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81.ナルセスと聖教騎士団
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ナルセスの言葉からの推測だけど、聖教騎士団から吹き込まれただけで、実際に魔族を見たわけじゃないな。この言い方だと。
「ナルセス様。魔族と呼ばれる人達も知性ある存在なんですよ」
「ええ。存じ上げてますよ。ただ、その性質が問題だとか」
「彼らもこの世界――ブリタニアでエルフらと同じく知恵の実を食べた事は同じなんです」
「そうですね」
ナルセスは薄い唇に人差指を当てて思案顔だ。俺の言わんとすることが何か咀嚼しようとしているのだろう。
「ナルセス様。俺は彼らとそれなりの期間過ごしてますが、彼らは朴訥で働き者です。俺が記憶する限り暴力沙汰は皆無です」
「あなたの言う事なら真実なのでしょう。ただ、騎士団の方も嘘を言っているようにはみえません」
ナルセスは切れ長の目を隣に座る聖教騎士団の髭に向けと、彼女と目が合った髭は何度もウンウンと頷きを返す。
分かっていた事だが、パルミラ聖教の教義が魔族を悪と吹聴しているんだろう。
背景は想像だが、ダークエルフの話から想像するに聖王国の勢力圏を拡げる為、彼らを魔族として忌み嫌うよう聖王国に住む人間の意思を統一させたんだ。
魔族から解放する為の聖なる戦いって名目で、彼らを魔の森まで押しやった。
恐らく魔族設定は後付けだ。いつからかは分からないけど。
きっかけとなったのも何か今なら分かる。
それは、魔法の確立に違いない。パルミラ聖王国は、難解な魔術から比較的容易に習得出来る魔法を体系化した。
炎弾を撃てる兵士集団はパルミラ聖王国を劇的に強くしたことだろう。拡大政策に転じたパルミラ聖王国は、魔族を追いやり勢力圏を拡大した。
他国のことは分からないが、パルミラ聖王国は他国に対しても優位に立てたはず。
「ナルセス様。実際に魔族と呼ばれる人達を見ていただければ分かると思います。彼らは静かに暮らしたいだけなんです」
「いや、魔族は放っておくと魔の森を越え我々を蹂躙しにくるに違いないのだ!」
突然興奮した様子で髭が立ち上がり、俺たちの会話へ割って入って来た。
きっと彼は幼い頃から聖教の教義を学び育った敬虔な聖教徒なんだろう。教義は人を盲目にする。それは地球の歴史を顧みれば容易に分かることだ。
俺はこうやって彼を分析しているが、俺だってパルミラ聖王国で生まれ育ったなら、疑いもせず「魔族は滅すべし」と考えていたと思う。だから、彼を軽んじたりは決してしない……ただ、このままでは共存は難しいと思うんだ。
「まあまあムンドさん。プロコピウスさんはとても聡明な方です。彼とともにいるベリサリウスさんも実直で曲がった事が嫌いな方。魔族が野盗と言うならば、決してこの二人は、魔族を滅ぼしますよ」
「ねっ」と俺に目配せしてくるナルセス。
「その通りです。俺はともかくベリサリウス様は野盗をのさばらせることはいたしません」
「あなた方二人は剣の腕も立ちますし、それにそちらの少年もあなたの味方なのでしょう?」
ナルセスはエルラインへ柔和な笑みを向ける。対するエルラインは表情を変えない。どうも彼はナルセスの事があまり好きでは無いみたいだな。
いや、彼の場合は好き嫌いじゃないか。面白いかそうでないかだな。ナルセスに面白みを感じないってことか。まあ、気持ちは分かる。ナルセスは一緒に居て楽しい性格じゃあないよな。
「まあ、僕らが本気になればこの国の兵士が束になっても平気さ」
こら! エルライン! 煽るな! 髭がピクピク肩を震わせてるぞ。
「聖女様。我々騎士団が魔族に打ち倒されたのですぞ!」
「ナルセス様! それは自衛です。魔の森から私たちが外へ攻め入ったわけじゃありません」
髭と俺の言葉にナルセスはふむと頷くと、片手をあげて睨み合う俺と髭を制する。
「プロコピウスさん、私の意見を聞いてくださいますか?」
「はい」
「私としてはあなたも聖教騎士団もどちらの言葉も信じたいです。ですので、魔の森から外へ攻めて来ない限り私は魔族の方を危険視しません」
「理にかなってますね。出て来なければ危険性は無いと。出て来るなら攻める意識有りと」
「はい。その通りです。私個人はその判断で動きます」
「了解しました。ただ、俺達は魔の森に攻めて来る敵は自衛の為に打ち倒しますよ」
「魔の森へ攻め入った場合、私は関知しません。最も、私から攻め入ろうとする方々へ警告はしますが。止めると言えずすいません。ここでの私は将軍ではありませんので」
「いえ、それで十分です。ナルセス様とは争いたくありません」
ナルセスが大軍を率いて攻めて来るとか悪夢だ。彼女が来ないなら、この話し合いは有意義な決定を見たと言っていいだろう。
