街道の左右にはローマだけではなく、辺境伯領や共和国からもたくさんの人がつめかけておりたくさんの人であふれている。

「ベリサリウス様。はじめましょう」

 俺が後ろを振り向き、ベリサリウスへ声をかけると彼は「よろしく頼む」と応じ、俺はジャムカらに目くばせし騎乗竜を前へと進める。
 馬車が進むと街道に詰めかけた民衆は歓呼で俺達を迎え、盛大な拍手が鳴り響く。
 
 誰もがベリサリウスとエリスの登場を心待ちにしていてくれていたようで、馬車がローマ中央広場に到着しても歓声と拍手は鳴りやまない。
 俺達四人は騎乗竜をとめると下竜する。
 
 ベリサリウスはエリスの手を引き、馬車を降りると集まった民衆へ手を振りマントをひるがえす。
 マントが風にたなびき、金糸で描かれた双頭の鷲が太陽の光を反射してキラキラと輝きとても勇壮な雰囲気を演出する。
 
 俺が前を向くと噴水があり、噴水前に設置された階段の上には教師卓のような机があり、その奥にヴェールを被ったナルセスが静かに二人を待っている。
 ナルセスは二人の婚儀を執り行ってくれる神父のような役目を果たす。ベリサリウスの婚儀と聞いたナルセスは自身が婚儀を務めてもいいか自らローマまで訪ねてきてくれたんだ。
 ベリサリウスは旧友の来訪に喜び、ぜひお願いすると二つ返事で彼女に婚儀の依頼をする。

 神聖な雰囲気がこれほど似合う人もいないだろう。ナルセスは相変わらず超然とした神聖さを醸し出している。どこへ来てもどんな場所でも彼女のこの神々しさは失われることはないんだろうなあ。
 
 
 ベリサリウスとエリスはゆっくりと階段を登り、ナルセスの元まで進む。ナルセスは鷹揚おうようと彼らを迎え入れ、二人は俺達の方へ振り返ると一礼しナルセスの方へ振り返った。
 
「ベリサリウスさん、エリスさん。二人の婚儀をここに執り行います。お二人はお互いが夫婦となることを誓いますか?」

「はい」
「はい」

 ナルセスの言葉に二人ははっきりとした声で応える。
 
「神よ。ベリサリウスさんとエリスさんが夫婦となることをここに宣言いたします。二人に神の祝福あれ」

 ナルセスは手にもった金色の杖を天に掲げると、杖の先から光が真っすぐ天に向けてほとばしる。
 
 そこへ、空にあがったティンらハーピーが魔術が込められたオパールをかざすと、美しい花火に似た光が広がる。音はしないけど、見た目はまさに花火そのものだ。
 さすがエルラインの魔術だよ。完璧じゃないか。
 
 魔術の花火に観衆は大歓声をあげ、耳が痛くなるほどの拍手が二人を祝福した。
 こうしてベリサリウスとエリスの婚儀は滞りなく終了し、街をあげた祝宴がはじまる。小鬼村の村長は牛肉、鶏肉、草食竜の肉を大量に準備してくれて、周辺国から集められた様々な野菜や果物も目を楽しませる。
 
 素晴らしい結婚式だった。二人が喜んでいてくれればいいんだけど……
 俺はキャッサバ酒と草食竜の肉が挟まれたキャッサバパンのサンドイッチを手に持ち、ベンチに腰掛ける。
 
 集まった民衆もそれぞれ思い思いの料理を手に取り楽しんでいる。
 
 ああ。俺は何て幸せなんだろう。ローマは平和をこれからも謳歌おうかしていくことができるはずだ。民衆がこれだけ一体となって祝福できるんだから。
 
 祝宴は夜遅くまで続き、俺が家に戻る頃には空が白み始めていた。
 
 俺は風呂で汗を流してから、自室のベッドに寝転がる。俺は銀の板を手で撫でながら、今日のベリサリウスとエリスの婚儀を思い出し口元をにやけさせながらベッドをゴロゴロと転がる。
 二人の婚儀は終わった。大きな仕事を終えた俺は再びブリタニアに残るべきか、地球に帰還すべきか頭を悩ませる……徹夜したから眠気はものすごくあるのだけど、考えはじめると寝付けなくなってしまう。
 
「あー。地球の暮らしに戻りたい気持ちもあるけど、ブリタニアの友人たちも捨てがたい……うーん」

 俺はどちらも選べないため悶絶し、銀の板をバンバンとベッドに叩きつける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...