目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?

うみ

文字の大きさ
上 下
30 / 59

30.順調、いたって順調

しおりを挟む
 スパランツァーニと会談を行ってからはや八か月が過ぎようとしようとしている。
 季節は晩夏を迎え、農村部では収穫の時期となっていた。
 
 人口が減り続けていた農村は、街からの移住者によってかつての人口密度を取り戻しつつある。
 意外にも貧困層の中で、人間は街から出ることを希望する者が多かった。
 もう一方の獣人は半々で、廃村に行く者もいれば、街の周辺で新規開拓に勤しむ者と別れている。
 
 収穫期が過ぎ、農村は劇的な変化を見せた。
 飢えに苦しむ者が皆無となり、減税の効果もあってか冬に備えて蓄えも確保できるだけじゃなく、余剰分をまで出ている。
 農業技術が劇的に変化したわけではない。天候も平年並みで、特段豊作になるような見込みではなかったんだ。
 しかし、収穫量は豊作と言われる年と同基準になった。
 短期間でこれほど改善された理由は人員の補充、それだけである。
 報告によると、農村人口の増加だけじゃなく、モンスターや猛獣の排除が最たる理由だとのことだ。
 農民が農業に集中することができ、農作物を食い荒らすモンスターに煩わされることもなく、人を狙った肉食動物やモンスターに対抗する必要もなくなった。
 俺の考える以上に、農村の自警が大変だったというわけである。
 
 農村からの最終的に集まった税収は、昨年と同程度になった。
 あれほどの重税を課していた昨年と、である。
 同額なのはあくまで税として見た場合だけ。余剰分は王領内をくまなく巡回するようになった「王の商隊」が買い取り、農民たちは生活必需品だけでなく嗜好品も買う事ができるようになっている。
 商取引が増えることによって、内需が拡大し王国内経済が活性化した。
 王の商隊の利益は商隊の運営費を差し引いても、相当な利益をあげている。それだけじゃない。
 取引量が増えると、今度は物の消費による税が入る。
 経済活動を重視しておらず中世的な物の移動がなかった昨年までと比べるのもアレだが、商取引額は昨年比500パーセントの伸びとなった。
 これでもまだまだ、農村や王都、ピケなど大都市との流通は足りない。
 来年春までに、商隊の数を三倍くらいまでに増やそうとしている。また、行商人になる者も増えてきたのでこの分野は倍々ゲームで伸びていくことだろう。
 
 さてもう一方の肝入り政策である新規開拓はというと。
 
「イルー! よく来たね。今朝絞って湯煎したての牛乳だよ。持っていって」
「ありがとう。順調そうだな」
 
 麦わら帽子を被ったアルゴバレーノが尻尾をパタパタ振りながら、俺の元へやって来る。
 彼女から二リットルほどの牛乳が入った瓶を受け取り、礼を述べる。
 俺はちょくちょくと街の外に顔を出していて、様子を見ていた。
 来るたびに牧場が拡大していて、来年のためにと農地の整備まで始まっているんだ。
 今日もちょっとした時間ができたから、ここへ訪れた。
 犬耳らが鶏に突っつかれている姿にくすりときていたら、アルゴバレーノがにいいっと笑みを浮かべ人差し指を立てる。

「テシオ爺さんがいてくれたからさ」
「あの人、馬が専門だとか言ってたような」
「牛も羊も鶏も草食竜も全部さね」
「へえ。そいつはすごいな。他のご意見番らはどうだ?」
「みんなそれぞれいろんなことを教えてくれるよ。ほら、そこも」

 彼女が指し示す場所は農地の予定地だった。
 大きな岩を取り除き……お、あのライオン頭は怪力自慢のダンダロスか。
 彼ほどの戦士を街の郊外に、は惜しい気持ちがあったけど、本人の希望だったから致し方ない。
 あれ。あの場所って農地だよな。
 
「柵を作っているのか?」
「うん。牛をあの場所に移すのさ。牛を飼育している場所に作物を植えるといいんだって」
「なるほど。案外、この辺りって痩せた土地だったのか」
「あたしにはさっぱり。爺さんたちが来てくれなかったら、と思うとゾッとするよ」

 ご意見番たちは体こそ満足に動かすことができなくなっているが、長年の経験からくる的確なアドバイスを行ってくれている。
 彼らが頭脳となり、元気いっぱいのアルゴバレーノたちが実作業をすることで従来の農村と変わらぬ力を発揮しているようで何よりだ。
 人間と獣人、年長者と若者と隔たりがあるかもしれないと心配したけど、全くの杞憂だったようでよかった。
 都市部近郊で農業や牧畜をすることは、大きな意味がある。
 何も空いてる土地を活かすということだけじゃあない。
 
「育てる野菜なんだけど、葉物がいいかもしれん。腐りやすいものは遠方からだとなかなかな」
「牛乳と同じことだね。相談するよ」
「頼む」

 話が早くて助かる。
 現代の日本であっても、近郊野菜は市場のシェアを多く占めている。
 輸送距離が短く、朝に収穫したらその日のうちに市場に並べることができるのが強みだ。
 ミレニア王国では冷蔵技術や殺菌技術なんてものが発展していないから、都市のすぐ外で収穫できる生鮮食品の効果は計り知れない。
 牛乳や肉にしたって、新鮮なうちにお届けできるのだからな。
 チーズや干し肉ならともかく、保存の利かない食料品は都市部じゃあ食べることができないのだ。
 魚にしたって港街であるピケならレストランに行くと普通に食すことができるけど、ミレニアだったら極一部の店でしか食べることができない。
 
 そんなわけで、都市部への食料品は常に供給不足である。
 アルゴバレーノたちの頑張りで、豊富な種類の食品が街へ供給され食生活が豊かになり商業活動も更に活発になることだろう。
 
「じゃあ、戻ろうか、桔梗」
「……何か来ます」
「ん。もうついていてもおかしくはないけど」
「いえ、少し……」

 この後、人と会う予定がある。
 王国には封建領主と呼ばれるヴィスコンティのような土地持ち貴族が幾人もいるのだ。
 その中で早めに会っておきたかった貴族が二人いる。
 彼らの真意を問う意味でも、王領の内政が一通り済むまでコンタクトを取ることを控えていた。
 そろそろ頃合いだろうということで、一方を呼び出したんだよ。
 それで、ようやく会える日になったわけなのだけど……桔梗の様子からして全く別の案件みたいだ。
 彼女の声色から、招かれざる来客のようだけど、俺に会いに来たのかどうかは不明。
 そもそも、街には毎日多くの者が外から来る。ピンポイントで俺宛なんてことは滅多にない。
 
 疾風のように駆けてくるしなやかな動きは黒豹頭のカラカルか。
 彼もまたアルゴバレーノと共にここで家畜を育てている。
 
「イル。お前の知り合いか? アレは」
「何のことだ?」
「アレは普通じゃない。俺の尻尾が危急を告げている。悪い意味でな」
「桔梗が言っていたものと同じかな。どんな奴らなんだ?」
「変わった形の馬車に乗っている。黒に薄紫。引いている馬のようなものが。見た方が早いな。もう来る」

 黒と薄紫……。ひょっとして、カボチャの馬車に乗っているとか?
 真っ直ぐこちらに向かってくる馬車がようやく俺の目にも見えた。
 ビンゴかよ!
 引いている漆黒の馬には首から先がない。
 実際に会ったことはないが、一体何用だ。ウラド。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...