「ナルセス様。本日はありがとうございました!」
「いえいえ。プロコピウスさん。あなたは私の古くからの友人です。同じ世界出身の者同士これからもよろしくお願いしますね」
ナルセスはいつものアルカイックスマイルを浮かべると冒険者の宿を後にして行った。
彼女が出ていくのを見送り、振り返るとニヤニヤした笑みを浮かべるエルラインと目が合ってしまった……何か言いたそうだな……
「ピウス。いっそのことやってしまうなら協力するよ」
何をやるのかな……エルライン……怖いって。
「エル。やるって何をやるんだ……」
「百人程度なら、僕一人でも十分さ」
やっぱりそっちの殺るかよ! 物騒な動きは勘弁して欲しい。平和に平和に行こうよ。
「いや。戦いは避けれるに越したことは無いよ」
「ふうん。聖教っていうのはとても、面倒だよ……滅ぼしたいくらいにね……」
「ま、まあ。落ち着いてくれよ。エル。ローマに帰ってから、まずベリサリウス様へ報告しよう。またこの街――フランケルにすぐ戻るけど」
「まあ。君がそういうならいいか。行商人達を観察したほうが面白そうだね」
良かった。そういえばエルラインって魔王って呼ばれていたな、人間達に。こういった凶暴な面もあるんだな……彼は確か魔術を極めし者って言ってた気がする。
魔術は魔法に比べると隔絶した強さを持つ。その魔術を極めた存在こそが魔王リッチ……エルラインだ。俺には想像がつなかいほど戦闘力があるんだろうなあ……
未だ戦う姿を見たことがないけどね。
俺は冒険者の宿の従業員に明日の朝またここへ来ることを告げ、街を後にした。
◇◇◇◇◇
ローマに帰還した俺はベリサリウスへナルセスとの会談結果を伝えると、自宅に帰る。自宅に待っているのは風呂。そう風呂だ。今日こそ一人でゆっくりと入るんだ!
ようやく一人でゆっくり風呂に入れた俺は満足したまま、床に就く。日ごろの疲れの為かすぐに眠りに落ちた俺……
気が付くと、俺は地球の自分の部屋に座っていた。しかし感覚は無く自分でも夢だと分かる。夢だとは言えこの風景は懐かしい……パソコンにテレビ。エアコンもある。
パソコン用の椅子に腰をかけ大きくため息をつき背を逸らすと、何かが目に入る。
――耳目秀麗なギリシャ彫刻のような美丈夫が俺の後ろに立っていた! ウェーブのかかった茶色の長髪に均整のとれた体つき。どこを切り取っても彫刻のような完璧さをほこるその容姿……どこかで見たことがある気がする。
あっけにとられて俺が固まっていると、美丈夫が口を開く。
「ナルセス様。魔族と呼ばれる人達も知性ある存在なんですよ」
「ええ。存じ上げてますよ。ただ、その性質が問題だとか」
「彼らもこの世界――ブリタニアでエルフらと同じく知恵の実を食べた事は同じなんです」
「そうですね」
ナルセスは薄い唇に人差指を当てて思案顔だ。俺の言わんとすることが何か咀嚼しようとしているのだろう。
「ナルセス様。俺は彼らとそれなりの期間過ごしてますが、彼らは朴訥で働き者です。俺が記憶する限り暴力沙汰は皆無です」
「あなたの言う事なら真実なのでしょう。ただ、騎士団の方も嘘を言っているようにはみえません」
ナルセスは切れ長の目を隣に座る聖教騎士団の髭に向けと、彼女と目が合った髭は何度もウンウンと頷きを返す。
分かっていた事だが、パルミラ聖教の教義が魔族を悪と吹聴しているんだろう。
背景は想像だが、ダークエルフの話から想像するに聖王国の勢力圏を拡げる為、彼らを魔族として忌み嫌うよう聖王国に住む人間の意思を統一させたんだ。
魔族から解放する為の聖なる戦いって名目で、彼らを魔の森まで押しやった。
恐らく魔族設定は後付けだ。いつからかは分からないけど。
きっかけとなったのも何か今なら分かる。
それは、魔法の確立に違いない。パルミラ聖王国は、難解な魔術から比較的容易に習得出来る魔法を体系化した。
炎弾を撃てる兵士集団はパルミラ聖王国を劇的に強くしたことだろう。拡大政策に転じたパルミラ聖王国は、魔族を追いやり勢力圏を拡大した。
他国のことは分からないが、パルミラ聖王国は他国に対しても優位に立てたはず。
「ナルセス様。実際に魔族と呼ばれる人達を見ていただければ分かると思います。彼らは静かに暮らしたいだけなんです」
「いや、魔族は放っておくと魔の森を越え我々を蹂躙しにくるに違いないのだ!」
突然興奮した様子で髭が立ち上がり、俺たちの会話へ割って入って来た。
きっと彼は幼い頃から聖教の教義を学び育った敬虔な聖教徒なんだろう。教義は人を盲目にする。それは地球の歴史を顧みれば容易に分かることだ。
俺はこうやって彼を分析しているが、俺だってパルミラ聖王国で生まれ育ったなら、疑いもせず「魔族は滅すべし」と考えていたと思う。だから、彼を軽んじたりは決してしない……ただ、このままでは共存は難しいと思うんだ。
「まあまあムンドさん。プロコピウスさんはとても聡明な方です。彼とともにいるベリサリウスさんも実直で曲がった事が嫌いな方。魔族が野盗と言うならば、決してこの二人は、魔族を滅ぼしますよ」
「ねっ」と俺に目配せしてくるナルセス。
「その通りです。俺はともかくベリサリウス様は野盗をのさばらせることはいたしません」
「あなた方二人は剣の腕も立ちますし、それにそちらの少年もあなたの味方なのでしょう?」
ナルセスはエルラインへ柔和な笑みを向ける。対するエルラインは表情を変えない。どうも彼はナルセスの事があまり好きでは無いみたいだな。
いや、彼の場合は好き嫌いじゃないか。面白いかそうでないかだな。ナルセスに面白みを感じないってことか。まあ、気持ちは分かる。ナルセスは一緒に居て楽しい性格じゃあないよな。
「まあ、僕らが本気になればこの国の兵士が束になっても平気さ」
こら! エルライン! 煽るな! 髭がピクピク肩を震わせてるぞ。
「聖女様。我々騎士団が魔族に打ち倒されたのですぞ!」
「ナルセス様! それは自衛です。魔の森から私たちが外へ攻め入ったわけじゃありません」
髭と俺の言葉にナルセスはふむと頷くと、片手をあげて睨み合う俺と髭を制する。
「プロコピウスさん、私の意見を聞いてくださいますか?」
「はい」
「私としてはあなたも聖教騎士団もどちらの言葉も信じたいです。ですので、魔の森から外へ攻めて来ない限り私は魔族の方を危険視しません」
「理にかなってますね。出て来なければ危険性は無いと。出て来るなら攻める意識有りと」
「はい。その通りです。私個人はその判断で動きます」
「了解しました。ただ、俺達は魔の森に攻めて来る敵は自衛の為に打ち倒しますよ」
「魔の森へ攻め入った場合、私は関知しません。最も、私から攻め入ろうとする方々へ警告はしますが。止めると言えずすいません。ここでの私は将軍ではありませんので」
「いえ、それで十分です。ナルセス様とは争いたくありません」
ナルセスが大軍を率いて攻めて来るとか悪夢だ。彼女が来ないなら、この話し合いは有意義な決定を見たと言っていいだろう。
「ナルセス様。本日はありがとうございました!」
「いえいえ。プロコピウスさん。あなたは私の古くからの友人です。同じ世界出身の者同士これからもよろしくお願いしますね」
ナルセスはいつものアルカイックスマイルを浮かべると冒険者の宿を後にして行った。
彼女が出ていくのを見送り、振り返るとニヤニヤした笑みを浮かべるエルラインと目が合ってしまった……何か言いたそうだな……
「ピウス。いっそのことやってしまうなら協力するよ」
何をやるのかな……エルライン……怖いって。
「エル。やるって何をやるんだ……」
「百人程度なら、僕一人でも十分さ」
やっぱりそっちの殺るかよ! 物騒な動きは勘弁して欲しい。平和に平和に行こうよ。
「いや。戦いは避けれるに越したことは無いよ」
「ふうん。聖教っていうのはとても、面倒だよ……滅ぼしたいくらいにね……」
「ま、まあ。落ち着いてくれよ。エル。ローマに帰ってから、まずベリサリウス様へ報告しよう。またこの街――フランケルにすぐ戻るけど」
「まあ。君がそういうならいいか。行商人達を観察したほうが面白そうだね」
良かった。そういえばエルラインって魔王って呼ばれていたな、人間達に。こういった凶暴な面もあるんだな……彼は確か魔術を極めし者って言ってた気がする。
魔術は魔法に比べると隔絶した強さを持つ。その魔術を極めた存在こそが魔王リッチ……エルラインだ。俺には想像がつなかいほど戦闘力があるんだろうなあ……
未だ戦う姿を見たことがないけどね。
俺は冒険者の宿の従業員に明日の朝またここへ来ることを告げ、街を後にした。
◇◇◇◇◇
ローマに帰還した俺はベリサリウスへナルセスとの会談結果を伝えると、自宅に帰る。自宅に待っているのは風呂。そう風呂だ。今日こそ一人でゆっくりと入るんだ!
ようやく一人でゆっくり風呂に入れた俺は満足したまま、床に就く。日ごろの疲れの為かすぐに眠りに落ちた俺……
気が付くと、俺は地球の自分の部屋に座っていた。しかし感覚は無く自分でも夢だと分かる。夢だとは言えこの風景は懐かしい……パソコンにテレビ。エアコンもある。
パソコン用の椅子に腰をかけ大きくため息をつき背を逸らすと、何かが目に入る。
――耳目秀麗なギリシャ彫刻のような美丈夫が俺の後ろに立っていた! ウェーブのかかった茶色の長髪に均整のとれた体つき。どこを切り取っても彫刻のような完璧さをほこるその容姿……どこかで見たことがある気がする。
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